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フラッシュバック#2【短編小説】

佐藤「で、どうする?福山さん」
福山「どうしようかな…」
佐藤「福山さんに家族が居るように近藤さんにも奥さんと息子さんが居るよ。長い年月経った今だからさ、話してみたら?」
佐藤は福山と近藤の関係は知らない。
だから、近藤が福山を好きだったと勘違いをしている。
福山は伝えた。
「電話に出るか出ないかは分からないけど、教えても私は大丈夫だよ。もう50過ぎて今更うろたえないよ。」
と、あえて静かに答えた。
佐藤「大人だね、福山さん。じゃあお伝えしておきます。近藤さん喜ぶだろうな。じゃあまたね。」
と通話を終えた。
福山は20代の青春を思い出していた。
そして、50過ぎに起きたこの出来事はいったい何を意味するのだろうかと。
福山の心はあの頃のドキドキよりもモヤモヤが大きい自分に驚いた。
電話が来たら私はどうするのだろう。
最初は出ない方が良いのか。
いや、なんだかそれでは計算しているみたいではないか。今更と思っていた自分とは裏腹な気持ちがある事にも気がついた。
そして、それは夫への裏切りにならないか。
今更何を話すの?近藤さんはどんな気持ちで自分と連絡を取りたいの?
モヤモヤが大きくなる。
佐藤と話をした数分後
知らない電話番号が携帯に大きく表示された。
もしかして、もうかかってきたのか?
深呼吸しながら
小さい声で
「もしもし」と電話に応える福山。
「もしもし。福山?近藤です。」
福山「どうしたんですか?佐藤くんから連絡が来て驚きました。」
近藤「仕事帰りに一杯飲みに行くかってなってさ。仲間がいい店知ってるって言うからついてたら佐藤がいるからびっくりしてさ。」
福山「そうらしいですね。佐藤くんから聞きました。」
近藤「福山元気だったかよ!今どこに居るの?資格取って看護師してるんだって?すげーな〜」
福山「うん。すごくはないけど、やりたい職業だったから頑張った。」
近藤「そうか。偉いな〜。俺は今年で定年になるんだよ。もう歳だな〜。元気もないよ。」
福山「あら、若い時はあんなに元気だったのに。」
と、嫌味を言った。
近藤「あははは。そうだな〜。どうよ、どっかで会わないか?」
福山はそう来たか。と思った。
福山は即答した。
「忙しいし、電車乗って会いに行くには遠く感じるわ。」
近藤「電車乗ればすぐじゃないか!会おうよ。ま、今仕事中だからさ又ゆっくり電話するな」
福山「わかりました。では。」
と言って電話を切る。 
懐かしい声。
相変わらずのテンション。
福山は若い頃の思い出が又胸に蘇る。
その日を機会に福山の心は動き出す。

近藤が又かけると言った電話を緊張しながら待つ自分に気がついた。
1週間が過ぎ
1ヶ月が過ぎ
近藤からは連絡はない。
人の気持ちを振り回して、相変わらずだ。
と思った。

あの頃の行動がもう少し違っていたら
近藤と今も一緒に居ただろうか…。
だとして自分はどんな自分だっただろうか…。

人の気持ちを振り回してと思っていたけど
私が勝手に妄想していただけなのかもしれない。
あの頃の思い出は決して消える事はない。
このタイミングでフラッシュバックした自分の中の気持ちと向き合えた気がする。

今は普通に暮らしている。
そして普通に暮らせている幸せを感じている。
夫と二人で過ごした時間を振り返る。
色々な事も乗り越え二人で頑張って来た。
だから今がある。

そんな、気持ちが福山の心で温かく広がるのを感じた。
大切な事、大切な人。

そして
2ヶ月後には
生活の中で近藤を思い出の中の人となっていく。
電話で話す前の自分よりも更に思い出となっていく。

人はそれぞれ色々な思い出がある。
そしてその思い出が時を経て語る場面にも出会す。
あの時の気持ちが溢れ出す。
溢れ出した後に何かが芽を出す。
何の芽かは自分がこれまで生きて来た芽でありそしてその芽がどんな風に成長していくのか。
いくつであっても人生もまだまだこれからだ。

フラッシュバックと向き合ってみるのも人生の確認になるのかもしれない。

                 終わり




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