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【やさしい】残っている卵子の数えかた【不妊症ガイド】

たなかゆうすけです。

不妊症のやさしいガイダンスです。


前回までのお話はこちら。

卵子の質についてお話しました。

卵子の質の次は、卵子の数です。


こちらも併せてどうぞ。


卵子の数を調べる方法

別稿で、卵子の数については触れています。

卵子の数は、生まれたときから減り続けているというお話をしました。

そして、卵子の数を調べる方法があるというお話もしました。

今日は、その卵子の数を調べる方法について、もう少し詳しく説明していきましょう。

・AMH;Anti-Mullerian Hormone(抗ミュラー菅ホルモン) 
・AFC;Antral Follicle Count(胞状卵胞数) 
・Day.3 FSH(卵胞刺激ホルモン)

の3つについて説明していきます。


卵巣予備能

『卵巣予備能』という言葉があります。

卵巣の主たる機能は、配偶子である卵子を貯蔵し、脳からの指令に応じて排出することにあります。

予備能とは、予備能力、余力のことです。
卵巣は卵子を貯蔵しておく器官ですので、卵巣の予備能力、余力とは、残存している卵子の数ということになります。

もちろんホルモン分泌は卵巣の重要な機能の一つですが、ホルモンの分泌は排卵に合わせて行われるため、そういう意味では、ホルモンの分泌はどちらかと言えばサブの機能となります。

この卵巣予備能の指標として用いられるのが、前述した

・AMH;Anti-Mullerian Hormone(抗ミュラー菅ホルモン) 
・AFC;Antral Follicle Count(胞状卵胞計測) 
・Day.3 FSH(卵胞刺激ホルモン)

になります。

AMH(抗ミュラー菅ホルモン)

皆さんが一番よく知っている卵巣予備能の指標は、AMHであろうと思います。

ミュラー菅とは、胎児期に左右の卵管と子宮の一部になる構造のことです。
赤ちゃんが男の子の場合は、AMHの作用でこのミュラー菅が退縮し、男性の生殖器が形成されます。

女性の場合、AMHはまた別の作用を持っています。
AMHは、前胞状卵胞や小胞状卵胞といった発育途上の卵胞の顆粒膜細胞から分泌されます。

卵胞とは、卵子が格納されている構造のことで、顆粒膜細胞はその卵胞の一部を構成しています。女性ホルモンであるエストラジオールは、この顆粒膜細胞から分泌されます。

AMHは、卵胞の発育には抑制的に働くホルモンです。
卵巣にある卵子がすべて発育してしまうと、あっという間に卵子が枯渇してしまいます。
ある程度の卵胞が準備されるとAMHが上昇しますので、『これ以上発育してこなくていいよ』という指令になる、というイメージを持ってもらえば良いと思います。

このように、『これから発育してくる卵胞が分泌しているホルモン』がAMHですが、『卵巣に残っている卵子の総数』のうち、ある一定の割合が『これから発育してくる卵胞』であるので、AMHを測定することで残存している卵子の総数を推定することができます。

AMHの特徴

AMHは以下のような特徴があります。

・客観性に優れる。
・30%程度の測定誤差がある。
・採血検査であるため、測定者による差がない。
・月経周期内でも変動がある。
・周期ごとでも変動がある。
・ピルを使用していると低下する。
・正規分布しない

AMHは客観性に優れる

AMHは結果が数字ででます。
年齢ごとの基準値もあるため、自分がどのくらいの年齢の数なのかということが、比較的イメージしやすいというユーザーフレンドリーな特性があります。

しかも、エコー検査などと違い測定者の技術による差がないため、簡便に測定ができます。

AMHの測定誤差

上述の通り、AMHは客観性に優れる、比較的簡便な検査ですが、測定誤差があることは念頭に置いておかなければいけません。

AMHの測定が開始されたころは、ELISA法と呼ばれる検査キットを使用した手動測定で、測定誤差がかなり大きい検査でした。
2013年ごろに自動測定となり、測定誤差がかなり小さくなりました。

それでも30%程度の測定誤差があり、月経周期内、月経周期ごとにも変動があります。

そういった検査ですので、例えばAMH 1.2ng/mLとAMH 1.1ng/mLといった、ごく小さな違いについて議論することは、あまり意味がありません。
測定誤差や周期内、周期間変動の範囲内だからです。

AMHの値については、測定誤差があるものという認識を持っておき、大まかに多い少ないくらいでとらえておくのが良いでしょう。

AMHは正規分布しない

AMHは正規分布をしません。
下図は、典型的な正規分布の図で、偏差値などで見かけたことがあるかもしれません。

典型的な正規分布の図

AMHはこういった、真ん中の辺りに大部分が集中していて、裾野が少ないという分布になっていません。
AMHは測定値のバラつきがかなり大きい検査です。

これは、AMHがかなり多い人もかなり少ない人も、比較的多く存在するということになります。
つまり、いざ計測してみると、AMHがかなり低かったということは割と頻繁にあるということです。

年齢からまだ余裕があるだろうと思っていたら、かなりAMHが低下していたということはよく遭遇します。


AMHを測定する際は、こういったAMHの特性について注意しておく必要があります。
当然、私たちはこういった特性を理解して検査結果を解釈しています。
結果の解釈についてよくわからないところがあれば、ご相談ください。


AFC(胞状卵胞計測) 

AFCは、経腟超音波(エコー)で左右の卵巣に見えている胞状卵胞数(Antral Follicle)を計測する方法です。

AFCには以下のような特性があります。

・エコー検査なので、ごく簡便に、すぐに結果がわかる
・AFCはAMHと相関する
・測定者による誤差が生じる
・周期内の変動や周期間の変動が比較的大きい
・検査が推奨される時期が限られている

ごく簡便に、すぐに結果がわかる

AFCの最大の利点は、タイムラグなしに、リアルタイムに結果がわかるという簡便さです。

条件さえ整っていれば、熟練者なら一度エコーを見れば、だいたいの卵巣予備能が把握できてしまいます。

AFCはAMHと相関する

AFCは、エコーで確認できる胞状卵胞の数を測定する方法です。
これに対し、AMHは胞状卵胞から分泌されているホルモンを測定しています。

結局、胞状卵胞の数を別の方法で評価しているということになりますので、当然結果は相関します。

卵巣予備能の指標の中で、AFCが最も原始卵胞数を反映しているというデータもあり、しっかり測定できていれば信頼性の高い検査になります。

AFCの測定誤差

このように簡便で信頼性も高い検査になりますが、検査者の技術に依存する点がAFCの欠点とされています。

AMHにはこの欠点がないため、客観性、中立性については、AMHが勝ります。

AMHには周期内、周期間の変動がありましたが、AFCにもまたこの特徴があり、どちらかといえばAFCのほうが変動が大きいと言われています。

また排卵後には、排卵した側のAFCはかなり見えにくくなってしまいます。
また排卵前になると、発育しなかった卵胞は縮小し閉鎖していきますが、こういった閉鎖卵胞を胞状卵胞として計測していることがあります。
このため、AFCは月経期に測定することが多く、検査できる時期が限られているという特徴があります。

AFCを測定するときには、このような特性があることを十分に注意して、実施しています。


Day.3 FSH(卵胞刺激ホルモン)

長年にわたり、月経期のFSH(卵胞刺激ホルモン)は、卵巣予備能の指標として用いられてきました。
FSHは、卵胞を発育させるためのホルモンです。

Day.3(月経3日目)のFSH値には以下の特性があります。

・上昇すると、残存している卵子数が少ないことを示唆する
・基準となるFSH値は確立されていない
・FSHが著しく上昇した時には、卵子数がかなり減少している

卵子数が減少すると、FSHは上昇する

詳しいメカニズムは不明ですが、卵子数が減少すると、FSHは上昇する傾向を見せます。

卵子数が少なくなると、反応する卵子が少なくなるため、刺激を強めていくと思っていただくとイメージしやすいかと思います。

ただし、FSHは同じ日のなかでも変動があるため、少し上昇しているくらいでは、必ずしも卵子数の減少を示すわけではありません。

そして、卵子数が減少していることを示すFSH値がどのくらいであるのかは、具体的には設定されていません。
著しく高い値であれば卵子の数が減少していると考えて良いですが、少しのFSHの上昇がどのような意味を持つかの解釈は難しい場合があります。
しかも、FSH値はE2(エストラジオール)の影響を受けるため、E2上昇がある場合には過小評価していることもあります。

このように、FSHでの評価は難しいことが多いため、少しのFSHの変動を気にするよりは、AFCやAMHを測定したほうが良いということになります。

FSHが著しく上昇した時には、卵子数がかなり減少している

では、FSHが著しく上昇している場合ですが、この場合は基本的に『時すでに遅し』です。

卵子数がかなり減少するまでは顕著なFSHの上昇はなく、FSH値が上昇したときには卵子数が激減していることがあります。

最終ラインを超えてからアラートがなるようなものですので、FSH上昇がないからと言って、安心できるわけでは全くありません。

AFC、AMHという優れた検査があることもあり、現代では基本的にDay.3 FSHは残存する卵子数の評価として使用されることは少なくなっています。


次回予告

今回は、残存する卵子の数の評価方法とその特性についてお話しました。

では、その結果をどのように解釈して、どのようにアクションを起こすべきなのでしょうか?

次回は『残っている卵子の数をどうとらえるか?』です。

こちらも併せてどうぞ。


妊娠を希望される皆様が、幸せな結末へたどり着けますように…

たなかゆうすけでした。

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