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「Tot Musica」が聴きたくて『ONE PIECE FILM RED』を観に行っちゃった。

 ONE PIECE を知らないことが、コンプレックスでした。

 おそらく全世界で一番読まれた漫画の一つ。最新刊が発売される度に書店やコンビニでも大々的に特集が組まれる。新作の劇場版が公開されれば、劇場は満員になる。それほどの知名度と人気を誇る国民的作品を、原作もアニメも通らないまま、歳を重ねてしまいました。

 理由は、「ワンピースが好きな人」が嫌いな時期があったから。高校時代、サッカー部に所属しワンピースを愛読書としていたあなたは、たくさんの人を傷つけてきましたね。麦わら海賊団の絆が何だ友情がどうしたと騒ぎ立てる癖に、目の前の学友に酷いことをしたあなたは、ワンピースから一体何を学んだんですか。キャラクターの活躍に心震わせ、過酷な運命に直面する様を見て号泣したと語る心を持ち合わせながら、他人を虐げることができるあなたのことを、私は今でも苦々しく思っています。

 ……もちろん、作品と尾田先生には何の落ち度もないわけで、私自身もワンピース、読んでみたいなと思ったことは数え切れないほどあります。でも、そう思った頃には単行本は100巻、アニメは1000話を超えています。容易に手が出せる代物ではなく、周囲の熱狂に見てみぬふりをし続けてもう立派なアラサー。一生読むことないんだろうなと思っていたワンピース、なぜ私は今、その最新劇場版を観に満員の劇場に立っているのでしょうか。

推しが楽曲提供しちゃったぞ!!

 「澤野さんがAdoさんの曲作ってる」青天の霹靂すぎて、公表された際の驚きたるや、凄まじいものがありました。澤野弘之×Ado×ワンピース。若きカリスマシンガーとこの世界で最も読まれている漫画のアニメに、澤野弘之の音楽が乗る。さらにそこに先日観たばっかりの『コードギアス』シリーズの谷口悟朗が監督として乗っかってくる。あまりに理想的すぎておれが作った映画……??と思ったり、「澤野さんが曲作るってことはAdoさんがドイツ語で歌唱するってコトじゃん」と叫んでたら拗らせすぎと笑われたりもしました。いやだってAdoさんの「βios」聴きたくないですか……?ワンピース目当てに劇場に駆けつけた無垢なキッズたちにバチバチにキマった澤野サウンド喰らわせて、そのまま『キルラキル』とか『アルドノア・ゼロ』に入信させたくないですか……?

 あとよくよく調べたら他の楽曲提供アーティストも豪華で、中田ヤスタカ、Mrs. GREEN APPLE、Vaundy、FAKE TYPE.、折坂悠太、秦基博が集結しております。なんかこう、集英社から札束で殴られるような映画ですよね。ありがとうございます。『THE FIRST SLAM DUNK』もめちゃくちゃ楽しみにしてます。頼むぞ。

よっしオラ予習すっぞ

 というわけで、生まれて初めてワンピースの映画を観に行くことが確定した俺氏ですが、いくら何でもこれからワンピース全史を履修するのは当然間に合いません。

 もちろん、日本でオタクをやっていたら、ワンピースの受動喫煙がないなんてことはあり得ません。さすがにルフィがゴム人間だとか、アラバスタ編が名作だとか、ルフィは何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ!」は言ってない、くらいの知識はあります。裏を返せば、それ以上の知識はないのです。麦わらの一味にはいつの間にか知らないメンバーがいるし、そもそも彼らが何のために海賊やってるかも知りません。Adoさんが歌唱を担当するウタちゃんはシャンクスさんの娘らしいのですが、そもそもシャンクス誰??が私なのです。もう非国民だろコイツ。

 ということで、twitterのスペース機能を使い、フォロワーに色々質問攻めをして前提知識を最短で叩き込みました。その結果がこちらになります。

・海賊王が死に際に遺した大秘宝を目指し、世は大海賊時代になっている
・ルフィはその秘宝を手に入れ海賊王になろうと冒険している
・シャンクスさんはその世界における海賊トップ4の一人
赤い髪でCV:池田秀一なので最強
シャンクスさんはルフィの父親ではない
・ウタちゃんは「無から生えてきた娘」らしい
シャンクスさんは複数人説が囁かれている
Youtubeで見かけるワンピース考察動画のサムネ、だいたいこの人
・トラファルガー・ローというイケメンがいる。

サンキューフォロワー

 さらに、公式から【これを見ればREDに間に合う!】と題してアニメの4話がアップされております。こんだけ売れてて読んでない奴の方がマイノリティなのに、ちゃんと導線を用意しているの、偉いですよね。

 ということで、空っぽの頭に夢と知識と推しへの愛を詰め込んで、『ONE PIECE FILM RED』を観てきました。ここからはワンピース未履修の戯言と思って、読み進めていただけると幸いです。あとめっちゃネタバレします。

めっちゃ馴染んだ

 ちゃんと二時間退屈せずに観られて良かった〜〜〜〜〜。わりとオールスターキャスト興行的な側面もあるんですけど、みんな濃いキャラ付けと能力で色分けされているから、「彼はバリアで彼は空間移動ね」とか、「彼は頭脳派で作戦立案する係ね」と、名前がわからなくてもなんとなくついて行ける、『ガルパン』みたいな仕上がりで本当に助かった。

 今回のメインヒロインのウタちゃん、Adoさんの歌唱力がズバ抜けているので、作品世界において人気トップの歌姫という設定に違和感がないし、おれは『アマガミ』のオタクなのでCV:名塚佳織の幼馴染をずっと耳に運んでもらえて幸せでしたルフィそこ変われ。左右の髪の色が違うとか登場時のパーカーとか、キュートさと歌姫のちょっとアバンギャルドな感じが相まってすごく可愛らしいし、ウタが歌って踊るライブシーンはちゃんと多幸感があって、アイドルアニメとしての魅力を兼ね備えているのも凄い。

 それと、「Tot Musica」、すっげぇ良かった。映画を観る前に我慢できず配信で聴いた際は「なんでこんな禍々しい曲に……?」と思っていたのですが、まさか曲名とラスボスの名前がイコールで、しかも音楽モチーフの作品だからシューベルトの『魔王』がベースになっているなんて。家路を急ぐ父子から、理想郷の夢で子どもを惑わし、父親から引き剥がそうとする魔王。対して、ウタとシャンクスが離別するきっかけを作った今作の魔王トットムジカ。作中でもかなり大切に、二度も流れるなど要所として配された「Tot Musica」を、劇場の大音響で浴びる幸せったら、たまらなかったですね。

惜しいなって思ったこと

 ただ、そうした諸々の見どころとは別にして、大枠の物語にはちょっとした引っ掛かりがありました。具体的には、「海賊への批判が投げっぱなしに終わったこと」について。

 海賊は自由気ままな夢追い人である一方、力なき民衆にとっては略奪と暴力の象徴でもあります。ウタちゃんが苦痛なき理想郷を仮想現実に求めたのは、そんな海賊の在り方に対する人々の声があったことも確かです。最終的には幼きウタちゃんが無意識にトットムジカを目覚めさせてしまったが故に起きた悲劇をシャンクスが背負い、その真実を伏せられていたことによる海賊嫌いと、その解消(父娘の和解)で風呂敷は畳まれます。

 その美しい幕引きはさておき、冒頭で示された海賊が犯してきた罪、あるいは劇中で描かれる、民衆を巻き込むことを厭わない傲慢さを見せる海軍、それら全ての上に立つ天竜人の在り方。こうした支配構造が世を支配し、人々の間で悲しみが連鎖する状況については、何ら解決策は提示されないまま映画は終了します。大海賊時代という作品世界の根底をなす設定にカウンターを打つような冒頭のショッキングさは、ウタちゃんの納得の下に消え去ってしまうのです。

 もちろん、それはおそらく本誌の漫画で扱われているテーマでしょうし、二時間の映画で結ぶにはあまりに重たい課題ではあります。ウタが歌った「新時代」への希求は、争いがなく食べ物も命も奪われない世界があったらいいなという、それはそれで純粋無垢な願いだったはず。外の世界を知らず、ファンの願いの受け皿となってしまう偶像的な側面が際立ってしまったが故に起きた今回の事件は、世界を少しでも良くするきっかけになったのでしょうか。

 「海賊王におれはなる!!」
  その言葉にウタの意思が受け継がれていることを、願うばかりです。

それはそれとして

 楽しかったです。普段観ない作品にあえて触れてみるのもいいものですね。ワンピース、冒頭のイヤ〜な思い出が足を引っ張り触れずに生きてきましたが、「世界に敷かれている支配構造に自由を信奉する海賊が一太刀入れる」みたいな物語だったら、たぶん好きになれます。

 ワンピースへのアレルギーが和らいだこと。これが一番の収穫だったのかもしれません。あと、次の映画では劇伴まるごと澤野弘之とかどうですかね??尾田先生と集英社にアルバムとか送りたいな……。

そんな澤野さんのライブがあります!!!!!

 みんなも行ってくれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

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