歌詞解説|XG - HESONOO & X-GENE
和訳・解説
HESONOO
orbital phase:軌道の調整
→宇宙船や人工衛星の軌道を調整すること。(厳密には 'orbital phasing' )
mainframe:大規模な組織において主に用いられてきた、大型のコンピューター
hybernation:休止状態
→パソコンのハイバネーション(休止状態)と、XGがまだ動いていない状態をかけている。ハイバネーションとは、PCがバッテリー切れになった時に、その時の作業や状態を一時保存した上で入る休止状態のこと。この機能のおかげで、再び起動した際すぐに作業を再開できる。こうした特徴を何かになぞらえている感じではなさそうで、システム音声と相性がよさげな単語という理由でチョイスされている気がする。
landing sequence:着陸シーケンス
→探査機などが着陸する際の一連の動作・操作のこと
X-GENE
イントロ
X-gene:不明な遺伝子、未確認の遺伝子
→XGが画期的な音楽を世に出そうとしていることから「今までに無い」とした。
beta testing:ベータテスト中
→ソフトウェア開発におけるアルファテストとベータテストから取っている。アルファテストは内部にて行われるテストで、それを踏まえてベータ版がつくられ、一部ユーザーにも公開したベータテストが行われる。ベータテストが終わり、必要な修正がなされると、そのソフトウェアは正式に公開される。アップデートの可能性はあるものの、ベータテストとそれを踏まえた修正は、いったんの完成を意味する。そのため和訳は「完成まであと少し」とした。
※まとめ:アルファテスト(内部)→テストを踏まえた修正→ベータテスト(一部の外部)→テストを踏まえた修正→いったんの完成
またここでは、XGという存在が、今までのシングルを通じて十分なファンダムを形成し(ALPHAZと"アルファ"テスト)、本作『NEW DNA』を通じて、より広い層にリーチする(ベータテスト)という意味も含まれていると思う。
go hard effortlessly:易々と一生懸命やる
→一見矛盾したような表現。ここでは「X遺伝子を持った新しい存在だから、今までの人が一生懸命やっていたレベルを、私たちXGは簡単にやれちゃう」という意味で解釈した。
alpha to omega:全て
→「(ギリシャ文字の)最初(Α,α)から最後(Ω,ω)まで」が転じて、「全て」「永遠」という意味。「全てのレベル」だとよく分からないので、これまでの曲でのアティチュードも踏まえ「全てを席巻するレベル」と少し意味を付け足してみた。
keep it a hundred:全力でやる、自分らしくやる
→文字通り訳すと「100の状態を保つ」で、「全力でやる」(100%の力を出す)や「自分らしくやる」(100%本当の自分)といった意味。今回は両方の意味で取れるよう「マジ」(本気、本当)とした。
バース2
gladiator:剣闘士、グラディエーター
→古代ローマにて、市民の娯楽を目的に、闘技場で猛獣や別の剣闘士と決闘をしていた。よって 'gladiator mind' は「聴き手の娯楽のためにXGが剣闘士ばりに闘うような気合い」と取れる気もするが、それは気が引けるので今回は「闘士並みの気合い」とし、シンプルに強さを示すにとどめた。
the Xtraordinary womb:普通ではない子宮
→胎児が育つ子宮とXGが育った場所をかけている。'the'がついているので、「皆が『ああ、あれね』と同じものを思い浮かべることができる」という含意がある。「皆が共通して思い浮かべる、XGが育った場所」といえば、概念的にはXGALXというプロジェクトであり、物理的には使っている練習場である。穏当な表現に逃げた気もするが、今回は「普通じゃないところ」とした。
intergallactical:銀河を超える
→'international'が「国と国の間 → 国際的な」となるように、接頭辞'inter'は「~の間」という意味を持つ。'galatic' は「銀河の」なので、'intergalactic' で「銀河と銀河の間 → 銀河を超える」という意味。これで意味は通るが、直後の 'tactical' と韻を踏めるように 接尾辞 'al' をつけている。'intergallactical' という単語は、一応他にも使用例はあるが、辞書には載っていないようだ。
go ballistic:急上昇する
→'ballistic' は「弾道」という意味。軍事関連のニュースで度々登場する「ICBM」は 'Intercontinental Ballistic Missile' で、「大陸間弾道ミサイル」と訳されている。ここでは「弾道を描くようにgoする」が転じて、「急上昇する」という意味。さらに転じて「感情が急上昇する → キレる」という意味もあるらしいが、ここでは普通に「急上昇する」とした。
バース3
cosmic:宇宙の、(宇宙のように)無限の
→宇宙が際限無く広がっていくように、XGの技(stunt)のレパートリーは無限にある、ということなのだと思う。'Cosmic Stunt' で調べるとBMX用の自転車が出てきたが、アイコニックなモデルではなさそうで、結び付けている可能性は低い。
pack:(犬や狼の)群れ
→狼はXGを象徴する動物。
shoot for the stars:星を目指す
→転じて「高望みする」「実現困難な望みを持つ」といった意味。
land on their head:頭から着地する、頭から落ちる
→'shoot for the stars and we land on their heads' で、「星を狙って放ち、頭から着地するくらいその星にまっすぐ向かう」(世間が実現困難と思うことでもグングン進んで実現させちゃう)という意味だと思う。前のライン「あいつらは1つ1つの当たりはずれを気にするけど」と対比し、自分たちの優位性を際立たせている。
不明点が1つあり、着地するのは 'we' だけど、その時地面に接する頭は 'their'(公式の歌詞ではthey?)にしている理由をまだ理解できていない。
don't mess with:~の邪魔をするな、からかうな
→「MASCARA」(歌詞解説)にも出てきたフレーズ。「さもないと…」という警告の意味を含む。今回は 'technique' が続いたことから、「(私の)テクニック舐めんな」とした。
locked and loaded:銃弾が装てんされ発射できる
→'load' は銃に弾を込めること。'lock' は込められた弾が薬室(発射される弾が収まる空間)に移動し、あとは引き金を引けば発射される状態になること。軍隊において、'lock and load' で「準備よし!」といった掛け声的に使われることもあるらしい。実際は 'load'→'lock'という順番だが、語呂重視でこの順番が定着したとのこと(諸説あり)。今回は、 'We' が 'load'も'lock'もされていて準備万端という意味。
コーラス
'Come and test me' は、XGに試しに挑んでみるよう提案し「でも多分勝てないけどね」と挑発しているようなニュアンスだが、次は 'Don't test me' で、試しに挑むことすら許されないくらい圧倒的に差がある、みたいな表現に変わっている。
アウトロ
reach for the stars:星を掴もうと手を伸ばす
→転じて「大きな目標を持つ」といった意味。しばしば「高望み」というニュアンスを含むとのこと。ここでは、「闇を照らすXGという光についていけば、自ずと高いところに手を伸ばす(大きな目標に向かって進む)ことになる。世間はそれを無茶だと言うけど、共に進んでいこう。」という意味なのだと思った。
synchronizing:同期中
→「同期」とは、とあるデータや状態が、もう一方でも同じになること。例えばiPhoneで撮影した写真をiCloudに同期すると、iPhoneそのものにある写真データがiCloudにも反映され、両方に同じ写真データが存在する状態になる。今回は、XGに導かれた聴き手がXGと同じところまで連れて行ってもらうことを示しているように思う。「HESONOO」と同じ声なので、「アクセス中…」だったのが完了し、同期に移行したという捉え方もできる。
howling:遠吠え、咆哮
→バース2に出てくる 'pack'(狼の群れ)と同様に、XGを狼に喩えているがゆえの言葉選び。
感想
厳つさと冷徹さを両立したドリルサウンドに乗ってセルフボーストする様は、今までよりも力強く聞こえる。このドリルサウンドとジュリンのソリッドなラップに驚いた矢先、次はココナとマヤがスムーズに言葉を並べてきて更に驚く。続くハーヴィーの特徴的な声は本当に大きな武器だと思う。彼女がラップするコーラス部分は冒頭と同じ歌詞が多いが、全く印象が違って聞こえる。とても1分25秒では物足りないので、Extended versionを熱望している。
何度も繰り返したくなる魅力的な曲である一方で、ほんのり違和感を抱くところもある。それは、コンピューター関連の喩えと、DNAや胎児の喩えに関するものだ。なお、どちらもけっこうな飛躍を含むもので、現時点で何か明確に問題だと思っているわけではないし、再度考えてみたら自分の勘違いだったところもある。
コンピューター関連の喩えは、システムの自動音声的な表現も相まって、クールなイメージを喚起させるし、現実世界の枠組みに囚われない彼女たちと結びつけやすいのだと思う。ただどうしてもこれらの喩えには人間味が無いので、今後もこうした喩えを多用した場合、彼女たちが意思を持った人間であるという当たり前の事実が、ほんの少しではあるが薄れた感じで人々のもとに作品が届いてしまうような気がする。これまでK-Popという産業においては、その苛烈な環境によってアイドルが大変な思いをするというケースがあったが、XGに関しては(もちろん他のグループもだが)、そう言ったところも含めて人間的であってほしい、そのことによって伸び伸びと創作活動ができていてほしい、という願いがある。
※飛躍ポイント:これらの喩えに人間味が無いことが、彼女たちを人間的でないとするわけではない
DNAや胎児に関する喩えは、これは「HESONOO」や「X-GENE」に限ったことではなく、アルバムタイトル『NEW DNA』もまさにそうだが、この2曲が象徴的だったのでここで意見を述べたい。臍の緒は生物学的な母親と胎児をつなぐ器官で、DNAや遺伝子は生物学的な親から受け継がれるものだ。こうした喩えを用いて「New DNA/X-gene だから私たちはすごいんだ」(本当に本当にざっくりとまとめてしまったが)と主張することは、生物学的な親以外の要因だってその人に大いに影響するということを軽んじているようで、少し危うい気がする。
XGのメンバーに対するリスペクトという意味でも、「彼女たちはDNA/遺伝子が違うからね」と別格視するのは一見ほめているような気がするが、対等な立場として尊重していない感じもする。だって彼女たちがすごいのは、そのたゆまぬ努力ゆえだから。
でも今回和訳してみて、自分が抱いた違和感(危ういなと思ったこと)はやや早計だったように思う。なぜなら、'New DNA'や'X-gene' が意味するのは、彼女たちの生物学的な生まれではないように思えたからだ。これらが意味するのは、彼女たちの歌や踊りへの愛情や、デビュー前後の練習、それらを通じて出来上がったチームとしての結束などなど、こうしたものが全部合わさってにじみ出る、彼女たちの魅力のことなのだと思う。
他の曲に関する記事
・「MASCARA」
・「TGIF」
・「PUPPET SHOW」
・「WINTER WITHOUT YOU」
大学の先輩に声がけしてもらい、ポッドキャストでXGについて語っています。(34:58から)
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