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破ァーッ!!!!てしたら世界が崩壊したのでカヲルくんにQンQンするシンジさん

 先日の『序』に引き続き、『破』『Q』再上映版を観に行ってきました。とくに『Q』は「巨神兵の同時上映がない3.33verの劇場公開」という今しか観られないレアバージョンなので、みんな行ったほうがいい。

 4D版ならもっとスゴイですよ。シンジさんが積み上げた本を倒すシーンで座席が動くので「おれたちは“本”なんだ…!!」と作中屈指のシリアスシーンのしんどさが中和されます。


破ァ!!!!!!!!!!!!!

 『序』が実質TVシリーズ+αな内容だったため油断していたら、2作目なのにうっかり最終回が始まってエヴァオタ全員が劇場でひっくり返った伝説的作品『破』、なんと公開からもう10年が経過していました。

 謎の新キャラクター・マリのお披露目回のためだけにお陀仏となった仮設5号機と第3の使徒、辛気臭いにも程がある墓参り、式波さん襲来、ドキドキ♡共同生活、奇跡を待つより捨て身の努力よ、ぽかぽか、味噌汁、包丁を見つめる綾波……、四号機蒸発、三号機来日、誰が乗るん?、今日の日はさようなら、籠城、「そんなの関係ないよ」、家出、最強の拒絶タイプ、裏コード、「碇君がもう、エヴァに乗らなくていいようにする…だから…!!!」、振り向き美人、「なぜ私を拒絶する…ユイ…!!」「乗せてください!!」「僕を…っ、この…っ、初号機に乗せてください!!」「なぜここにいる」「父さん!僕は!エヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジです!!!!!」、「綾波を…かえせ!!!!!!!」「やめなさいシンジくん!!ヒトに戻れなくなる!!」「行きなさいシンジくん!!誰かのためじゃない!!アナタ自身の願いのために!!!!!」「いいの、碇君。私が消えても、代わりはいるもの」「違う!綾波は綾波しかいない!」「だから今、助ける!!

 要素が多い。この一言に尽きる『破』は、不器用ながらにも他者と繋がろうとする『エヴァンゲリオン』が繰り返してきた挫折と諦観の果てに訪れた、トゥルーエンドのような物語。ポイントは、どのキャラクターも誰かのために行動する心の余裕があることでしょうか。

 綾波は碇親子の親睦のために食事会を計画し、アスカは食事会を開催させるために三号機のパイロットに志願する。そして我らがシンジさんは、綾波を助けるために自らの意思で初号機を覚醒させるに及び、TVシリーズから見守ってきたファンは父性と母性の蛇口をメッタメタに破壊され、嗚咽を漏らしながら劇場で屍と化す。

 実際、2009年の公開初日の劇場ではエンドロールに突入した瞬間に場内がどよめき、次回予告が始まるタイミングで一斉に静まり(訓練済みかよ)、『新劇場版:Q』がミサトさんからアナウンスされた瞬間に拍手喝采が起こりました。イベントでもなんでもない、通常の上映で拍手が起こった瞬間を生まれて初めて目にしたのも、『破』の忘れられない思い出の一つ。

 本作においてシンジさんは、エヴァに乗ることへの心境が大きく揺れ動いていきます。第8使徒を倒した際、父ゲンドウから賞賛の言葉を受け取り、エヴァに乗って使徒と闘うことをようやくポジティブに受け取れるようになりました。その直後、使徒によって寄生された三号機と会敵し、戦闘を拒否したためダミーシステムによってアスカもろとも使徒は処理され、「エヴァに乗っても何にもいいことなんてない」と初期のマインドに逆戻り。しかし、マリの乗る弐号機に連れられて見た、綾波が捕食される光景を見て奮い立ち、再び初号機に乗る決心を固めます。受け身で、誰かに求められ命令されるからエヴァに乗っていたシンジさんが、自分の意思で闘うことを決める物語。

 クライマックスに相当するシークエンスはご存じの通りTVシリーズ第拾九話『男の戦い』の引用ですが、例の台詞の前に「父さん!」と付け加えられ、ゲンドウをのけ反らせるほどの迫力を見せつける。全てが初号機覚醒への導線として配置され、しかしTVシリーズが「初号機(ユイ)が息子を護る」ための覚醒だったのに対し、今作では「綾波を助けるためにシンジ自身が初号機を覚醒させる」という、シチュエーションが似通っていてもまるで異なるエモーションでぶん殴ってくる。だからこそ『破』のラストは感動的で、「庵野さん、結婚して丸くなったね……」と安堵の表情を迎えられるのです(そしてそれは3年後にちゃぶ台返しされる)。

 通称ぽか波さん、味噌汁でサプリ以外の食事の味を知り、誰かと一緒に食卓を囲む喜びを知る。TVシリーズでいえば「ニンニクラーメンチャーシュー抜き」以外の食事シーンの印象が無く、それも相まって人間離れした存在感を放っていた伝説的アニメヒロインさんなんですけど、今作でようやく誰かと繋がることに自覚的に動き、エヴァのギャルゲーがあるとすれば最高難易度であるところのシンジ×ゲンドウのキューピット役を果たそうとする。かわいい。

 アスカ、好きなんスよ…(腕組みオタク)。エヴァに乗ることだけがプライドで、錆びた水のバスタブに浸かっているようなヤベー頃の惣流さんも大好きなんですけど、やっぱり一番愛らしいのは式波さんなんだよなぁ。加持さんへの憧れ(というよりは誰かに求められたい/人形でありたいという潜在意識)を旧作に置いてきて、エヴァに乗ること以外の喜びを知り、誰かと話し心を打ち明けることへの抵抗感を無くしていく。

 比較して良い悪いではなく、「もし惣流が心を壊さなかったら」というアナザーエンドを観ているような気持ちにさせてくれる式波大尉、あまつさえ誰かのために料理に挑戦し、指を傷だらけにする健気さ愛らしさ!!!!レイより絆創膏の数が少なくて、「私の方が優秀ね!」ではなくて「負けた」と認知する式波さん!!!!!!!!!!!あああぁあああぁあああああァああああああああ!!!!!!!ううっうぅうう!!俺の想いよアスカへ届け!!第三新東京市のアスカへ届け!

そりゃぁないぜミサトさぁん

 『ヱヴァ』が『エヴァ』に戻った。鑑賞後、最初に脳裏によぎったワードがこれでした。2012年公開、現状最大の問題作『Q』は、誰もが待ち望んだ『破』のその後として考えられるであろう最悪のビジョンだけで構成された、悪夢のような映画でした。

【あらすじ】
初号機から排出され、目覚めたシンジ。なぜか周囲の人間からは忌み嫌われ、リツコさんは髪を切りミサトさんも艦長に昇進している。初号機はこのヤマトめいた戦艦のエンジンにされたらしい。おまけに、寝ている間に14年が経過していて、世界を崩壊させたのは自分で、綾波は救えてなくて、トウジの妹もべっぴんさんになってて、アスカからはガラス越しに殴られ、首に爆弾を装着された件について。おれたちのアスカさん、身体は14歳なのに精神は28歳なのでより好きになってしまった。なーにが「エヴァの呪縛」や。いい歳こいてエヴァから卒業できないおれたちの暗喩かいな。はは。ヴィレー(笑)

 どうして『Q』はこんなにしんどいのか。初見時はまるっきり変わってしまった世界や敵対関係を押さえるだけで精一杯で、各所に散りばめられた謎やキャラクターの感情に寄り添うのは二度目以降。でも段々と回数を重ねていく内に、観客の視点=14年ぶりに目覚めたシンジの視点がシンクロするからこそ、全ての他者が敵になり、綾波は別人で、唯一心を通わせたカヲルくんを自らの過ちで死なせてしまうという、あまりに凄惨な罰を受ける道程に、もう観ていられなくなるからです。

 やっていることは『エヴァ』と何ら変わらないのです。相変わらず大人たちはうまく状況を説明できないし、しようともしない。自分の要件だけ伝えて、こっちの心情に寄り添うような余裕なんてない。そうしたディスコミュニケーションが積もり積もって、フォースインパクトまで起きてしまう。関係性の破綻が世界の終焉に繋がる物語、どうしようもなくエヴァ的で、ぼくらはそんな世界に魅了されてきた。でも、『破』で他者理解への希望をわずかながらに抱き始めたぼくらは、14年経って再び裏切られることに、どうしようもなく落胆して、なのにこの物語に耽溺してしまう。

 しかしそれでも本作が決定的に旧作と異なるのは、シンジさんの加害者性に言及した点にあります。これまでの彼は、良くも悪くも周りに流され、主体性のない人物だった。だがそれも、生育環境や周りの大人の悪影響であることは誰の目にも明らかで、運命を仕組まれた被害者としての印象が強かった。

 『Q』時点でのシンジさんの基本マインドは、「エヴァに乗ったって何もいいことなんてない。乗りたくない」であり、初期に舞い戻った形にある。しかし、カヲルくんの誘いを受け、彼はエヴァ第13号機に搭乗することを自ら決断する。初号機を覚醒させた結果ニアサードが起こるなんて知らなかったのだから、映画冒頭まではまだ被害者でいられたのに、その立場を自ら放棄してしまった結果、再び世界を崩壊させ、カヲルくんを死なせてしまう。

 嫌なことから逃げ出して、でも挑戦してみたら案外いいこともあったりして、でも結局こうなる。世界は敵で、自分はどうしようもない人間で、卑怯で、臆病で、弱虫で、ぼくは取り返しのつかないことをしてしまった。自分の行動に責任を持つのが「大人」ですが、14歳のシンジくんはそれさえ誤った。たくさんの人を死なせてしまった。失望させてしまった。

 『Q』のラストにおいて、自罰的な思考である意味自分を守っていた旧シリーズよりもさらに下へ、何一つ成し遂げられずただただ慟哭するしか出来ない見っともなさを晒し、その姿は劇場に駆け付けたチルドレンの心も傷つけた。凄まじい一作ですよね。ゴールデンタイムの金曜ロードショーで放送していいナニじゃないでしょ

 ちなみに、『Q』のアスカも最高です。眼帯×帽子(缶バッヂついてる)×プラグスーツという新たなファッションでフェチを開拓し、作中最もシンジの心に近くて、彼の愚行を止めようと必死になり、息を切らしながらエントリープラグに駆け寄り、シンジくんを立たせるんですよ。ママ……。

 本来なら、2020年12月、『シン』が公開されてようやく半年経ち、考察や感想も落ち着いた頃合いだったのに、憎き疫病によって完結は翌年まで先延ばしされ、まだ宙ぶらりんな日々を送っています。泣いても笑っても、あと一作、あと一か月で終劇。こわい。

つづく

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