園庭の魔法の石


たかひろ先生は、この4月ににれのき保育園に入ってきた、新人の先生です。子どもたちと遊ぶのが大好きで、夢中で遊び過ぎてときどき失敗もしています。今日は砂場に大きな山と水路を作って遊んでいましたが、年長さんの女の子に、

「たかひろ先生、もうすぐ給食の時間だよ、お片付けしないといけないんじゃない?そんなに泥んこになって!」

そう言われて、

「あ!ほんとだ、みんな、今日の給食はカレーライスだぞー!ああ、お腹すいたなあ、いそげいそげ!ゆあちゃん、教えてくれて、ありがとう。」

誰よりも張り切って片づけると、子どもたちと一緒に嬉しそうに教室に入っていきました。


6月のある日、たかひろ先生は年中さんのたいがくんが、のぼり棒の練習をしながら、おもしろいことをしているのに気が付きました。

のぼり棒にしがみついて、力尽きて降りると、園庭のブランコの後ろに並んでいる花壇の石のひとつにタッチして、またのぼり棒にしがみつくのです。

「たいがくん、なにしてるの?この石にタッチするといいことあるの?」

たいがくんは、たかひろ先生に見られていたことなんて何も気にしない様子で言いました。

「ああ、これはヒミツだから、あんまり言っちゃいけないんだけど、この石は魔法の石だから。」

「えっ?すごいな、じゃあ、これにタッチしながら練習してると、のぼり棒ができるようになる!ってこと…?」

たいが君は、「うん。」おおきくうなづくうなずくと、また」のぼり棒に走っていきました。


その日の夕方。

ほとんどの子どもたちは、お迎えが来てお家に帰りました。たかひろ先生も仕事を終えて帰ろうとしていましたが、事務所の机で何か書いている、ようこ先生を見つけて、話しかけました。

「ようこ先生、園庭に、魔法の石があるんですよ。知ってました?あ、これナイショだからあんまり言ったらいけないんですけどね。」

ようこ先生はたかひろ先生の顔を見て、にっこり笑うと、

「知ってるよ、毎日先生のクラスのたいが君が、のぼり棒の練習してるのもね。あれは、2年前かな、わたしはたいが君のお兄ちゃんの担任をしていたの。たいが君のお兄ちゃんは縄跳びができるようになりたくてね、そこで魔法の石のことを教えてあげたっていうわけ。」

「えっ、じゃあ、あれは、ようこ先生が?」

たかひろ先生が驚いたように言うと、ようこ先生は笑って言いました。

「まさか!魔法の石は、魔法の石よ。わたしがここに来るずっと前からあるんだから。ところで、あんまりいろんな人に言いふらしたらダメよ。」

「わかりました、もちろんです!」


たかひろ先生は嬉しくなって、(明日もたいが君とのぼり棒の練習をしよう)と思いながら、スニーカーのひもを結びました。

自転車にのって帰るたかひろ先生の後ろで、園庭の魔法の石がキラリ、と光ったようでした。





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