見出し画像

はぶらしのつかいみち


夜です。

女の子と男の子が歯みがきをしています。


「あら、新しい歯ブラシにかえなきゃね。」お母さんがいいました。

女の子の歯ブラシも、男の子の歯ブラシも、新しいときはまっすぐピンとしていたブラシの先が、あっちにむいたりこっちにむいたり、広がってバサバサになっていました。


「この歯ブラシどうするの?」と男の子。

「すてちゃうの?」と女の子。


「さて、どうしようか?ネズミの家族にでもあげようか?おふろで背中をごしごしシュッシュって、あらうかな?」とお母さん。

女の子と男の子は嬉しくなっていいました。

「わたしの歯ブラシはね」女の子がいいました。「地面にうめとくの。そしたらモグラさんがめがねをみがくのに使うでしょ。」

「それはいいね。」男の子とお母さんがいいました。


「ぼくのは、ぼくの歯ブラシはね、えーっと」男の子は少し考えながら言いました。「キリンさんにあげよう。キリンさんの長いまつ毛にお化粧するのに使うんだよ。ママがいつもやってるやつ。」

女の子とお母さんは笑いました。「おもしろい!」


「じゃあ、わたしの歯ブラシは、ワニの爪にマニキュアをぬってあげようかな?」

「最高!」とお母さん。

男の子も笑いながらつづけます。

「そのとき、ゾウがやってきて、『キリンさん、ワニさん、いいものもってるね。ちょっとかしてよ。』歯ブラシをかりると、大きな耳の穴につっこんで、『あー、きもちいい!耳かきはいいきもちだなあ!』といいました。」


三人は、しばらくおなかをかかえて大笑いしました。歯ブラシを両手に持ってうっとりと耳かきをするゾウなんて、おもしろすぎです。気持ちよくて長い鼻もプルプルふるえていたことでしょう。


「さて、それでは、」お母さんが笑いすぎて出てきた涙を手でふきながらいいました。「ふたりの歯ブラシは、お屋根の上においておきましょう。」

女の子と男の子は、静かにお母さんを見ています。

「みんなが寝静まったころ」おかあさんはひそひそ声になりました。

「流れ星がやってきて、ふたりの歯ブラシを見つけると、お空にもっていきました。そして、あちらのお星さま、こちらのお星さま、と、お空のお星さまを磨いてピカピカにしてあげました。」

女の子と男の子は「ふうっ」と小さく息をはきました。そして、顔を見合わせて、『うん、それが一番いい』と、思いました。



ふたりはお布団に入ると、流れ星が歯ブラシを見つけますように、と、お祈りをしながら眠りました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?