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『アウトポスト』『野球少女』映画星取り【2021年3月号映画コラム①】

いよいよプロ野球のシーズン到来! ということで野球映画を取り上げています。今年はどんなドラマが見られるのか、楽しみです。ちなみに『アウトポスト』は野球用語ではなく、ミリタリーものです。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。2月14日(日)19時、ロフトプラスワンWESTからライヴ&生配信の二本立てで、大阪アジアン映画祭最速総評トーク。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」は2月26日(金)20時から。YouTubeチャンネルで見てね。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:GG賞外国語映画賞『ミナリ』、素晴らしいです。ベテラン俳優ユン・ヨジョンさんにもスポットが当たっているようで嬉しい限り。


『アウトポスト』

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監督/ロッド・ルーリー 脚本/エリック・ジョンソン 出演/スコット・イーストウッド ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ オーランド・ブルーム ジャック・ケシー マイロ・ギブソンほか
(2020年/アメリカ/123分)
●2009年、アフガニスタンで前哨基地の米軍が寡兵をもって多数のタリバン兵に立ち向かった「カムデシュの戦い」を映画化。補給路を維持するための前哨基地はその立地条件に弱点があり、タリバン兵がしきりに銃撃を加えていた。そんな中、米軍が恐れていた、多数のタリバン兵による総攻撃が開始される。

3/12(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
©OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020
配給/クロックワークス

柳下毅一郎
カメラが目となり、手となる
カメラが一人の兵士となり、兵士の背中について硝煙の中を走りぬける! アクションカムで撮ったのかという驚くべき主観映像で臨場感はこれ以上ないほどド迫力。昨今流行りのFPS風戦闘もついに決定版が登場したか。でも、そのおかげで近代兵器で武装した米兵が言葉も通じない外国に乗り込んで「前哨基地」を設営し、ワラワラと湧いてくる蛮族を薙ぎ払うという状況の差別性も嫌というほど見えてくる。
★★★★☆

ミルクマン斉藤
生き残りが自分を演じてたりもするみたい。
いかに要所とはいえ、こんな攻められ放題な場所に作るか? という前哨基地が舞台だけあって、隊を統率する大尉が次々交代、それがチャプター替りになっているのが面白い。このテの戦争ものにありがちだが、全員同じ野戦服を着ているので兵士個々人が判別しにくく、ようやく判ってきたころには全編の半分弱を占めるタリバン襲撃を迎えてバタバタと死んでいく。完全に敵はゾンビ的描写だが、その『リオ・ブラボー』タイプの立てこもり戦は小型キャメラあればこその臨場感でなかなかのもの。
★★★半☆

地畑寧子
劇映画というより実録再現映画
タリバンの絶え間ない銃撃、爆破、仲間の目前爆死のショックでイカれる兵士、苦境を象徴する指揮官のおびただしい交代、戦闘時のバタバタの銃弾補給など、バトルシーンが大半のリアリティに特化したアフガン戦闘もの。苦渋をなめてきた地元民との協調という米軍の浅い作戦もきっちり描き込んでいる点もさすが。ただ〆の勲章の羅列はどうしたものかと。ここに感動するか興ざめするか分かれますね。
★★★☆☆


『野球少女』

驥守帥蟆大・ウ_邏譚・繝。繧、繝ウ

監督・脚本/チェ・ユンテ 出演/イ・ジュヨン イ・ジュニョク ヨム・ヘラン ソン・ヨンギュほか
(2019年/韓国/105分)
●球速134キロを放る能力を買われ、韓国で20年ぶりの高校野球の女子選手になったスインは、高校卒業後はプロ野球選手を目指していたが、女性というだけで正当な評価をされず、プロテストも受けられず、家族からも反対されていた。そんな中、プロへの道を断念した過去を持つ新人コーチと出会い、プロを目指して猛特訓が始まる。主演はドラマ『梨泰院クラス』で注目を集めたイ・ジュヨン。

3/5(金)TOHO シネマズ 日比谷他全国ロードショー
© 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED
配給/ロングライド

柳下毅一郎
恋愛はあるけど恋愛映画じゃない
とっても政治的に正しいフェミニズム女性エンパワメント映画なのだが、それが同時に万人が楽しめる正統派スポ根になっているという素晴らしさ。野球の才能にはあふれているけれど、体力は男子に絶対にかなわない野球少女が、プロをめざして不可能を可能にする。マニキュアをはじめとする小道具の使い方が心憎く、細部の巧みさが感動に結びつく。老若男女、誰にでも胸を張っておすすめできる笑って泣ける娯楽映画だ。
★★★★☆

ミルクマン斉藤
凛とした主人公の魅力がほぼすべて。
かつて「天才野球少女」ともてはやされた女性がそのままあきらめずプロへの道に固執するところに、やはり強烈にジェンダー問題への提起が見てとれる。でも強固に反対する主人公の母親や、男性コーチの心の変遷など展開が予想を全く裏切らず、無難に現実的なところに着地するのも物足りない。イ・ジュヨンは『梨泰院クラス』でブレイクしたそうだが(僕は未見)、なんつっても2019年の大阪アジアン映画祭グランプリを意外にも(?)獲った怪作『なまず』が圧倒的で、どうせならそっち公開してよ。
★★半☆☆

地畑寧子
スポ根もの超えたスポーツ感動作
現実を見ろという大人たちが提示する数々の妥協に一切応じない、主人公スインの言動に一番心を動かされる、新機軸のスポーツ感動作。家庭環境を含め全ての理不尽を実力で克服してきたスインの自信、自分の実力に賭ける思いをイ・ジュヨンが静かな熱情で体現していて清々しい。現実主義の女親、夢想家の男親の構図も功を奏していて、男親が夢を追う娘の味方になる流れは、ベタながらも感涙にむせびました。
★★★★☆

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