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『花束みたいな恋をした』『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』映画星取り【2021年1月号映画コラム②】

今回は出演陣が豪華な作品2本。まさに劇場映えする作品だけに、早く状況が良くなればなあ、と思います。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:偶然、観始めた『ギャング・オブ・ロンドン』が凄まじくてびっくり。これって、舞台を現代のロンドンに移した『ゲーム・オブ・スローンズ』のつもりで作っているんですかね? とても気に入りました!
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:細々「2020年偏愛映画ベスト10」を発表してみました~(https:// lee.hpplus.jp/column/1855550/)。
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:『花束みたいな恋をした』の劇場パンフレットに劇中に登場する映画ネタの解説を寄稿しております。


『花束みたいな恋をした』

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監督/土井裕泰 脚本/坂元裕二 出演/菅田将暉 有村架純/清原果耶 細田佳央太/オダギリジョー/戸田恵子 岩松了 小林薫ほか
(2021年/日本/124分)

●終電を逃したことから偶然出会った大学生の麦と絹。映画や音楽の趣味がほとんど同じだった2人は恋に落ち、卒業後にフリーターをしながら同棲を始める。日々の現状維持を目標に2人は就職活動を続けるが…。『東京ラブストーリー』などを手掛けた坂元裕二のオリジナル脚本で、『罪の声』などを監督した土井裕泰がメガホンを取る。

2021年1/29(金)TOHOシネマズ日比谷ほか、全国公開
©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会
配給/東京テアトル、リトルモア

渡辺麻紀
押井さん、出てますが…。
サブカルな会話やナレーションが多数登場するものの、そっちに対するこだわりや愛情をもつ人がメインのスタッフ&キャストにはひとりもいなかったんじゃないかと思ってしまった。そういうセリフがただ垂れ流されるだけで、キャラクターと物語の一部にまったくなっていないから、『王の帰還』や、“神”役で押井さんが出てきてもニヤリとも出来ない。2時間超えの作品ながら、ふたりの恋愛観も「観」というほど掘り下げられていないため、よくわからなかったのだが、もしかしたら彼らと同世代の人たちは納得&共感できるのだろうか。とりわけ女優は完全にミスキャストだと思った。この人、サブカルの香りがまるでしない。
★半☆☆☆

折田千鶴子
大人のための恋愛映画
ややマニアックなカルチャー通カップルの恋愛を、固有名詞をちりばめてお愉しみと共感度を強めながら、日常的エピソードを積み重ねていく。2人の何気ない悦びが、くすぐったく心の襞に入り込み、身に覚えのある“ずっと一緒にいられると思ってたのに”的な記憶の残滓を燻らせる。現実や諦念の濃度が増すごとに、どんどん息苦しくなっていき……。でも、恋と別れの繰り返しで大人になっていく――それも悪くはないなと思わせる後味が爽やか、且つ、鮮やか。ほろ苦い切なさで胸いっぱい!
★★★★☆

森直人
TVドラマのW名匠の底力
「きっかけは押井守だった」というナレーションのパンチラインがなかなか強烈だが、菅田将暉&有村架純演じる主人公の男女がオタクカップルで、2015年からの文化的トピックが刻まれた最新のクロニクル(年代記)でもあるのが面白い。映画は久々の脚本・坂元裕二と、『罪の声』から立て続けになるTBS系の監督・土井裕泰。ベテランなりの時代に寄り添う力と職人的な安定感が光る。例えば『ラ・ラ・ランド』(2016年)のように「恋愛の一部始終」を見つめた作品だが、最初に「ふたりはもう別れている」ことを提示してから、終わった恋の次第を追っていく構成がポイント。ビタースウィート&ハッピーサッドなお話ながら、爽やかな余韻が絶妙だった。
★★★半☆


『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』

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監督/シーロ・ゲーラ 原作・脚本:J・M・クッツエー 出演/マーク・ライランス ジョニー・デップ ロバート・パティンソン ガナ・バヤルサイハン グレタ・スカッキ デヴィッド・デンシックほか
(2019年/イタリア・アメリカ/113分)

●ある帝国が支配する辺境の町の民政官のもとに、秘密警察のトップである大佐が訪れる。大佐は、近く襲撃を企てているという蛮族を調査するため、拷問ともとれる尋問を蛮族とされる現地人に行う。民政官は過酷な被害を受けた少女を助けるが…。ノーベル賞受賞作家J・M・クッツエーの小説「夷狄を待ちながら」を映画化。

2021年1/29(金)より、未体験ゾーンの映画たち2021にて上映
© 2020 Iervolino Entertainment S.p.A.
配給/彩プロ

渡辺麻紀
ライランス、出てます!
優しさと大らかさで人と接する男と、権力と残虐性で人を操ろうとする男。そういう対照的な価値観の行き着く先に潜められた人間の普遍的な本質が悲しくもあり恐ろしくもある。ある意味ではシンプルな物語とも言えるので、さまざまな解釈が出来るのも本作の魅力。その「解釈」が、どれをとってもいまの社会を映し出していることは言うまでもないだろう。主人公のマーク・ライランスが、なぜかかっこよくてファンとしては眼福でした。原作は未読だが、読みたくなった。
★★★半☆

折田千鶴子
権力の腐敗と醜き濫用
『シカゴ7』も好演のマーク・ライランス主演とは地味だが、その演技は相変わらず真摯。ただ、地味さカバーで登場のジョニデ&パティンソンが、役割をキチッとこなしているものの想定内止まりで、リアルと虚構の微妙な温度差が生じている気が…。目を覆いたくなる拷問描写は思い切ったが、そこが目玉な印象なのも残念。とはいえ砂漠にポツンと建つ町などの映像は魅力だし、今に通じる理不尽な権力という魔力、その普遍性や人間の本性等々、作り手の鼻息はしっかり伝わる。
★★★☆☆

森直人
洗練味もある土着風刺系
小説『夷狄(いてき)を待ちながら』の映画化だが、原作者のJ・M・クッツエーが自ら脚本も手掛けているので驚いた。ポストコロニアリズムを主題とし、辺境の地を舞台に白人と現地人をめぐる支配と迫害の構造をえぐるもので、シーロ・ゲーラ監督の素晴らしい前作『彷徨える河』(2015年)の延長線にある。ヴェルナー・ヘルツォークの後継といった印象のあるこの若い監督だが、今回はハリウッドの資本が入り、撮影がクリス・メンゲスなこともあって『ミッション』(1986年/監督:ローランド・ジョフィ)に近い趣。ジョニー・デップ&ロバート・パティンソンの「怪演助演モード」も面白かった。
★★★☆☆

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