第245回 内戦を知ると平和がわかる
1、読書記録21
内戦の日本古代史 邪馬台国から武士の誕生まで (講談社現代新書) / 倉本 一宏 #読書メーター https://bookmeter.com/books/13291506
先日Twitterでも触れた記事で知ったこの本。
ようやく読了したので全体像を紹介したいと思います。
目次
はじめに 日本古代史と内戦と国際的契機
第1章 倭王権成立と内戦
第2章 古代国家成立期の内戦
第3章 律令国家と内戦
第4章 平安時代の内戦
第5章 中世黎明期の内戦
おわりに 日本古代史と内戦
2、和を重んじる古代社会
日本はなんと平和な国なのだろう
そう著者は表現します。
古代の日本は我々が思っているより戦争が少なく
中世に近づくにつれて好戦的になっていく様を描き
その要因は何だったのかを探るのが本書の目的なのでしょう。
まず描かれるのは縄文・弥生時代。
正直このあたりは著者の専門からかけ離れているからかアラが目立ちます。
そしてヤマトタケルの伝説。
熊襲も出雲も計略で首長を討って流血を最小限に抑える形で手打ちとなっています。
続く筑紫君磐井にしてもこれだけ大規模な国家への反乱であったにも関わらず、首謀者の子である葛子は屯倉を献上することで許されています。
壬申の乱でも戦後処理は9人の首脳陣のみ処刑し、他は軽微な罰か不問にしたと言います。
藤原広嗣と恵美押勝の乱については著者の真骨頂が発揮されている、というか、私自身が知らない事ばかりで大いに学びがありました。
まずは広嗣は失脚して太宰府に左遷されたにも関わらず、律令制度が確立しているからこそ正規の手続きを踏んで大軍を集められたと指摘しています。逆に事情も知らずに集められたがために、一旦崩れると脆いということも裏付けられています。
恵美押勝については
いかに独裁的な権力を掌中に収めた専権貴族といっても、その野望は、王権の意思の前には、容易に崩れ去るものである
という言葉に尽きるでしょうか。
いずれの乱の鎮圧にあたっても吉備真備の参謀的な役割が大きかったということも始めて知りました。
3、そして中世へ
このように見てくると、確かに戦場となった地域では災禍が避けられませんが、反乱を起こした首謀者を一族皆殺しにするとか、そのような感覚は古代にはなかったと言えるかもしれません。
しかし中世が見えてくると様相が少しずつ変わってきます。
前九年の役で捕らえられた藤原経清は、苦痛を長引かせるために、鈍刀で少しずつ首を切られたと言いますし、
源義家が金沢柵を包囲している時には、降伏の申し出も断り、城から逃げ出してきた女子供も容赦なく殺すような戦をしています。
著者が「おわりに」で触れているように、
武士の時代を終わらせた明治維新後の政府が帝国主義に走り、侵略戦争を始めたこと、
武士が善、貴族が悪
東国の大地が善、京の都が悪
という価値観が生まれてしまったこと、
それらはいつから、なぜそうなってしまったのかという疑問を読者に投げかけます。
現代社会をみる上でも
何が善で何が悪というような二元論は危険ですし、
次にどんな時代がくるのか見通すためにも歴史の知識が必要とされるのだと思います。
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