ひっそりしたはなし
これは、ひっそりと生まれて、ひっそりと死んだ犬のおはなし。
先週の何曜日だったか、空にひっそりと虹がかかったのを知っていたかな?あの時、その犬はひっそりと死んだんだ。
犬はひっそりと物置の裏で生まれた。
そして、ひっそりと箱に入れられ、ひっそりと田んぼ道に捨てられた。
見つけたのは、ひとりでひっそりと暮らしていたおばあさん。ひっそりと家に連れて帰り、ひっそりと仔犬をかわいがった。
犬はひっそりとおばあさんを愛し、ひっそりと大きくなった。
ある日ひっそりとおばあさんが亡くなると、犬はひっそりといなくなり、数週間後、畑の脇でひっそりと死んでいたそうだ。
ひっそりと迎えに来た天使たちにその犬はひっそりと語ったそうだよ。
おばあさんの手になでられるときのふわっとしたあたたかさ
おばあさんの瞳がいつもクルクル笑っていたこと
おばあさんの畑でモグラと遊んだこと
ミニトマトが口の中で割れた時のおもしろさ
濡れた体をブルブルすると、おばあさんがあわてて、一緒に笑ったこと
夕飯を終えてソファでうとうと眠るおばあさんの足元にいるときの、
誇らしい気持ち
ひっそりとした毎日を語るひっそりとした犬の思い出は、色とりどりの鮮やかさだった。
あの日、空に大きな虹がかかったのは、そういうわけなのさ。
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