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感想|『こっち向いてよ向井くん』(ドラマ):他者との関わり合い、向井と美和子の暗示、恵比寿駅東側おすすめランチ

友達に勧められ、ドラマ『こっち向いてよ向井くん』をNetflixで観た。主人公の向井に対してイライラしながらも、最終話でとても幸せな気持ちにしてもらえた。

イライラの原因は、向井が様々な思い込みに囚われていたことにある。自分が彼のような状態に陥ることを意識的に回避しやすくなるのではないかと思い、彼がどんな思い込みをしていたのか、言葉にしてみようと思う。

また、これだけではちくちくした感想文になりそうなので、おまけを2つ付け足してみる。1つ目は、自分は向井と美和子の関係の着地がどうなるのか、第5話の段階で確信を持っていたので、後出しじゃんけん的ではあるが、その理由を紹介する。2つ目は、自分はかつて恵比寿の会社、しかも本編で何度か映ったビルにある会社で働いていたことがあるので、向井や坂井戸さんも訪れていそうなおすすめランチスポットを紹介する。

なお、ネタバレを多分に含む。


向井の思い込み

大きく3種類あったように思う。これらは何らかの同じ心性に基づいたものなのかもしれないが、実際の向井のセリフからイメージしやすいように、無理にまとめず3種類のままにしている。

言動には明確な1つの正解があり、それを当てるべきである

これが最も、具体的なシーンと共に思い浮かべやすいのではないだろうか。チカと手をつなごうとする時や、坂井戸さんに虹の写真を送ろうとする時、向井は「正解」を当てようとしていた。

さすがに「いつでも誰にでも通用する正解がある」とまでは思っておらず、相手やタイミングによってそれが変わるという認識はあったが、特定の相手やタイミングであっても、唯一絶対の「正解」など無いはずだ。

唯一絶対の「正解」が無いからこそ必要なのは、相手の状態をつぶさに観察し、どんな言動が相手にとって良いのか、考えて実践することだと思う。それをやろうとしたら、まずは自分で予想して、それをちょっと試してみて、相手の反応でもって、言動をだんだんとチューニングしていくことになる。

しかし向井はそうではなく、存在しない「正解」をいきなり求めて立ち往生していた。「ダサい」とか思われて傷つくのが怖いからだ。だんだんと相手に合わせていくために、あれこれ試行錯誤すればよいのである。


他者との関係性は昇り階段になっているべきである

これは誰に対しての言葉か忘れてしまったが、向井が「どこつながってるの?その関係」と言い放つシーンがあった。第4話のどこかだったと思う。この発言には、「他者との関係性はどこか別の状態に繋がっているべきである」という向井の考え方が出ている。また、そこには「今よりも何かしら発展した関係」という含意もあったように思う。

個人的には、この考え方も手放した方が健康的だと思う。なぜなら、ビジネスの場ならともかく、友達やパートナーとの関係は、それ自体がかけがえの無い大切なものなのに、今とは異なる状態になることにばかり価値を見出してしまうと、今まさにかけがえの無い状態にあることが軽視されてしまうからだ。

さらに、もし相手との関係が下り坂だとしても、それはそれで必要なことなのだと思う。関係が良好ではない原因を考えてみたら、自分の至っていなかった点や、お互いがすり合わせるべき点に気づけるかもしれない。そうした可能性を考慮に入れず、「次の状態につながる」ことばかり考えていては、関係が不全になる一方な気がする。まあ、そうなったら別れたり、疎遠になってきたということなのだろうが。

相手に思考や回答を強いるのは避けるべきである

向井は「優しい」という評価にあぐらをかき、関係構築のために必要な踏み込みを怠っているように見えた。具体的には、美和子が思わせぶりに「何でもない」と言った時に何も問いかけなかった時や、坂井戸さんへの告白をためらった時のことだ。

向井の気持ちも確かに分かる。相手に何らかの思考や回答を強いるという意味で、問いかけや告白は「暴力的」と言えるからだ。しかし、この意味での「暴力性」をしっかりゼロにしようと思ったら、誰とも関わらずに生きていくしかない。誰かしらの他者と関わる以上、このリスクは皆了解していると思った方がいい。そうじゃないと本当に何もできなくなってしまう。

それなのに向井がこうしたメンタリティに陥っているのは、「優しい」という他者から評価されているポイントを失うのが怖かったからなのだと思う。これには2つの方向で安心してほしい。まず、相手はそこまで向井の言動を気にしていないだろう。そして、向井が積み上げてきた「優しい」という評判はそんなことですぐには地に落ちないはずだ。もしそれでもネガティブな妄想が付きまとうなら、それは自分が他者に対して厳しい目線を向けているからこそ、そんな目線が自分にも注がれていると思ってしまっているのではないか。

最後の名セリフ

こうした思い込みに基づく言動にイライラさせられたからこそ、最終話の最後、いつものカレー屋で向井が坂井戸さんと元気に対してあっけらかんと言う「大人って、思ったより大人じゃなくて、楽しいね。」というセリフは、本当に素晴らしいものだと思った。上記3つをはじめとする、「大人ってこうあるべき」から自分をまるっと解放したことが分かるセリフだったからだ。そしてその気づきをもたらしてくれたのは、坂井戸さんや美和子をはじめとする様々な人との関わり合いであり、そうした関わりを継続できたのは、運によるところもあるが、基本は彼のやさしさや、そこから得てきた信頼によるものなのだ。

おまけ① 向井と美和子の関係の暗示

第5話で登場した映画

向井に感動した映画を聞かれ、美和子は『ラ・ラ・ランド』と答えた。この時点で、2人がヨリを戻すことは無いと確信を持った。なぜなら、『ラ・ラ・ランド』でも、主人公のセブとミアがヨリを戻すことは無いからだ。

それだけではない。このシーンまでで美和子について描かれている描写(向井の「守ってあげる」に違和感ありありの表情をしたシーン)でもって、美和子は自分が生きたいように生きることを是とする価値観であることが窺えた。そんな人物が『ラ・ラ・ランド』のどんなところに対して感動するか。セブがとことん「夢追い人」で、そのためにはあり得たかもしれない「それっぽい幸せ」を手放し、夢を実現させたことに対してだろう。そんな美和子が、世間のムードや構造に抗うどころか、自覚的にすらなれていない段階の向井と再度交際するというのは、やはり考えづらかった。


おまけのおまけ:美和子へのおすすめ映画

美和子はおばの影響で登山を始めるが、さすがにちょっと表層をなぞりすぎなように思う。説教臭くて申し訳ないが、おばに憧れているのであれば、登山という手法を真似るよりも先に、なぜおばがマッターホルンにまで登ったのか、その気持ちや動機を知るべきだろう。その次に「自分だったら自分の気持ちや動機をどう発露するかな」と考え、そこであがった何かしらを実践するという順序だ。それが結果的に同じ登山に行きつくことももちろんあるだろうが、ドラマでは気持ちや動機を探る段階が全く描かれておらず、美和子が浅い人間に思えてしまった。

美和子には、『ラ・ラ・ランド』より感動するかもしれない、という触れ込みでとある映画を教えたい。それは、『ラ・ラ・ランド』が逃したアカデミー作品賞の栄誉にその4年後に輝いた『ノマドランド』だ。主人公のファーンは、「普通」に生活しようと勧める周囲をのらりくらりとかわし、自分自身の信念に基づいて強く生きていく。それこそ美和子が違和感を抱いている制度への寄りかかりではなく、大自然や詩からエネルギーをもらう術を心得ていて、それがかっこいい。

おまけ② 恵比寿駅東口側おすすめランチ

自分が新卒で入った会社は恵比寿駅の東口側にあり、そのビルがこのドラマに何度か映った。向井や坂井戸さんの会社とけっこう近いということであり、それはつまり、ランチ事情がほぼ合致していたことを意味する。そこで、きっと向井や坂井戸さんも訪れていたんじゃないかな、と思えるようなおすすめのランチを紹介したい。

ラ エスキーナ
小綺麗なメキシカン。若干値は張るが、サラダでお腹いっぱいになれる稀有なお店。具沢山のトマトスープがおかわり自由なのも嬉しい。

ブルーパパイアタイランド
味としては普通に美味しいタイ料理なのだが、メインを頼むと自動的におかずの食べ放題がついてくる。しかもそれが、サラダ、野菜炒め、から揚げ、スープとかなり充実している。から揚げはたまにめちゃくちゃ衣が堅いので注意だが、これはこれで大いにあり。

うどん山長
セットは数種類のおかずに天ぷらがついてきて、ランチタイムは炊き込みご飯もサービスなので、コスパが圧倒的すぎる。しかも全部美味しい。ご飯を我慢することが毎回できず、午後は眠くなってしまうので、ゆっくり仕事ができる時を選んで訪れるようにしていた。

海南鶏飯食堂
おそらく、坂井戸さんが美和子に教えていたお店はここなのではないか。ムチっとした鶏肉と、出汁で炊き上げられた香り高いジャスミンライスの相性が抜群。ソースが3種類あって味変も自由自在で楽しい。

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