仕事辞めるならいっそのこと×××でもしてやめてやりたい。

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僕はどこにも開けない。
「いやぁ、それはお前がお前の首をしめているだけだって」
それでもいい。
そういうお前には絶対開かない。

仕事がきつい。様々がきつい。
まず仕事を覚えるのが遅い。
もともと僕はこういうのは、遅い方だった。
小学校の家庭科の授業も最後まで一人延々ミシンを睨んでいたし、中学の技術で作った本棚は一番簡単なパターンを選んだはずなのになぜか全体的に左斜めになっていた。高校の体育のダンスはいつも教えてもらう側でようやくなんとか形になったと思っても、「まぐろどんのダンス、動きが変でおもしろいえ」へらへら笑ってごまかした。
接客の仕方、レジの打ち方、計算の仕方、締め方・・・仕事の作業もある程度は遅いことは予測していたが、予測以上に遅かった。
全てできる。練習さえすればできる。が、そんな時間が正社員労働という身分に甘んじている僕に赦されるはずもなく、ひとつひとつに慌てている。
パートさん達は優しい人が多いから、笑顔で接してくれるけど、心の奥底では何と思っているのだろうか。
考え始めたところで僕はさらにネガティブになり、業務で使うカッターを手首に当てる妄想を繰り広げ始めるので頑張って目をつぶる。
「んんーーーー!!!んんーーーー!!!」
叫ぶと一瞬忘れられる。
人間関係で孤立している。
冗談を言う。笑う。冗談を聞く。笑う。そのやりとりはできている。できている。呼吸している問題ない。
けれどどうも時々キュウッと締め付けられる。
3月末の飲み会。僕以外の職場の人物にはほとんど全員に声がかかったらしい。何なら別の店舗に異動になった白岩さんや前店長であるマネージャーの近藤さんまで全員に声がかかったらしいが、僕にはかからなかった。
別にいじめられているわけじゃない。
一時期店長副店長の仲が深く三番目の社員たる僕が2:1の法則で孤立したため、そういう傾向に陥りそうになった時があったが、今は多分そういう感じじゃない。
誘われない。誘われない人間になっていたのだ。いつの間に、僕は。
1年半のブラック企業に喘いだ塾講師期間と、1年間のニート期間、1年間のフリーター期間を経ていた僕は無意識に、「誘われない」人間になっていたのだ。
加えて業務を覚えるのが異様に遅い。
皆何も言わない。微笑む。
その眼差しには幼児・・・いじめられっ子・・・障碍者を見る時の憐憫の情はなかったか?
そらぁ飲み会にも誘われませんわ。幼児に酒は勧められない。
マネージャーの近藤さんが言う。
「まぐろどんさんにはまぐろどんさんのいいところがあるから。」
口癖のように言う。
なんて優しい人なんだろうという感銘を受けつつも、優しくない僕は心の片隅でこう思う。
「そのいいところって何だよ!!!具体的に挙げてみろよ!!!」
入社して8か月、覚えられた業務たったこれだけかよ。
「無能!!ノロマ!!!馬鹿!!!!無能!!!ノロマ!!!!馬鹿!!!!!」
んんーーーーっ!!!んんーーーーっ!!!!
耳を塞ぐ。何も聞こえない。聞こえません。
目もつぶってます。何も見えない。見えません。

「それがさ、ボクがさ、大学時代よく一人で行っていた新宿の映画館?あれおじいちゃんおばあちゃんに聞いたらさ、二人の初デートの場所だったんだよねー」
「東京の本屋と言ったら新宿の紀伊国屋。行ったことないの?」
「××××(大手食品会社)に勤めてる奴とかさ、給与俺より全然もらってるんだぜ?俺の方が仕事さしてるのにさ」
話を聞いてくれる先輩、という存在が私にもいた。「た」。
「両親の仲が非常に悪くて、実家にいづらいんだよね。父親がさ、お坊ちゃま気質でさ」
はよ長年付き合ってる彼女と結婚してでりゃいいじゃないですか。
「いや、金がない。今の給与じゃ足りない」
苦痛だ。
話を聞いてもらっているはずなのに話を聞くと心が死ぬ瞬間がある。鬱。
新宿じゃなくても日本全国に小規模の映画館はあるし、大学時代京王線ユーザーだったから新宿の本屋と言ったら絶対ブックファーストだし、塾講師から転職した際に結局似た現職を選んだのはお前だろうにとも思うし、結婚せずとも30近いんだからそんなに苦痛なら早く一人暮らしでもしろと思う。
思うが、言えない。
言えないので「ははっ」「そうですね」「タイヘンデスネ」「ソウナンデスカ」
ソウナンデスカ、遭難です。鬱。
「いやぁ・・・でもじゃあ3年付き合ってる彼女さんと同棲でも始めてみればいいんじゃないですか?」
なんて言おうものなら、
「簡単に言うね」
ーこれだからお前は。全然分かってないよ。
半笑い。
その眼差しに憐憫を見抜く。
ーお前は異性と付き合ったことがないからそう言えるんだよ。
ーお前は仕事ができない人間だからそういう悩みもないんだろうよ。
そんな先輩の話を聞きにわざわざ東京まで行くのも億劫だった。
大抵東京に行くことがあると「じゃあ会おうよ」と言ってくる。
それが半年に1回とかならまだいいが、1か月に1回は鬱だった。
「お前の話を俺が聞いてやるんだ」の姿勢で来るのも鬱だった。
「お前は仕事が出来ないやつだ」前提で全て話すのも鬱だった。
でも結局僕は仕事が出来ないやつであるという事実も鬱だった。
なんでこんな話を聞くために私はわざわざ終電で静岡に帰り、翌日職場に還るのだろうと思うともうどうしようもなく絶望的な気持ちに襲われた。真夜中終バス逃して乗ったタクシーの中で野口英世は虚無と踊る。
東京に行ったことを言わなければいいと思うが、東京に行ったからにはインスタに上げたい。でもインスタフォローされている。隠せない。
こういう問題云々が結局己の矮小な自己顕示欲に収束されるのも鬱だった。
何もかもが鬱。
鬱に塗りこめられていく曇天の東京の新宿の真下、ぽろりと口癖のように落ちてきた一言。
「なんでお前はMARCHなのに、俺は拓殖なんだろうな」
糸が途切れる音がした。
アスファルトと私に、高層ビルの影が落ちる。
知らないよ私立大の付属進学に甘えたのは誰だよ、地方在住だとそういう選択肢もないんだぞ、そおそも国公立目指して頑張って頑張って頑張って勉強した結果MARCHって・・・・・ブツッ・・・つら・・・ブー・・・・ツー、ツー、ツー。
糸電話。
きっとLINE通話居酒屋、結局総じて糸電話で今までこの人に話をしていたんだと思うが、
その糸がブツッ・・・・。
切れた。いや、僕が切ったのか・・・?

正社員労働に向いていないんじゃないか!?じゃあ、フリーターに戻ればいいんじゃないか!?そうすれば余裕が出てきっとすべてがうまあくいくんじゃないか!?
両手を広げ叫ぶと、草原中に声が響き渡るが、
肩にかかった水銀が鉛のように重く重力には逆らえない。
母親が大病した。癌だ。
恐ろしい。癌という字面だけでも恐ろしい。
父親は単身赴任で基本家にいないなか、
ひとり、フリーターで立っていられるのか。生きていけるのか。分からない。
社員労働していた方が、今の僕にも母親の心境的にもいいのではないかと思う。
どうせフリーターになっても自己嫌悪と将来の不安で苦しむのだ。
じゃあ社員でいいじゃん。
でも覚えるスピードが遅いんだ。そして社員たるもの上にいなきゃいけないのに下にいるし、見られている。愚。君は向いていないよ。社員労働向いてない。そもそも幼児に社会人ができると思うか?
そう、社会不適合者ってやつなんだよ。
「わああああああああああああああああ!!!!!!!」
目を塞ぎ耳を塞ぎ雨降る中で絶叫して、絶叫してどっか飛び込みたい。
多分、自ら命を絶つ人って「死ぬぞ!」と思って絶つ人もいるけど、こういう感情の高ぶりのままに絶つ人も、いるんじゃないか。
通勤で使う小さい駅のホームからもしくはあの高層ビルの真上から。

友達は一人も地元にいない。
中学高校時代の友達も皆東京へ、大学時代の友達も皆無論東京にいる。
今年の初め、大学時代の集まりで結婚式に行ってきた。
皆卒業後から仕事を辞めておらず、そのほとんどに相手がおり、場合によっては同棲していて、着実に「20代後半」をしていた。
結婚後関東から九州に嫁ぐという友達は、笑顔がまぶしくとても美しかった。学生時代からの5年の交際を実らせた末の結婚だった。
僕がブラックに喘いで仕事辞めてニートしてフリーターして結局社員労働もうまくいっていない間、二人は正常に愛をはぐくんでいたんだと思った。
ああ大学から卒業して数年後にいるんだと思った。
気づけば僕はもう26で、それなのにこんな些細なことで縛られている。
本当に26歳になるなんて、思わなかった。
地元にいても、時差を感じる。
30手前のパートさんには中学に入る息子さんがいるという。
同級生の年齢のパートさんには3人目の子供が生まれたという。
東京からも取り残され、静岡からも取り残されている。

職場に新人社員が入って来るらしい。
非常に仕事ができる、物覚えがとても良い子らしい。
恐らくメンタルも健全。
ただ何故僕の職場に来るのだろう。
店長副店長僕3人。社員の規定人数は満たしているはずなのに。
「窓際に追いやられている」
呟いてみる。
実際には店舗なので窓際もクソもないのだが、その窓を飛び込み割って、掠る鮮血と共にどっか行ってしまいたい。
物覚えとかそういうのはもう努力の範疇を超えている部分はどうしたらいいの。
そもそも働くのに向いていないんじゃないの。
勉強は良かった。滅茶苦茶頑張ればまあまあ結果はついてきた。MARCHにも行けた。
でも仕事は滅茶苦茶頑張っても伴う結果が少なすぎる。いくら真剣にミシンを睨んでも縫い目は斜めになり、ねじを止めるコツがいまひとつつかめず留めるのにも一苦労し、何故右手と足のステップが同時にそんな華麗に動くのかは永遠の謎だった。
きっと彼女は、ナップサックをクラスで一番初めに仕上げて、スムースで複雑な設計の本棚を仕上げ、ダンスも難なく体育の時間内で身に着けて、変な踊りをするクラスメイトを笑ってきたのだろう。
じゃあ勉強の道進めばと思うが、今親がこうなった以上もう僕は今は働くしかない。院進学とか学芸員とかそんなのんきなことは言っていられない。
友達は静岡に一人もいない。飲み会の席なんて一年に一回座れればとてもいい方・・・。
みんな東京。みんなTOKYO2020に行ってしまった。
中高時代の友達、大学時代の友達皆手をとって輪になって歌っているに違いない。
僕は一人・・・ひとり・・・ヒトリ・・・。

いっそのこと生まれ変わってしまいたい。
仕事辞めるときはもー、業務で使うカッターを手首に当ててフワァーッ!!てなる血を見ながら死にたい。

「んんーーーーーっ!!!!んんーーーーーーーーっ!!!!!」
僕はどこにも開かない。

嘘。
そこまでする度胸もない。
嘘。ぜーんぶ、嘘。
ははは。嘘です嘘なんです~~~。
通勤で使う駅のホームの安全柵を飛び越えるほど身体強くないし、高層ビルの屋上にも上ったことがないし、なんと私のカッターにはすべて安全装置がかかってるんですよ~~~!!!
映画館は新宿にしかないし友達も東京にしかいないけどツイッターで繋がってるから!ずっともだから!
職場はあわよくば一歩間違えれば全員敵で家族にも何も話せないけどインスタで「東京の美術館行ったよ」呟けば♡が5つはくだらないから!ずっともだから!!ずっともだから!!!

無能!ノロマ!!馬鹿!!!
無能!ノロマ!!馬鹿!!!

「ソウナンデスネ」

んーーーーーっ!!
んんーーーーーーっ!!!
耳を塞ぐ。目をつぶる。
叫ぶと何も聞こえなくなって無。

開かない。僕は気づけば誰にも、開かなくなってしまった。
気づけばもう僕自体が無。

右手に安全装置のかかったカッターを持つ。刃は鈍い。
どこかある地点に戻りたいと思うがもうそれがどこかも分からない。
なんとなく助けてくれと思うが誰に助けを求めてるのかそもそも僕は誰かに助けを求めているのか?
足元を見るとただのゴミと化した潰れた紙コップが落ちている。そこにはセロハンテープで糸が張られているが、切れたままでこれではもうどこにも届きません。
聞こえませんし、見えません。
多分死ぬためではなくただの感情発露。

仕事辞めるならいっそのことリスカでもしてやめてやりたい。

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