マヨコーンピザ

ファミレスの駐車場では小さな子が車を止めるコンクリートの上で遊んでいた。高い声で父親にしきりに話しかけている。彼は心配そうにその子を見つめている。夜だ。駐車場の光は鈍く地面に降りている。

昨日から、1か月前にこのファミレスで食べたマヨコーンピザが食べたかった。昨日はバターコーンを作り食べることで、凌いだ。しかし、チーズマヨのソースの上にコーンがのせてあるピザの静止画が頭から離れない。だから来た。

 道路に面したこの店の、窓際に案内された。窓から道路を眺める。光が、流れる。二つに並んだ白い光、小さな光、オレンジの文字列。向かいから自転車が通り過ぎようとしている。目が合った。この刹那の彼の瞳も、光と名付けていいだろうか。

 向かいの席には家族と思われる団体がいる。落ち着いたピンク色のパーカーに、銀縁眼鏡の男性がいる。少し、いかつい。しかしチョコレートパフェが来たときは、両手で受け取っていた。小さな男の子は正座の姿勢から腰を軽く浮かし、椅子の上を回り続けている。もう一人の男の子は私と同じ窓を見続けている。彼はどのように世界を区切っているだろう。口を開けている。そして同じ卓につく一人の女性は、彼らを見つめる。

 パソコンを私は開いた。マヨコーンピザと入力する。「魔よこーんぴざ」と変換された。方言を使用した洒落を披露してきた。ピザが魔除けか召喚か、なにかしらのアイテムになった。

 隣の席には男女が座っている。打ち解けている感じからして、付き合っているのだと思う。彼女は不自然な姿勢で携帯を見つめ、座っている。背もたれに右腕を預け、横を向いている。鼻が高く、美人だ。携帯は目線より高くにある。充電をしながらだとその体勢が一番楽らしい。彼氏は、こちらを向かない彼女の話を手中のメロンソーダを見ながら聞いている。テーブルにうつ伏している。彼女の赤と青と黄土色をコラージュした服と反対に白生地に黒い柄が入ったセーターを着ている。柄は大きく、かつ細かく入っているので、奇抜さは彼女と一緒かもしれない。

 マヨコーンピザがやってきた。驚いた。コーンの上にマヨチーズが乗っている。上からマヨコーンピザの順になっている。前回はコーンマヨピザだった。

 一枚取った。チーズの結束は固く、ピザ、というか生地の部分だけやってきた。皿の上のピザは私のアクションに関わらず、円形を保った。ナイフとフォークを駆使して優雅に頂くことにする。

 コーンをプチプチと味わうのが楽しい。マヨチーズのおかげで、コーンたちは逃げていかない。折り曲げたりせず先端から食べると終盤には塩気を、耳の部分が中和してくれる。最初にカトラリーを使うという少しの労力、踊るコーンとマヨチーズ、最後のピザの耳による味変。物語ができた。よくできた食べ物だ。

 家族は帰った。向かい合う若い男女はまだ、いる。彼氏の方が彼女の横に並んだり、自分の席に戻ったりしている。携帯は持っていない。彼女は画面から時折顔を上げ、笑顔を見せる。ずっと、ふたりは話し続ける。

 家族の座っていた席に初老の夫婦が座った。ウェイターはふたりの元へ行き、いくつか尋ね終えると、深々とお辞儀し、その場を立ち去った。

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