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能町みね子×「雑誌の人格」担当編集者対談&「TV Bros.」の人格プロファイル

連載「久保みねヒャダこじらせブロス」「猫のつまらない話」でお馴染みの能町みね子さんが、雑誌『装苑』で10年間続けてきた連載「雑誌の人格」がついに完結! この夏、めでたく完結編の『雑誌の人格 3冊目』が発売となりました。「雑誌の人格」とは、ある雑誌の想定読者層を「(雑誌名)さん」(例:ノンノさん、アニメージュさん等)と呼び、どんなパーソナリティなのかを能町さんがプロファイルするという内容。連載中の苦労話や10年の間に起きた変化について、能町さんと連載担当編集の装苑編集部吉野みどりさんに伺いました。
そして、こんなに縁深いのになぜか人格化されなかった『TV Bros.』も人格化! ものすごくリアルな「テレビブロスさん」が浮かび上がりました。

※文中で登場する雑誌の出版元については、「雑誌の人格」掲載時の版元名で記載しています。

『小悪魔ageha』でしれっと連載スタート

――10年に渡る雑誌プロファイリング、お疲れ様でした。随分前のことですが、連載スタート時のことって覚えてますか?

能町:当時『小悪魔ageha』(インフォレスト刊、1冊目収録)が中身も売れ行きも勢いがあって、どこかで『小悪魔ageha』について書きたいなと思ってたんですよ。

吉野:「雑誌の人格」の連載が始まったのが2010年の1月号なんですけど、このページには企画詳細が特に書いてなくて、唐突に始まってるんです。そのことは『Maybe!』(小学館刊・雑誌の人格 3冊目収録)をやった時に編集長の小林さんに指摘されて私も初めて気づいたんですが。

能町:1回目の掲載誌を見ると、確かに急ですよね(笑)。

吉野:“文筆家の能町さんが雑誌を人格化しますよ”とかそういう説明は一切なく。初代担当者が退職しているので、当時のことはわからないですが、まるで昔からやっていたかのように。

能町:新連載! とかいう煽りもなく。しれっと始まってる(笑)。

吉野:「JAM」(装苑の連載などを含むカルチャーページの総称)の1コーナーだったから、目次にも作家名が載らず「magazine」としか書いてなくて。リニューアル号じゃないんですけど、何年に一度か、1月号から新連載が始まったりするので、そんな感じですんなりスタートしてるんですよね。

――能町さんは『装苑』初登場でいきなり連載だったんですか?

能町:その前に一度、菓子研究家の福田里香さん経由でお仕事をしてますね。福田さんは『装苑』で連載をされてるんですけど、その繋がりで2009年10月号の『装苑』の特集ページでお仕事をさせてもらったことがあって。「装苑男子特集」で福田さんと「男子図鑑 男子シーンを斬る!」という企画で色々な○○男子について語ったり、私の理想の男の人をイラストにしたことがあったんです。

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吉野:心の中で好きなタイプの妄想男子を育成している、みたいなテーマで能町さんは長身で細身の男子を描いていましたね。

能町:自分の中の“推し”をイラスト化したんでした。今読むと恥ずかしいですね。当時のイラストを見ると、なんか私全然絵が進歩してないな……。

吉野:いやいや、完成されてたんですよ! ブレがない。この時は、こういう「●●男子」というフレーズが流行ってましたよね。

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『装苑』2009年10月号より

能町:そのあとに『装苑』編集長から「世の中で起きていることをテーマに、そのファッションについても考察する、イラストを生かした読み物ページの連載をしませんか」という趣旨のメールをもらって。声かけてもらった時は、漠然としてたんです。

吉野:「雑誌の人格」とは全く関係のないコラムのページみたいなイメージだったのかな?

能町:いかにも『装苑』っぽい連載イメージですね。そのあと、担当が決まって、打ち合わせに行ったあと初代担当から「『JAM』の皆川明さんが連載をやっている枠での掲載を考えています」とメールをもらったんですよ。

吉野:皆川さんの連載は、タイトルを変更して「JAM」から巻頭へお引越ししたんです。そのあともすごく長く連載されていました! 書籍にもなったんですよ。

ーー皆川さんの連載枠の一発目で『小悪魔ageha』なんて、すごい振り幅(笑)。『装苑』の懐の深さを感じます。

能町:『雑誌の人格 3冊目』内でも書いてるけど、最初の打ち合わせで「何か書きたいことはありますか?」と聞かれて、その後の連載プランは特になかったんだけど、とにかく『小悪魔ageha』について書きたくて始まったんですよ。


人格化が難しい雑誌としやすい雑誌

――その後はどういう基準で取り上げる雑誌を選ばれたんでしょうか? 2回目は『sweet』(宝島社刊、1冊目収録)で、てっきり売れてるファッション雑誌をやっていくのかと思ってたから、3回目は『Regina』(ALBA刊、1冊目収録)という女性向けゴルフ雑誌でした。

能町:『sweet』の時は、「世間的に流行っている雑誌の読者を人格化してみよう」と思ったんですよね。確かその頃って宝島社の雑誌に付録が必ず付くようになってて、世間的には賛否両論があった時代だったんです。私はどっちかというとその動きに反感があったんだけど、本体の雑誌はどういう感じか一度読んでみようと思って、当時勢いがあった『sweet』にしてみたんです。でも、付録で部数が伸びてるとしたら、想定読者の幅がすごく広がるから、人格化するのが難しいんですよね。それで3回目からは、書店で純粋に気になった雑誌を取り上げるほうがいいなと思い『Regina』を選んだという記憶があります。とはいえ、選ぶ基準は行ったり来たりで、それ以降は世間的に流行ってたり、話題になっている雑誌もやったりしたし。

吉野:『真夜中』(リトルモア刊、1冊目収録)とか『美STORY』(光文社刊、1冊目収録)とかね。

ーー『TV Bros.』もそうですけど『CUTiE』(宝島社刊)や『Zipper』(祥伝社刊)のような歴史が長くてメジャーな雑誌を取り上げなかったのは何か理由があったんでしょうか?

能町:そうだっけ? 私『Zipper』は完全にやったと思ってた!

吉野:『Zipper』増刊として誕生した、姉妹紙の『nina’s』(祥伝社刊、3冊目収録)を人格化した時にちらっと『Zipper』に触れてるから、やった感じがしたのかも。

能町:そうかも。『Zipper』をやらなかった理由は覚えてないんだけど、『CUTiE』をやらなかった理由はあるんですよ。『sweet』をやった時に、付録の存在が強くて人格をプロファイルするのが難しかったから、宝島社のファッション雑誌の人格化を避けちゃったんです。休刊(2015年)直前の『CUTiE』は、私が知ってる“原宿” “ストリート” “個性派”が前面に出てた頃とは違う、ちょっとガーリーな雰囲気になってた時期だったし、ちょっと難しいかなと。同じ宝島社でも、『GLOW』(宝島社刊、1冊目収録)は40代向けの女性誌で、結構性格がはっきりしてたからそんなに苦労しなかったかな。

ーー確かに、ファッション雑誌をたくさん出している割に、宝島社の雑誌が取り上げられた回数は少ない感じがしますね。

能町:『InRed』『steady.』『SPRiNG』もやらなかった。

吉野:取り上げたのは『mini』(宝島社刊、2冊目収録)、『リンネル』(宝島社刊、2冊目収録)、あと『otona MUSE』(宝島社刊、3冊目収録)も。10年間を振り返るとちょこちょこやってはいますけどね。

能町:ファッション雑誌に付録が付いてるのがだんだん当たり前になっていったからかな。連載初期は、付録よりも誌面から主張や個性を強く感じる雑誌の方が人格化しても面白くなるかなと思ってました。

吉野:あとは取り上げる時代によって、雑誌のあり方が変わってきましたしね。能町さんは同じ雑誌を時間を置いてからもう一回取り上げたいって、よく言ってましたよね。

能町:そうそう、10年も続けているとリニューアルする雑誌ができてきて、かなり変わった雑誌がいくつかあるんですよ。『Fine』(日之出出版刊・1冊目収録)とか相当変わった。

吉野:1冊目でやった時はサーフ&ストリート雑誌だったんですけど。

能町:ちょっといけてるおじさん路線に変わったように見えたの。ロゴもまるで変わってる。

吉野:大人向けになったんですかね。

能町:今の若い人ってサーフィンやらないからかも。あと人格化が難しかった雑誌としては『saita』(セブン&アイ出版 3冊目収録)はやってみたものの、難しかったなー。同じような主婦向けでも『ESSE』(扶桑社 1冊目収録)の人格化はしやすかったんだけど。

吉野:『saita』は赤裸々なダイエットの記事が多かったですね。

能町:読者モデルがダイエットに挑戦した記録を載せてるんだけど、女性誌のダイエット特集でよくあるように「こんなに減った!」とか効果のあったダイエット法を紹介してるんじゃなくて、克明に「500gしか減ってない」とかでも普通に載せてたのが印象的でした。


雑誌は疲弊したりモテたくなっていった

ーー『雑誌の人格』を3冊通して読んでみて気になったのが、だんだん疲れている雑誌が出てきたこと。1冊目で人格化した雑誌は基本元気一杯だったんだけど、2冊目から疲れている雑誌が出てきて、3冊目には3冊も。世相の問題ですかね?

能町:そうかも(笑)。世相を反映してますねー。

吉野:時代はかなり反映されてるのかもしれないですね。1冊目の頃というと2010年〜2013年頃。この時はまだ疲れてる雑誌はないんだ(笑)。

ーー最初に疲れてたのは『mamagirl』(エムオン・エンタテインメント刊、2冊目収録)さん。次に疲れてたのが『ことりっぷマガジン』(昭文社刊、3冊目収録)さん。『PRESIDENT WOMAN』(プレジデント社刊、3冊目収録)さんなんて人格化した時のキャッチが“泣きたい気持ちを悟られないように”。

能町:「プレウー(PRESIDENT WOMAN)さん」はめちゃくちゃ疲れてるよ。

吉野:うん、彼女はめちゃくちゃ疲れてましたね。

ーーあと『姉ageha(お姉さんアゲハ)』(medias刊・3冊目収録)は男とうまくいってなくて疲れが見えます。

能町:「姉アゲハさん」はすごかった。ボックスティッシュのランキングとか載ってるんですよね。『LDK』(晋遊舎刊、2冊目収録)以上の「実際」が載ってるんだけど、決して商品のスペックのランキングではないんです。読者が好きかどうかのランキング(笑)。あと、自分が家に帰ってからのスケジュールを、分刻みで書いてたりするんだよね。

吉野:そのほかにも膨大なアンケート結果が円グラフになってたり。

能町:写真付きで、何時何分に何をするという記録を何人かがザーーッと表にしてるのが載ってたりね。

ーー能町さんが3冊目のインタビューの中で、記憶に残ってる雑誌として取り上げてたひとつに『婦人公論』(中央公論新社刊、1冊目収録)があったと思うんですけど、確かに記憶に残るインパクトがありましたね。イラストの文字が『婦人公論』だけ筆ペンでした。

能町:そうそう。

吉野:彼女も疲れてますよね(笑)。

能町:最初に疲れてるのは1冊目の「婦人公論さん」かも。あ、でもそれより前にやった『日経ウーマン』(日経BP社刊、1冊目収録)もちょっと疲れてるんですよね。「実家に帰ると誰かいい人いないの? とか言われる」とか。この辺の人格の疲労感は今も変わってない感じがします。

吉野:雑誌を購読する層が年を重ねていくとともに、人格化した雑誌もそれなりに大人な年齢になるから、疲れている人格が増えたのかもしれませんね。

ーー『雑誌の人格』を読むと、改めてファッション誌は「異性にモテたい」「他人にこう見られたい」という目的がはっきりしてるなと思うのですが、3冊目にして“今時珍しいぐらいガツガツしている”という評され方がすごく出てきましたよね。

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3冊目で取り上げた「クラッシィ(CLASSY.)さん」も結婚願望が強い人格の一人。

吉野:「結婚したい」という主張がある雑誌が3冊目にはすごく出てきましたよね。

能町:私のイメージでは、雑誌は本来恋愛や結婚にガツガツしてなかったんですよ。「恋愛が全てじゃないじゃん」「自分の好きなことをしよう」というスタンスの雑誌のほうが元気に見えてたんですけど、最近になって逆に「モテるためには」「結婚するためには」みたいな記事や書き方が増えてきた。1冊目2冊目の頃は、まだ「自分のために好きな服を着る」人が雑誌を買ってたんだけど、今では「モテたい」人しか雑誌を買わなくなってきたのでは? という気がするんです。すごくさみしい結論なんですけど。

吉野:あー、そうかもですね。その点『装苑』は「モテ」とは縁遠いですが(笑)。

能町:『andGIRL』(エムオン・エンタテイメント刊、3冊目収録)と『美人百花』(角川春樹事務所刊、3冊目収録)は21世紀に創刊された、割と新しい雑誌なのに予想外に保守的だったから、そういう話を書いたんですよね。自分のためにお洒落を楽しんでる人は、今だとInstagramとかSNSにいっちゃうんでしょうね。本当は『FRUiTS』(ストリート編集室刊)とかやりたかったんですけど、2017年で月刊終了しちゃった。『FRUiTS』はひたすら超個性的なファッションの人たちのスナップ写真だったから、分析が大変そうでためらっていたら定期刊行終了になっちゃったっていう感じでしたね。あとやりたかったけどやれないまま終わっちゃった雑誌に『KERA BOKU』(インデックス・コミュニケーションズ刊)もあります。日常的に「男のコスタイル」を楽しむ女の子のための雑誌でした。ああいう唯一無二な雑誌はぜひ人格化したいんだけど、そんなにたくさん売れるわけじゃないから今は継続が難しいんでしょうね。

吉野:そうですね、個性的な雑誌は特に。『KERA BOKU』が出てたのは2011年〜2013年頃でした。

能町:『KERA BOKU』がうまくいかなかったかと思ってたら『Men’s SPIDER』(リイド社刊・2冊目収録)が出てきて、衝撃でした。「メンスパさん」は取り上げられてよかったな。残念ながら休刊しちゃったけど。『Men’s SPIDER』はスタート地点が『KERA BOKU』とは全然違うのに、男装の女の子を取り上げたりと、ビジュアル的には割と近いところに着地してる面白さがありましたね。

吉野:“ヴィジュアル系ホストスタイル”、略して“Vホス系雑誌”でしたね。今の歌舞伎町のホストの主流は『MEN'S KNUCKLE』(大洋図書刊・3冊目収録)になるのかな?

ーー10年間振り返って、雑誌たちが疲れてきて結婚願望が強まってるのは興味深い気づきでした。毎月雑誌を選んで人格化する作業の中での思い出は何かありますか?

能町:やっぱり雑誌読みながら吉野さんと色々考えたりするのが楽しかったですね。最初のうちは国会図書館へ行って、おしゃべり禁止だから黙々と二人でメモしながら静かに読んでただけだけど。国会図書館にない雑誌も結構ありました。

吉野:最初に蔵書を調べてから行くんですけど、ない時は都立多摩図書館まで行ったこともありましたね。当時、立川市にあった雑誌の図書館。

能町:今は国分寺市にあるんだけど。大宅壮一文庫には意外と行かなかったですね。

吉野:あと文化学園の図書館もたまに。

能町:最初の頃は創刊時含めて何冊もバックナンバーを読んでたけど、だんだん最新号から1、2年ほど遡るくらいでいいのかな、となって。『雑誌の人格 3冊目』あたりでやった雑誌は、3~4冊くらいで分析してたから、買ったり、文化の図書館で借りたりしたほうが早くて、その雑誌を持って文化学園内のカフェで思う存分喋りながらやるっていう風になりましたね。
どうでもいい思い出としては、国会図書館で何冊かまとめて書架から出してもらう間、30分くらい待ち時間があるんですよね。吉野さんとはその間にご飯を食べに行ったりしてたんだけど、初代担当の井上さんとは、何をするでもなく、ただじっと黙って待ってたんです。図書館のカウンターにいる若めの司書の方々を眺めて、ちょっと文系のバンドっぽいね、って話をしてて。「National Library Counter」っていう文系のバンドっていう設定にして。毎回「あの人がギター、あの人はドラムっぽい」って妄想してました。人が変わるから毎回メンバーチェンジになっちゃうんですけど(笑)。

吉野:月一で行くから毎回同じ人がいるわけじゃないんですね。

能町:そう、たまにパンクの人が入るんですよ。スキンヘッドでいかつい顔だったりするからパンクスってことにしてるだけなんだけど。ていうのが、どうでもいい思い出です(笑)。懐かしいな。

初めて買ったTV Bros.と当時の思い出

―せっかくなので『TV Bros.』も人格化してもらおうと、定期刊行を終了する直前までを5冊と、能町さんが愛読者だったということで、初めて買ったであろう『TV Bros.』もご用意しました。

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