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『幸せへのまわり道』『ブルータル・ジャスティス』映画星取り【8月号映画コラム④】

今回の映画星取りは、幸せになるには、焦って他者から奪うよりも、まわり道したほうが良い、という急がば回れ的な『幸せへのまわり道』『ブルータル・ジャスティス』の2本。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:ジェームズ・ガンのSuicide Squadは見たい気がしている。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。言いたい放題最新映画情報番組「CINEMA NOON」を配信中。次回は9月4日(金)20時からhttps://m.twitch.tv/noon_cafeで。YouTubeにもアップしてますので検索を。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:香港の名匠ベニー・チャン監督が逝去。テレビブロスでは『コネクテッド』で取材させて頂きました。陳木勝導演一路走好。

『幸せへのまわり道』

幸せへの

監督/マリエル・ヘラー 脚本/ミカ・フィッツァーマン=ブルー、ノア・ハープスター 原作/トム・ジュノー 出演/トム・ハンクス マシュー・リス クリス・クーパー スーザン・ケレチ・ワトソンほか
(2019年/アメリカ/109分)
●雑誌記者として活躍し、愛する妻子とともに暮らすロイドは、姉の結婚式に参加するが、その式場で絶縁していた父と再会する。その後、心のうちのわだかまりを抱えたまま、テレビ番組の人気司会者・フレッドを取材で尋ねたところ、フレッドは一目でロイドの葛藤や家族問題を感じ取る。ロイドもフレッドの人柄に惹かれて2人は友情を深めていくが……。トム・ハンクスが人気司会者フレッド・ロジャースを熱演し、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたヒューマンドラマ。

8/28(⾦)全国公開
© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc. and Tencent Pictures (USA) LLC. All Rights Reserved.
配給/イオンエンターテイメント

柳下毅一郎
謎のミスター・ロジャース
トム・ハンクスが演じる「ミスター・ロジャース」、全米の人気者であるお子様向け人形番組の司会者が実は……という話なんだが、そもそもこの「ミスター・ロジャース」、大人になった『ビッグ』とでもいうべき、非常に不気味な存在にしか見えない。むしろこの映画、その奥を探求し尽くしていないのではないかと思われるほどで、それくらいトム・ハンクスが謎に満ちていた。いちばんわからないのがこれが助演だってこと。
★★★☆☆

ミルクマン斉藤
もはやホラーのように不気味極まる。
トム・ハンクスが度々演じてきた「聖なる愚者」系列の極北。愚者どころか、Wikiにも載ってる幼児教育TVの先駆者なんだけど、これが自身のアンガー・マネジメントを番組にも応用し、いつしか大人含め全米をセラピー(つか洗脳)してしまったようなある種の怪人なのだ。彼の分身であるパペットも、温く教条的な自作の歌も、理想的小世界のミニチュアもすべてがうすら恐ろしい。彼の心の暗黒が一瞬噴き出るラストはもはやホラーである。例によってクリス・クーパーも名演。
★★★★☆

地畑寧子
トム・ハンクスにつきる
こそばゆいほど性善説に彩られたヒューマンドラマ。一歩間違えれば鼻につく品行方正な人物を、嫌みなく、生き仏ごとく演じられるのは、トム・ハンクスならでは。やはりトム・ハンクスは“米国の良心”ジェームス・スチュアートを彷彿させると再確認した次第。とはいえ、この作品も中国資本(テンセント/騰訊)がしっかり入っていて制作サイドは今日的ハリウッド。それにしてもこの邦題、近年酷似の作品があり紛らわしいです。
★★★☆☆

『ブルータル・ジャスティス』

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監督/S・クレイグ・ザラー 出演/メル・ギブソン ヴィンス・ヴォーン トリー・キトルズ マイケル・ジェイ・ホワイト ジェニファー・カーペンター ウド・キア トーマス・クレッチマン ドン・ジョンソンほか
(2018年/カナダ・イギリス・アメリカ/159分)
●ベテラン刑事のブレットと相棒のトニーは、強引な逮捕が原因で6週間の無給の停職処分を受ける。家族のために大金が必要なブレットはトニーを誘い、犯罪者間で取引される金を強奪する計画を立てる。2人はボーゲルマンという男を監視し、尾行する。監督は『トマホーク ガンマンvs食人族』『デンジャラス・プリズン 牢獄の処刑人』などを手掛けてカルト的人気を集めるS・クレイグ・ザラー。

8/28(金)新宿バルト9、梅田ブルク7にて公開
COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED
配給/クロックワークス

柳下毅一郎
一時間短ければ佳作だったかも
有色人種の容疑者の首を踏んづけて逮捕したせいで停職処分を食らう人種差別警官にメル・ギブソンというアテ書きみたいな映画を二〇一九年に作っていたのもすごいし、その後の展開まで含めてB級アクションの佳作になりえたアイデアだと思うんだがともかく長い! 全員の事情を説明するせいで長くなってしまうんだが、そうせざるをえないのも今の時代だからなのかもしれない。メル・ギブソンの相棒は健康に悪い職業ですね。
★★☆☆☆

ミルクマン斉藤
役者メル・ギブソンの作品選択は外れがない。
暗黒系フィルム・ノワールの逸品。派手な描写は極限に抑えつつも、ワンショットも疎かにしない美的なキャメラワークで160分を見せきる力量は凄い。ことに金塊積んだヴァンをどん詰まりバディ刑事が延々と、日常会話の領域でチェイスする夜のハイウェイ。そこから続く実況中継のような両者の駆け引きはおそろしく映画的。自作の曲を大御所オージェイズに歌わせるなどという監督の肝っ玉も大胆不敵(本人はヘビメタ出身らしいが、これが佳曲なんだな)。
★★★★

地畑寧子
メル・ギブソンの味わい
出世街道から外され、60歳手前でも安月給の刑事の悲哀を(トム・ハンクスと同い年の)メル・ギブソンが好演。ミネアポリスでの事件を想起させる巻頭の過剰逮捕の場面など警察官の生きづらさが描かれているのもいい。指とび、鍵取り出しの容赦なしの描写はいかにもザラー監督だが、三つ巴の人物背景を詰め込みすぎて長尺すぎ。ひとえに監督の映画オタクぶりが高じてだろうが、ウド・キア、トーマス・クレッチマンの起用にはニンマリ。
★★★☆☆

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