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なんか変わってきた! 桂浜水族館の日々【おとどちゃん書き下ろしエッセイ】

ネットやTVで何かと話題の桂浜水族館ですが、1月には3冊目の書籍となる『桂浜水族館公式BOOK ハマスイのゆかいないきもの』が発売に! 広報担当・おとどちゃんが、ニュースに事欠かないハマスイの日常の喜びや悲しみを書き綴ってくれました。コロナ禍以降の変化や、立て続いて誕生した新しい命や新たな出会い。命の尊さが伝わる愛に溢れたエッセイを、愛くるしい写真とともにお届けします!

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ハマスイの海獣・魚・人全てを紹介している一冊です!

文/桂浜水族館・おとどちゃん

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 高知県高知市の名勝「桂浜」の浜辺に建つ田舎の小さな水族館、「桂浜水族館」――。昭和6年に初代館長である永國 亀齢(ながくに きれい)が地元の友人に働きかけ、土佐湾の種々の魚を生かして見せる水族館と釣堀を開設したことから歴史が始まった。

 私がここで公式マスコットキャラクター「おとどちゃん」として生まれてから早いもので5年が経とうとしている。生まれる少し前のこと、来館者の激減に重なり起きた職員の一斉退職は、全国的にも有名なニュースとなり、浜辺の小さな水族館は「高知の恥」として晴れて地元民たちの嫌われ者となった。このままではいけないと創業85周年を迎えた折、“なんか変わるで 桂浜水族館”をスローガンに掲げて図った起死回生。館長と私、新しく集った仲間たちは、水族館に覆い被さった深く濃い闇を払拭すべく立ち上がった。「古い」「暗い」「狭い」「汚い」「入館料が高い」「なにもない」――。高知県民にとって桂浜水族館は、幼い頃に遠足で行ったのが最後というのが当たり前で、「高知県民は桂浜水族館なんか行かんき」と笑われ続けてきた。マイナスをプラスに変えるために、私たちはがむしゃらだった。都会には新しくて綺麗で大きくて近未来のような水族館がたくさんある。

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Youtubeを運営している飼育員まるのんと今年から仲間入りしたミナミアメリカオットセイ。ハマスイのYoutube、チャンネル登録してや!

 そんな中、時代に取り残されたような見た目の貧乏水族館が生き残りをかけて見出したのが、当時はまだどこも力を入れていなかった「飼育員にスポットを当てること」だった。今こそ受け入れられるようになったが、発信を始めた頃は「飼育員なんていらない」「水族館なんだから魚で勝負しろ」「イベント情報だけ流してろ」「気持ち悪い」と毎日のように言われたものだ。

 何度となく心が折れそうになった。ふと胸に深く突き刺さってくる暴力的な言葉に、築いてきたものを全部台無しにしてどこか遠くへ逃げてしまいたいと思うこともあった。だけど館長が笑うから、「おとどちゃんはおとどちゃんのままでいいんだよ」と笑ってくれるから、私もつられて笑って、自分の愛を信じていられた。誰になんと言われようと、自分の愛を信じ続けようと思えた。飼育員たちもそんな私を抱きしめてくれた。生きものたちに向ける愛と同じ優しさで抱きしめてくれた。

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人懐っこいカリフォルニアアシカのケイタと飼育員ヤブ(上)とミナミアメリカオットセイのキネンと戯れる飼育員サメ(下)。


 令和2年、突如世界中に蔓延し始めた新型コロナウイルス。その感染拡大を受け、当館は戦後初めて約1カ月に及ぶ長期休館となった。しかし休館しているとはいえ、私たちのすべきことは変わらなかった。飼育員は毎日生きものたちのいのちを明日に繋ぐ。私はその景色を相も変わらずツイッターで発信し続けた。

 新型コロナウイルスが私たちに与えたのは「死」の恐怖だけではなかった。

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