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覚えているが、覚えていない湯河原の梅まつり

このことはよく覚えている。
2年前の春、私は大きな決断をした。

そう、一眼レフを買うことにした。
機種はCanon D80。
カメラの道の方々からすると
安物と笑われるかもしれません。

がこれは私にとって大きな買い物だった。
レンズキットで11万円くらい。

レンズのフードやら、
カメラ用のリュックやら、
SDカードや三脚などの付属品をあわせると15万円くらい。

さらに大量の動画やデータを処理するための
ハイスペックPCを買った。
このPCが20万円くらい。

初期費用だけで、
1カ月分の給料をこえる。

当時の私は一眼レフなど触ったことなく、
ネットで頼んだ箱が届いたときには、
「うっ」その重さに驚いた。

まじめな人であれば、
カメラが届いた日に取り扱い説明書の通りに

セットアップと操作をするものだが、
その類の作業が嫌いな私は
それをせずに試写のことを考えはじめた。

「東京の夜の街並みが撮りたい。
いや、昼の明治神宮と竹下通りなんかどうだろう。

いや待てよ。街中でカメラの操作も分からず、
右往左往していると恥ずかしい・・・

そうだ少し郊外に行こう。
湯河原あたり、どうだろう。

この時期は梅まつりをやってる。」

この時の心の中の会話は
よく覚えている。

翌々日、東海道線で
湯河原まで行った。
この日は3月の典型的な肌寒い日だった。
温泉に長く浸かりたくなるような日。
がこの日はカメラの試し撮りに専念すると決めていた。

駅を降りて梅林方面に歩き出して
10分後くらいだろうか。

駅から数百メートルの住宅街を歩いていると
一頭の猿が坂道をかけおりてきた。

体格のよいオスザル。
これは絶好のシャッターチャンス。
私の頭の中は真っ白になった。

まずカメラをどのように起動するのかわからない。
液晶内のメニュー画面を含めると、
一眼はやたらとボタンが多い。
どのボタンで押せばいいのかわからない。

焦りのあまり、
がちゃがちゃといろんなボタンを連打した。

そんななか、
猿は私の脇を通り過ぎて、
周りの茂みの中に入ってしまった。

それは一瞬のできごとだったものの、
喪失感のあまり、呆然と立ちすくんでしまった。
カメラの基本的な使い方さえ予習していれば。
その準備はたった5分で済んだかもしれない。

幸い、その後私のカメラスキルは上達し、
信州・上州でそれなりの猿の写真をとることができた。
それが唯一の慰めだ。

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しかし、本音をいうと、
いまだに湯河原での失態が
青梅のように酸っぱい記憶として口の中に残っている。

それは、油絵で描かれた
雲上の楽園の上に一本の黒い線が重なるように。
湯河原の梅林の記憶が汚れている。

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