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ここは最低、救いはない。『Burnout Paradise Remastered』

 映画『グランツーリスモ』が思いの外よく刺さる映画だったので、何かお車のゲームでもやってみっか、という低い志とセールのタイミングがたまたま一致したのでお迎えした『Burnout Paradise Remastered』、実に豪快で雑多で無法地帯で、現代のストレス社会にとてもよくマッチするゲームだと思う。

 『グランツーリスモ』がリアルを追求したドライビングシミュレーターを自称していて、その対極にあるカジュアルなレースゲームが『マリオカート』にあたるだろう。では『バーンアウト』はどこにあるかというと、その狭間でただひたすら車をスクラップにして暴れまわる、もう誰にも止められない暴風雨のような存在感を放っている。速さを競うよりも、いかにして相手の車にちょっかいをかけテイクダウンさせるかを思考する、恐ろしくて爽快なバトルカーアクション。リアルで運転する前にプレイするのは、お薦めできかねる。

 ゲームを始めると「パラダイスシティ」と呼ばれる箱庭に車一台で放り込まれ、街の中に配置されているチャレンジを勝利して、ライセンスをアップデートするようラジオFMのDJに命じられる。本作にはストーリーはないし、プレイヤーの分身となる主人公の存在は文字通り影も形もない。あるのはハンドルを握るべき車と、ひしゃげたライセンスだけ。

 チャレンジはゴール地点に1位で到達する通常のレースもあるが、規定の数の車をテイクダウンさせる「ロードレイジ」、自車を執拗に狙うライバル車の攻撃を避けながらクラッシュすることなく目的地を目指す「マークドマン」、ジャンプやドリフトといった様々なスタントで得点を競う「スタントラン」などなど、車というものを鈍器やアクロバティックのための道具か何かと勘違いしたかのような正気を疑う内容が取り揃えられている。広さとしては現行のタイトルとは比べるまでもないが、その代わり密度がものすごいオープンワールド状のパラダイスシティを、自由気ままに走り回ることができるし、ある意味で「それだけ」のゲームだ。

 楽園と名付けられた街はしかし、その実態は無法地帯もいいところだ。レーシングに興じる車は我が物顔で対向車線を逆走するし、故意の衝突は日常茶飯事という言葉では収まらない。それなのに街には警察機構が存在しないのか、どんなに危険運転をしても取り締まられることも、追いかけられることもない。明るい陽射しと陽性の空気に囲まれたパラダイスシティは、さながら『マッドマックス』のごとき倫理感の欠けた世界である。車はスクラップして動かぬ箱となり、事故が起きても誰も運転手の命を心配しない。そんな世界で、ノリノリのロックをBGMに今日も元気に走り抜けられるのは、狂人だけだろう。

 そんな狂った世界で車を転がす行為は、実に楽しいものだ。元より精密なドライビングテクニックを要求されるリアル志向のレースゲームに苦手意識があったため、要はこれくらい大雑把な方が気兼ねなく楽しめる、ということだ。例えばレースにおいても、オープンワールドであるがゆえに道は一本ではないため、コースアウトしても取り返すことは可能だし、相手を追い抜くのではなく「ぶつけて、どかす」が勝利の鍵となるため、多少のラフプレイも許してくれる寛容さを本作は有している。一秒を争う精密さよりも、いかに己のパワーを誇示できるかという、競争内容が格闘ゲームのそれであり、登場する車両のステータスに「タフネス」の項目があるような、そういうゲームなのだ。

 まどろっこしいチュートリアルもなく、進行を妨げるムービーもない。徹頭徹尾シンプルで猪突猛進、走って壊して壊されてを繰り返す豪快極まりないカーアクション。その唯一にして最大の弱点は「飽きが早い」ことだろうか。ライセンスがグレードアップすればより難しいチャレンジに挑戦できるが、内容としてはあまり代わり映えはしないし、オープンワールドという性質上同じ街を何度も何度も走り回ることになり、コースとしての目新しさは1秒ごとに摩耗していつしか0になっていく。リメイク元の原作が2008年ということもあり、その辺りは技術的な限界があるのか(全てのDLCが実装されたリマスター版とはいえ)面白さも目減りして、あれだけ興奮した車両のクラッシュ映像にも不感症になっていく辺り、人間というのはどこまでも我儘な生き物だと実感した次第だ。

 現実ではご免被りたいし、巻き込まれたくもない車の衝突事故。それを何ら心痛めることなく故意に発生させ、無情にも四輪駆動の棺桶と化す相手車両を見てゲラゲラ笑っていられるのも、ゲームならではの体験と言えよう。底が浅いんだか深いんだかよくわからない作品だが、車に乗っている限り全ての蛮行が許され見逃される狂気の街でのドライブは、日々の生活で正確さを求められ、間違うことを恐れるようになってしまった人々にわずかながらの癒しをくれる……かもしれない。何はともあれ、リアルは安全運転、バーンアウトならジャイアンのように我が物顔で車道を独占するのがオススメだ。

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