FPS弱者、『CRYSIS2 Remastered』で捕食者<プレデター>になる。
ゲーマーの中には、FPSやTPSが好きだがFPSやTPSが苦手、という人種がいることを読者各位はご存じだろうか。
いや、これはあまりに乱暴なくくりになるだろうから、もう少しレイヤーに分けて分類すると、私は「FPSやTPSが好きだがオンラインの対人/協力プレイが苦手」という種族になると思う。バトロワ系ゲームが主流となった今、精密なエイムや地形の把握、ロールの役割を意識したプレイを要求されるそれは、果てしなくハードルが高いものに感じられる。自分のプレイングスキルが所属したチームの勝敗に紐づくというプレッシャーに、耐えられないのだ。故に私は、CPUのエイリアンや人間をハチの巣にして、一人暗い部屋で仄暗い暴力衝動を解放する方が性に合っている。それが映画っぽいシチュエーションを楽しめるとしたら、なおさら良い。
というわけで、セール時に買ったまま起動すらせず放置していた『CRYSIS2 Remastered』をようやく遊ぶことにした。当時としてはかなり高いスペックのPCを要求したというハイクオリティな描画表現が話題となった一作目と、コンシューマーとの同時展開で発売された続編2作の3タイトルが、マルチプレイを廃したシングルプレイ専用のリマスターとして復活。一人でじっくり遊べるシューターとして、求めていたものにバッチリとハマった作品がこれだった。
実は前作にあたる『CRYSIS』を、学生時代に友人宅のPCで遊んだことがあり、自分でも『Remastered』を買って改めてクリアしたことがあった。こちらはフィリピン沖の美しい海に面した島が舞台で、北朝鮮軍から襲撃を受けた考古学研究グループを救助するために島に潜入したアメリカの特殊部隊員が、ジャングルの中で謎の地球外生命体と接触する……というストーリー。簡単だと思われていた任務に謎の第三勢力が介入し、しかもそれが宇宙から来た生命体だった、と言われれば、ジャングルという舞台も相まって映画『プレデター』を思い出す人も多いかもしれない。
実際、一作目はかなり『プレデター』オマージュを随所に感じさせてくれる作品だったが、肝心なのは「プレイヤーも捕食者(プレデター)になれる」という点。主人公が装備するナノスーツは、自身の姿を消す「クローク」や受けるダメージを軽減する「マキシマムアーマー」といった自己強化が可能であり、その能力を活かして「有利な立地から敵を狩る」ことを追求したプレイを約束する。クロークの能力で敵から身を隠して暗殺プレイをしたり、はたまたアーマーの防御力を盾に真正面から特攻したりと、好きなプレイスタイルを選ばせてくれる懐の大きさがあった。また、フィールドもセミオープンな広さを誇り、目標地点に対し複数のルートが存在するなど攻略にも自由度があった。
無策で動き回れば勝てないが、スーツの能力で足りないFPSスキルを補ってくれる『CRYSIS』は、見た目よりも優しい難易度で手に取りやすいタイトルだった。前述の『プレデター』っぽさも好みだったし、物語終盤になると「パワードスーツで武装した北の将軍様と闘う」というぶっ飛んだシチュエーションで笑いを届けてくれた。ジャンルへの知識が浅いのでシューターとしての質を語ることは出来ないが、エイミングのみが勝敗を分かつリアルさに「SF」という下駄を履かせて遊びやすくしてくれた本作は私にとって楽しい一時であった。
それから数年越しに『2』を遊んでみることにした。物語は前作から3年後、舞台はニューヨークのマンハッタン。ceph(セフ)と名付けられたエイリアンの襲撃は全世界に広がり、彼らが撒いた未知のウイルスによって人類は未曽有の危機を迎え、生き残った人類の間では陰謀論が幅を利かせている。その混乱の中、生物工学者ネイサン・グールド博士の救出任務のため出動した海兵隊フォース・リーコンは、敵の攻撃を受け海上で壊滅的打撃を負う。一人生還したアルカトラズは(前作に登場した)プロフェットに救助され、ナノスーツとグールド救出を託される。かくして、主人公は人類とエイリアンの両方に命を狙われながら、決死のミッションに挑むことになる。
前作が自然のジャングルなら、今作はNYの摩天楼を舞台としたコンクリートジャングル。『プレデター2』がロサンゼルスを舞台にしたことを思えば、今回もまたオマージュたっぷりの一作と言えるだろう。ビルを見上げた際に人知れず動くエイリアンの影を見た際は、映画のワンシーンを強く連想した。それだけでなく、本作にはスタッフクレジットを含む勇壮なオープニングムービーが用意されているし、BGMの一部を手掛けたのはあのハンス・ジマーだ。『2』は前作以上に“映画っぽさ”に磨きをかけたタイトルであり、その変遷はまさしく“for me”だ。銃火器片手に、憎きエイリアンどもを肉片にしてやろう。
シリーズの顔たる「ナノスーツ」の強力さは健在で、スーツを用いた優位を押し付けるゲームバランスも前作同様。前作の島が「横に広い」マップだったのに対し今作はビル街であるため「縦に広い」ため、高いところに陣取って強襲をかける、遠距離射撃を浴びせるといった戦略が実に有効だ。今作から「バイザー」を使って周囲の敵の位置などを事前に把握することが出来、より戦略を練ってのプレイングが可能であるため、敵を狩る楽しさはより増している。交戦状態でもクロークを使えばこちらを見失ってくれるので、不利な状況を立て直したりゴリ押しの反撃に転じたりも出来る。エイミングに頼らない攻略法もあるという余地が、FPS弱者にとってはとてもありがたいのだ。
ところが、この「優しさ」こそが痛し痒しなのだ。『CRYSIS2』は敵を排除する選択肢こそ増えてはいるが、広大な島を好きなルートから攻略するという一作目の圧倒的な自由度からは、かなり見劣りするタイトルに仕上がっている。オープンよりはリニアなマップへの変更と、Chapterごとに舞台が大きく変わりその都度ムービーによるブリーフィングが流れるなど、その他のタイトルと変わりない「普通のFPS化」が著しい作品なのだ。
『CRYSIS』を定義づける強烈な個性は、今やナノスーツのみとなってしまった。だが、プレイヤーキャラの運動能力の強化という側面においても、『タイタンフォール2』のパルクールアクションと比べたら本作の挙動はまだまだ固い。元が2011年のタイトルゆえに致し方ないところだが、ジャンルの進化が激しい今、本作もまた過去の名作のリマスター以上の価値は見いだせず、最新ハードやゲーミングPCが揃っている人に敢えて勧める理由は、残念ながら見当たらない。対人の煩わしさに囚われず、映画っぽい銃撃戦を追体験したいという需要には応えてくれる今回のリマスターも、かなり狭いニーズを満たすのに留まってしまった。
皆はインクで床を塗り、私はAIが動かすエイリアンを撃ち殺す。対人戦恐怖症という生き物は、流行についていけないので、延々と懐かしのゲームを遊ぶしかないのだ。今日も画面の中では、私の分身がアクション映画の主役の如く、AK-47をぶっ放している。