第672回 古代の鏡を模して何を写そう

1、子どもより大人が夢中

宮城県沿岸部の最南端である山元町で開催された

歴史ものづくり体験教室2019 「古代の鏡づくり」

というイベントに参加してきました。

県内の文化財担当者が集まる場でアナウンスされて

これはうちの町でも体験メニューにできるか、探ってこよう!

という趣旨でしたが、すっかり夢中で作ってしまいました。

2、古代海道筋のコンビナート

まず山元町のご紹介から。

山元町は亘理郡に属し、南は福島県相馬郡新地町に隣接しています。

亘理郡はヤマトタケルの遠征における経由地にも登場し、

『続日本紀』に「曰理郡」という記述が、『和名類聚抄』に坂本という山元町内の地名が初めて登場します。

のちに奥州藤原氏の祖となる清衡の父、藤原経清が「亘理権太夫」と呼ばれ

この地に拠点を置いていたことが知られています。

さて、山元町は平成二十三年に発生した東日本大震災で大きな被害を受け、

高速道路、JR常磐線、住宅の集団移転など復興事業に伴う発掘調査が

継続的に行われ、新たな資料が続々と見つかっています。

その中でも合戦原遺跡では

古墳時代の横穴墓から線刻壁画が見つかったことが話題を呼びました。

また、古代には製鉄が行われていたことも明らかにされ、

福島県いきの相馬地方から続く古代の一大産業地帯の一端を占めていることがわかりました。

製鉄には

①原料である鉄鉱石の産出もしくは流入ルートの確保

②製鉄炉を築くのに適した地形

③燃料である材木を採取するのに適した山林

④製品を搬出するルート(川や海の水運)

が必要になります。

藤原経清の勢力基盤がこのような要衝を抑えることにあったのかもしれないですね。

3、無心で鏡を磨く体験

さて、前置きが長くなりましたが、体験教室の実際です。

子ども向け教室なので、まずは町内の遺跡の概要や

古代の金属製品に関する導入をしてから、

耐熱性シリコンでできた鋳型に粉を振り、離れを良くしたのち、

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輪ゴムでしっかりと固定して、溶けた金属を流し込みます。

画像2

使用するのはビスマスとスズの合金で130°で溶けるもの。

5分ほどで冷えて固まるので使いやすいですが

直径50mm、厚さ2mmほどの鏡を作る材料費が700〜800円ほどと高額になってしまうようです。

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湯口部分など余分なところを切り落とし、サンドペーパー(紙やすり)と研磨剤を使って磨きをかけるとちゃんと鏡面が輝き出します。

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鋳型を外した瞬間の驚いた様子や、規定時間がきても

磨きをやめたくなさそうな子ども等を見ていると、

魅力的な歴史体験メニューであることがわかります。

4、ここからが問題

とはいえ、我が町で導入するには課題が山積です。

まず、大前提として鋳型が高価で揃えられない、ということ。

内行花紋鏡や三角縁神獣鏡、方格規矩鏡など需要の高いものは

市販されているようですがそれでも1組2万円以上とのこと。

我が町では鏡の出土がありませんが、特注で実際の出土品の鋳型も作れるようです。

本物志向を貫くと費用はどんどん高価になってきます。

そして、費用対効果の問題。

私自身より小学1年生の息子の方が磨き上げられた鏡面を仕上げたので

低学年の子どもでも十分に取り組むことができますが、

時間がかかります。

今日も2時間はたっぷり使いましたね。

ふらっと博物館にきた方に気軽におすすめする体験ではなさそうです。

ただ、それ以上に、普段なにげなく見ている「鏡」というものが

どうやって作られているのかを知ることは高い学習効果を発揮してくれるでしょう。

同僚等と知恵を絞って何かしら取り入れていきたいと思いました。


ところで、本日も最後まで読んでくださった方に向けて宣伝。

3月1日に宮城県松島町で、講演会をメインとした歴史イベントを実施します。

入場は無料で、近代の地域史について、最先端の成果を目の当たりにすることができますよ。

100名が上限の会場に事前申し込みだけで70人を超える応募がありました。

ですが、いつもの常連さんだけではなく、

このようなイベントに参加したことのない方にもぜひ足を運んでいただいて

感想などをオフ会で語り合いたいと思いますので、

少しでも興味を持たれた方はこのnoteにコメントでもいいですし、

TwitterのDMでも、Facebookのメッセージでも構いませんので

ご連絡いただけると幸いです。

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