ふわり、とはじまる朝がある。
ようやくベッドからぬけだしたら、朝がバタバタと始まる。
着替えて、顔を洗って、
朝ごはんを食べて、歯磨きをして、
化粧して、コートを羽織って、かばんをつかんで、
バスに乗り遅れないように、飛び出して。
そんな風に日々に流されているとき、ふと、思いだす景色がある。
卒業旅行でトルコに行った。
朝に飛ぶ気球が美しいときいて、カッパドキアを最初の目的地に選んだ。
まだ夜も明けきらないうちから、のそのそと起きだす。
ホテルのスタッフさんたちはすでに朝食の準備をしていた。
ナンと、チーズと、ザクロと、チャイ。
朝ごはんから、旅は始まっている。
2月のトルコは寒くて、ストールを巻きつけて、気球があがるのを待っていた。
空が少しずつ明るくなりはじめたころだ。
地面から、ふわり。
あたらしい生命がふくらむように、また、ふわり。
ゆっくりと風に流されながら、でも着実に、上へ上へとのぼっていく気球たち。
こんな朝があるなんて、知らなかった。
チャイのあたたかさが身体を通りぬけるのを感じながら、目をそらせずにいる。
1日のはじまりがこんなにやさしいなんて、知らなかった。
夜明けが朝になって、あたりがすっかり明るくなっても、飽きもせずにながめていた。気づけば、空は気球でいっぱいだった。
卒業旅行は終わって、日常に戻って、気づけば3年が過ぎようとしている。
バタバタとすすむ日々の最中、ただ、忘れずにいたい。
今日もどこかで、ふわり、とはじまる朝があること。
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