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押井守のサブぃカルチャー70年「YouTubeの巻 その11」【2022年7月号 押井守 連載第46回】

押井さんがよく見るという食系YouTubeチャンネル『今日ヤバイ奴に会った』の話題を。人間にとって原初的な「食」を通して、YouTubeで食系動画を見てしまう動機や、「食と性に関してはみんなヘンタイ」と語る真意をうかがいます。
取材・構成/渡辺麻紀

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<新刊情報>

加筆&楽しい挿絵をプラスして待望の書籍化!
『押井守のサブぃカルチャー70年』が発売中!

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当連載がついに書籍化しました。昭和の白黒テレビから令和のYouTubeまで、押井守がエンタメ人生70年を語りつくす1冊。カバーイラスト・挿絵は『A KITE』(1998年)などを手掛けた梅津泰臣さんが担当し、巻末では押井×梅津対談も収録。ぜひお手に取ってみてください。

押井守/著
『押井守のサブぃカルチャー70年』
発売中
発行:東京ニュース通信社
発売:講談社
カバーイラスト・挿絵:梅津泰臣
文・構成:渡辺麻紀

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名誉や権力にはヒエラルキーがあるのは仕方ないけれど、食や性には基本、ないんだよ

――押井さん、今回はインドの屋台の豪快な料理ばかりを収めた人気チャンネル『今日ヤバイ奴に会った』の2回目です。前回は、投稿者のインド愛が伝わるから面白いんだとおっしゃっていました。今回は、押井さんもお好きな立ち食いのお話になるんですか?

『立喰師列伝』というシリーズまで撮っているわけだから、そもそも立ち食いが好きなんですよ、私は。
今でこそ道端で食べるという行為はあまり目撃しないけど、私たちの小さい頃は普通の光景だったからね。猿回しのおっさんから道路工事のおっさん、外で働いている人は道端で食べるのが当たり前だったし、子供たちもよく買い食いをしていた。公園で紙芝居があれば屋台も出ていた時代だったからですよ。

――押井さん、立ち食いとか買い食いをよくしていたんですか?

それが、やってないんだよ。家で禁じられていたから、それを守っていた。そのせいもあってか、工事現場で働くおっさんたちがおかずのコロッケを買ってきてドカベンを食っているのが本当に美味しそうで、大きくなったら絶対、道路工事の仕事に就く! と決めていたくらいでさ。

――ということは、意外と厳しかった押井家ではみんなそろって食事をしていた?

いや、そういうわけでもない。洋装店をやっていたから従業員もうちで食べるんだけど、時間が空いた人から順に食べていたので、そろって食べることはまずなかった。
なので家族団らんを味わったことは、ほぼないと思うよ。そもそも我が家はオヤジの独裁政権で、家族そろって何かを話し合うなんてこともナシ。一時期は家族そろって食べていたこともあるけど、そういう「団らん」という感じはゼロですよ。
そういうせいもあって、なぜ「そろって食べる」ことにこだわるのかが理解出来なかった。太宰治だったかな?「食事は家族そろって決まった時間に食べる儀式みたいなもの。なぜそういう儀式をするのか、子供の頃から不思議だった」みたいなことを書いていて、腑に落ちるところがあったよね。やっぱり、イヤだったんです。
子供のころ、一番好きだった食べ方はつまみ食いだよ。夜中に台所に忍び込んで、おにぎり作って食べたり、戸棚の食品を漁ったり。
早く家を出て、好きなときに好きなものを食べたいと思っていたので、下宿を始めたときは本当に嬉しかった。食べたいものを食べたい方法で、食べたいときに食べる。たとえそれがサバ缶やインスタントラーメンであっても、めちゃくちゃ美味しかったから。

――自由に食べたい少年であり青年だった。

まあ、平たく言っちゃえばそうなるのかな。今でも道端で食べるのは美味そうに見えるし、私が立ち食い蕎麦にこだわっているのも、立ち食い、買い食いに対する郷愁ですよ。
道端に座ってイヌと一緒にご飯を食べる。なぜか知らないけど、それが私の原体験になっていて、いまだに立ち食い蕎麦が止められない。別に味云々というわけじゃないんだよね。

――だから、こういう立ち食い系にそそられてしまうんですね。

このインドのおっさんを見ていると、そういうことを思い出しちゃうんだよ。道端でご飯を作っていることがとても楽しいし、既存の文化に拘束されない解放感がある。私が家を出たときに味わった解放感を思い出しちゃうんだよね。

――解放感はわかります。それに、インドの屋台のおっさんたち自身が、とても楽しそうですよね。カメラを向けられているからだけじゃないと思います。

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