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昼白の城崎、琥珀の豊岡(前編)

連休中に訪れた城崎、豊岡の両市街について綴っていきたい。

城崎といえば、関西でも有数の温泉郷で、かつての文豪なども愛したことで有名である。

しかしながら、弊社は連休の予定を中々明らかにしてくれず、確定した頃にはめぼしい旅館は満室という事態であった。

よって、隣町の豊岡にて宿を求め、なんの変哲もないビジネスホテルに二泊しつつ、城崎との往復によって旅行を組み立てるという計画であった。

負け惜しみのように聞こえるかもしれないが、実は温泉旅館というものに自分はあまり魅力を感じていない。

俺がたまたま良い所に泊まっていないだけかも知れないが、兎に角高くて、ハイシーズンはすぐ埋まるし、コース料理などは俺の胃袋には少し多すぎて、毎度のごとく残してしまう。

それに、多いだけで大して美味くもない時もままある気がするのだ。高い、不味い、多いの三重苦を食らって、微妙な気持ちのまま和室の床に臥せったことは一度や二度ではないではない。

その点、ビジホ素泊まりはもちろん雰囲気としては味気ないものの、ハイシーズンでも少し観光地から離れればわりとすぐ予約が取れるし、なんせ安い。

加えて、自分は飯に関しては現地のものを自分で探し歩くほうが好きである。よくよく探せば、思いがけぬ地元の名店に出会うこともあるのだ。

そのような計画により、昼間は城崎の日帰り温泉や水族館などを巡り、夜には豊崎市街中心部を探索するという、コントラストの効いた旅程となった。

城崎では家族連れや若い男女が賑わい、浴衣姿でカランコロンと下駄を鳴らす光景はいかにも風雅であったが、現場で食べた飯は大変微妙であった。「観光地に美味いもんなし」は京都も城崎もさして変わらぬようである。特に味の向上努力を図らなくて済む、大通り沿いの飲食店には多くの期待を持たぬほうが良いであろう。

さて、豊岡は夜の部であるが、一日目の夜は疲れもあって、あまり探索が効かなかったものの、二日目の夜は大変クオリティの高い出石そばを出す店に出会うことが出来た。

凛と冷えた盛りそばは大変香り高く、程よい粒感があり、出汁との絡みも絶妙である。観光はともかく、旅行中の飲食に関しては大いに不満を抱いていたこともあって、格別の一皿であった。

食卓にはアンケート用紙が備えられていたので思わず筆を取り、大変美味であった旨と感謝の言葉だけを残して、会計を済ませ店を後にした。

豊岡の町並みは正直なところ斜陽そのもので、連休中の市街中心部だというのに、ほとんどの店にシャッターが下りており、閑散としていた。こういう萎み行く街の光景というのは、退廃の美とも言うべきか、独特の風情があって個人的には嫌いではない。

しかしながら、当然のごとくそこで生活を営むものにとって死活問題である。おそらくは当該店舗の経営も決して簡単ではなかろう。

だのに、さして高くもない値段でこれだけの味を出す店員たちの研鑽と矜持に、思わず普段書かぬアンケート用紙を手にとってまで絶賛してしまったのである。

腹も頃よく満ちたことで、次は酒を足したくなってきた。その欲に従って、静まり返る豊岡市街の疎らな灯りを頼りに、爽やかなスピリッツカクテルなどを出してくれる店は無いものかと、もう一軒のハシゴを決めるのであった。

つづく

お酒を飲みます