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VR演劇にとって「場所」とは何か?●タニノクロウ(庭劇団ペニノ・タニノクロウ秘密倶楽部)インタビュー

東京芸術祭2020で話題を呼んだVR演劇『ダークマスター VR』。それに続くタニノクロウの次回作『MARZO VR』もVR演劇なのだという。VR演劇の持つ可能性や、演劇・劇場の今後のあり方についてタニノに話を聞いた。
取材・文/前田隆弘

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たにの・くろう●’76年、富山県生まれ。’00年、医学部在学中に庭劇団ペニノを旗揚げ。以降、全作品の脚本・演出を手掛ける。ヨーロッパを中心に、国内外の主要な演劇祭に多数招聘。’16年『地獄谷温泉 無明ノ宿』にて第60回岸田國士戯曲賞受賞。'16年北日本新聞芸術選奨受賞、第71回文化庁芸術祭優秀賞受賞。
【公演情報】
タニノクロウ秘密倶楽部
『MARZO VR』

作・演出・監督:タニノクロウ
期間:2020/12/22(火)〜28(月)
場所:BUoY(東京・北千住)
料金:前売・当日¥2,200
開演時間は12〜15時・17〜20時の毎時00分 ※28(月)のみ19時最終
各回定員5名、上演時間は約30分

ある日あなたは病室で目を覚ます。
見知らぬ看護師姿の女性たちに囲まれている。甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてくれる彼女たち。
どうやら何か重い病気にかかっているのか?
妙な薬を無理やり飲まされると、身体が動かなくなってしまう。
すると女性たちは不敵な笑みを浮かべ、手術室へあなたを運び出す。
次は何をされるのか…。
新感覚の体験型VR映像作品。
※VRゴーグルを装着して鑑賞する作品です。

すべての演劇人がそうだったはずだが、庭劇団ペニノ主宰・タニノクロウにとってもこの1年は大きな変動があった年だった。

「稽古や撮影をやっている間は楽しいけど、その後の交流ができないから、そこに虚しさを感じるんですよ。それを残念と思っていると空虚感が増すだけだから、自分を変えなきゃとは思っているんですけど。それともう一つ、演劇って密集してやるものなので、それがNGとなると演劇や劇場のあり方も変わってくる。演劇ってもう過去の文化なのかな……と思わせる程のインパクトがありました」

この1年で演劇から失われたものは、劇場の公演だけではない。劇場の帰りに、観客が語り合って感想を共有する──それはおそらく演劇の重要な要素なのだが──その行為も失われた。

「それは大きいですね。配信でライブチャット的なものはありますけど、あれはその瞬間をどんどん切り取る、短い言葉の積み重ねなので。ライブチャットでリアルタイムで作品が切り取られていくのは、少し残酷さも感じるんですよね。劇場って公演中は席を立てないし、話せないし、不自由な空間じゃないですか。だからそのぶん頭を働かせるしかない。そこでいろんな思考が生まれるわけですけど、逆に言うと、そこに僕は……あるいは演劇は甘えていたのかもしれない、と最近は考えていますね」

そんな中で生まれたのが、劇団の代表作をVR作品化した『ダークマスター VR』だ。公演は鑑賞者が劇場に集まってヘッドセットを装着するという方式を取っていた。それはVR機材がまだ珍しいせいもあるだろうが、もし一家に一台レベルで普及していたら、各家庭での鑑賞も可能だということなのか。それともVR公演であっても「場所」は重要と考えているのか。

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(『ダークマスター VR』会場写真)

「場所は、将来的にはたぶんなくなるんだと思います。今回は会場で匂いを出してましたけど、ヘッドセットにその機能を付けることはいずれ可能になるし、VRが当たり前になると、『3LDK+V』みたいにVR用の部屋を作る時代が来るのかもしれません。要は『レディ・プレイヤー1』みたいな世界に近づいていく。ただ、どうしても劇場でやりたかったことがあって、それはヘッドセットやヘッドフォンを付けてキョロキョロしている様を最後に見せたかったんです。マジックミラー越しに、参加者がお互いに見合って同じ格好をしている姿……ちょっと間抜けな姿を体感してほしかった。そこに体感性というかリアリティーを感じてほしかったので、やっぱり劇場でやりたかったというのはあります。あと、個室化してしまうとお互いが見えなくて緊張感が失われるので、ある程度お互いが見える構造にして、それも演出効果として加えました」

『ダークマスター VR』で筆者が最も印象的だったのは視線だった。見知らぬ他人から至近距離でまじまじと見られることは日常生活ではまずない。AVのVRでの視線は「親密さ」であるが、『ダークマスター VR』での視線は居心地の悪さ、あるいは恐怖を感じるものだった。

「現状、3DVRがハマるジャンルって、やっぱりホラーとエロなんです。その2つをどう作っていくかは気を付けました。その1つが視線なんだと思います。やっぱりずっと見られるのは怖いですから。視線は重要な要素ですね」

次回作『MARZO VR』もVR演劇。脚本の段階でVRを想定していた。

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「VR作品として書きましたけど、もっと言うとライブとVRをミックスさせるつもりで書いてました。今回はVRのみですけど、ゆくゆくはライブと合わせてやりたいなと。今回は病院の話なので、場所も廃病院風にしたいと思ってます」

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