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スーパーで、手を振るあなたは美しい。

タイトルで言い切ってしまったけど、もう一度いや何度だって断言しよう。

手を振るあなたは美しい。

場所は休日昼間のスーパー、乳製品のコーナー。
安売りのロールケーキを買おうかどうか悩んだあなたは、さっと意を決したように顔を上げ、カートをごろごろ押して突き進む。
そういえば食パンあったかしら。
それとも安ければロールパンにしようかしら。
そして曲がり角、声を掛けられる。
「あの、ヨーグルト、いかがですか?」

いわゆる「試食のおねーさん」になって、かれこれ半年・・・いや8か月もたってしまった。
仕事を辞めるも、次が見つからずやばいこのままではニートニーターニーテストになってしまうと危機感からはじめたバイトである。
子供のころから漠然とした憧れがあり、あと良くも悪くもマイペースな性分が合いそうと思って選んだ。
単発のつもりだたが、まさかこんな続くとは。
人生というのはわからんものである。

ただ定着するのは圧倒的少数だ。
まぁやめていくやめていく。
思い当たる理由はいっぱいある。
8時間立って声を上げなきゃいけない、知らない人相手に話しかけ続けなきゃいけない、毎回違う商品知識を頭に入れなきゃいけない、毎回違う店に派遣されるから一人で売り場に立たなきゃいけない、慣れてくれば時々県外のスーパーに行かなきゃいけない等等。
けれど思うに、一番の要因はこれではないか。

メンタルがもたない。

試食というものは基本断られる。
10人に声かけて1人試食すればいい方で、基本ずっと拒否される。
それは全然かまわない。
試食なんて断られて当然。
おねーさんも別の地域でお客してるのだ。時々試食を断ったりもするのだ。
断る人の気持ちもわかる。熟知している。

ならなぜメンタルにくるのか。
予想以上に手酷く断られることが多いからだと思う。

「あの、ヨーグル・・・」
「いらない」
無表情に言って下さるのは全然いい方。
確かに少しダメージは受けるが、すっ・・・と潔く引き下がれる。
目線が合わないのもいつものことだ。

「あのヨーグル・・・」
「・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
少し困るのが、無視。
まず聞こえてるのかどうか分からないし、この器を差し出した手をいつ引っ込めればいいのかも分からん。
ちなみに頷くだけのもやめてほしい。意思を口で表してくれ。
でもまだまだダメージは浅い。

「あのヨ・・」
キュルッ!
(急な方向転換によるカートのタイヤの音)
「グル・・・・」
避ける。
くる。
これが一番くる。
カートが少しそれるくらいなら全然かまわない。
ただ時々、ゴキブリを避けるのかのように、大幅にルートを曲げて避ける人がいる。
いけないものを見た!という顔をしてUターンも珍しくない。
おいおい、こっちも人間なんだぞと思いつつも、ダメージは深い。
瞬間に傷つくのは避けられない。

他にもちまちまダメージが蓄積され蓄積され・・・夕方にはもうヘトヘトである。
体力だけでなく精神的にもこんなにメタメタなるとは。
単発バイト扱いなのも頷ける。

その疲れ切った全身に染みるのが、
「あの、ヨーグルト・・・」
「大丈夫です」
手を振って断る、
あなたの笑顔だったりする。
「またお願いしまーす」
そう言いながら引き下がるとき、ちょっとホッとする。
笑顔で「いいです」これだけでも、表情がほころんでしまう。

あなたの笑顔は、回復魔法。

「は?試食バイトの分際で笑顔を向けろ?何言ってんだ」
ただ、こういう人もいると思う。
ので、一番体よく断れる秘儀もここに付け加えておこうと思う。

「アレルギーがあって、食べれない」

これだ。
するとお姉さんはすっと、引き下がれる。
アレルギーの「アレ」の字がでたその日にゃもうこっちがなんか申し訳ない気持ちいっぱいいっぱいになる。
無論「食べれない」「飲めない」でも構わない。
覚えておくとちょっと便利である。

以上である。
スーパーで申し訳なさそうに断るあなたが、おねーさんにどう見えているか伝えたくて書いた。
スーパーで手を振るあなたは、美しい。
とても美しい。
そして笑顔を向けてくれてありがとう・・・いや本当ありがとうございます。
助けられているんです。ありがとうございます。
あなたに感謝を伝えるために書いた。

ただまぁ食べて買ってくれるのにこしたこたぁない。
これは会社にもよるが、たとえあなたが試食して買わなくてもおねーさんは基本ノーダメージであることのが多い。
というのもただでさえ定着しないのに、売上を重視するとさらに人が減ってしまうから・・・と思われる。
じゃあ何で評価するの、というとそれは配った皿の数、である。
おねーさんが振る舞っている食品が、少しでも関心あるものだったら、もっと気軽に食べてもいいんじゃないか。
メーカーも自信があるから試食に出すのだ。
その自信作があなたが気に入れば、さくっと買ってしまえばいい。
だからといって、無闇やたらに試食だけするとたちまち顔は覚えられてしまうので、そこは注意が必要だ。

話が長くなってしまった。
あいにく、次の就職先が決まらない私は今週末もどこかのスーパーで立っている。
あなたも、足を運んだ週末のスーパーで、試食のおねーさんを見てふとこの記事のことを思い出してくれたら、冥利に尽きる。

「ヨーグルト、いかがですか?」








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