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マルチバース・オブ・魔ッ女ネス『ベヨネッタ3』と、老いたぼく。

 私事だが、12月に誕生日を迎える。

 歳をとることはめでたいことだ。一年を健康に過ごせたことを感謝して、また新しい一年に向けて改めて頑張ろう、などと決意を新たにする。と同時に、「老いる」というのは悲しいことでもある。数年前と比べて仕事のパフォーマンスが下がっていることを自覚する機会も増えたし、映画やゲームを消化する速度も落ちている。いや、それ以前に「ゲームセンス」なるものがあるとすれば、おれのそれは確実に劣化の一歩を辿っている。そのことを教えてくれたのは、あの美しくも淫靡なアンブラの魔女であった。

 ベヨネッタ。プラチナゲームズより産まれセガより世に出た麗しきこちらの魔女は、大人の都合の何やかんやを経て任天堂ハードに移り、スマブラに少しばかり寄り道をして、ついに『3』が発売された。制作が発表されてから実に5年待たされたわけで、待望の新作といって差し支えないだろう。もちろんおれもダウンロード版を即予約して、発売日の0時に遊び始める算段をつけていたが……一ヶ月が経とうとするこのタイミングまで一区切りを打てなかったのは、公私共々に多忙を極めていたのと……単純にプレイのモチベーションを保てなかった、というのが正直なところだ。

 『ベヨネッタ』シリーズはプラチナゲームズ謹製のキビキビとしたレスポンスによって舞い踊る妖艶な魔女ベヨネッタを操作し、天界の天使や魔獣といった敵と闘うアクションゲームだ。『デビルメイクライ』でおなじみ神谷英樹氏のセンスが光る映画オマージュ、軽妙で洒落たセリフの応酬やCEROの偉い人も眉をしかめそうなほどにセクシー……下品一歩手前のアクションを繰り出すベヨ姉さんムービーを観て拍手喝采を贈るという、サディスティックでちょっとむず痒いエロスが特徴となっている。

 このシリーズの醍醐味として「ウィッチタイム」というものがあり、これは敵の攻撃が当たるギリギリに回避ボタンを押すことで周囲の動きをスローモーションにし、自分だけが素早い動きで反撃に転じるというシステムだ。これにより本来であれば煩わしいはずの敵の攻撃を反撃の手段に変えることが出来、振りかぶって無防備になっている敵に連撃を当てればそれだけでスタイリッシュに戦っているように錯覚できるという、アクションゲーム下手には大変嬉しいシステムになっている。この回避判定もわりと優しめなので、敵の攻撃モーションを見てからでも間に合う塩梅ゆえに遊びやすく、数段階用意された難易度によって幅広い層にオススメできるゲームであった。

 今回の『3』では手と脚にそれぞれ別の武器を装備する、というお約束が廃されたものの、前述のウィッチタイムやダッヂオフセット(攻撃ボタンを押しながら回避することでコンボを途中から継続できるもの)といった基本的なアクションは踏襲されている。

 それに加わる新しい要素として、「魔獣召喚」が追加された。これは戦闘中にゲージを消費して魔獣を召喚・使役させることができ、魔獣の強力無比な破壊力で敵を殲滅できるシステムだ。召喚された魔獣はとても強いが、ゲージ消費の関係上ずっと使えるわけではないし(とはいえゲージの回復も早いのでそんなに気にならない)、召喚中のベヨネッタは無防備なので攻撃にかまけていると被弾する恐れがあり、周囲の確認は忘れてはならない。

 魔獣召喚は見た目も派手だし、スキルを覚えればベヨネッタ自身のコンボのシメの追撃技として一瞬だけ召喚したり、カウンター技を習得することで強力な反撃技から反撃に転じられたりと、戦闘の豪快さは前2作を凌駕していると言える。

合☆体もする。

 そうした新要素も踏まえつつ、自ら「∞クライマックス・アクション」を名乗るだけあって、本作のノンストップ具合も過去2作を凌駕している。本作は最近のMCUに習ってか「マルチバース」が物語の中核に据えられ、我らがベヨネッタが時間も場所も超えて移動することになり、なんと東京・渋谷でのアクションも楽しめるというのだから驚きである。

 世界の消滅を目論む謎の存在・シンギュラリティに追われ平行世界からこちらの世界にやってきた少女・ヴィオラ。彼女の頼みでベヨネッタは様々な世界を旅しながら「混沌の歯車」を集めることになるのだが、東京や中国に行っては「その時代のベヨネッタ」と遭遇し、操作することになる。服装も性格も武器もまるで異なるベヨネッタの一挙一動が笑いを誘うし、そんな彼女らが辿るハードな運命はそれこそ『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の序盤そのものの展開で、終盤には『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が待っている、といえば本作が「集大成」であることが伝わると思う。

クモ繋がりの『DMC』オマージュもある。

 アクション、ストーリー面でも過去作よりパワーアップし、とくにアクション面の品質には文句もつけづらい本作。では、そんな『3』が老いた自分にどう映ったのかと言えば、「味が濃すぎる」という悲しい感想を出力するしかなかったのだ。

 魔獣を召喚して闘うアクションは手触りこそ楽しいが、魔獣を画面に収めるためにカメラ視点が上を見上げるような形になり、派手なエフェクトも相まってベヨネッタを見失ったり、敵の攻撃モーションが魔獣に隠れてしまい見落として被弾、なんてことが相次いだ。では魔獣の使用を控えベヨネッタ自身での戦いに集中しようとすると、なぜだかコンボ評価が伸び悩む。それをプレイヤースキルで穴埋めしてこそアクションゲーマーだろうが、そんな技術を持ち合わせていないおれのセーブデータのステージクリア評価はシルバーばかりが並ぶ。

 また本作はシリーズのお約束として「ゲームの途中でジャンルが変わる」ことがよくあるが、その回数と比重も前2作より膨れ上がっている。崩壊する都市や橋を渡るためにクモ魔獣と合体した弊ベヨネッタは、ルートを見失い何度も奈落に落ちてゲームオーバー画面とにらめっこする羽目になった。あるいは、罪・ゴモラと合体して大怪獣になったおれは、じゃんけんバトルの判断が遅れ空虚に掴み技や尻尾を放ったりした。挙句の果てにこの世で最も苦手なステルス要素のある2Dステージを「ストーリークリア上必ず」数回経なければならず、大好きだったジャンヌがダクトに隠れて敵をやり過ごす姿に思わずハードの電源を落とした。

紫に発光する大怪獣……!!!!!!

 そうしたいくつかのミニパート――と言いつつしっかり本編に食い込んでいるので上手くクリアしないと評価が下がる――をなんとかくぐり抜けた後に待ち構えていたのは、新キャラクター・ヴィオラの仕様。ベヨネッタがジャスト回避によってウィッチタイムを発動するのに対し、ヴィオラのそれは「ジャストガード」である。

 ベヨネッタなら、たとえジャスト回避に失敗しても「回避」は出来ていれば被弾してはいない。ところがジャストガードは失敗すれば即・被弾だ。ゆえに、攻撃パターンを知らない初見の敵が相手となれば途端に難易度が上がり、おれの操作するヴィオラは常に満身創痍だった。ベヨネッタの回避に比べ(彼女が未熟という設定を反映してか)ジャストガードの判定が妙にシビアで、かつベヨネッタ使用時の癖で回避ボタンを連打してしまい、ウィッチタイムが発動できなければ「俺のターン」も減るから戦闘も長引く。そうした緊張感と疲労は、いつしかswitchの電源を入れることすら億劫にさせていった。

CV:沢城みゆきなのでシリーズファン的にはアツい。

 簡単操作で軽快なアクションを実現させつつ、コンボや回避/ガードによってさらに奥深くなる戦闘。∞クライマックス・アクションの真髄とも言うべきノンストップな展開を見せるストーリー。遊びのジャンルそのものが入れ替わるプラチナゲームズのサービス精神。これらは『ベヨネッタ』シリーズそのものの醍醐味であり、かつて前2作で寝食も忘れて熱中した”らしさ”の部分だ。

 それがどうだ、この情けないザマは。おれはもうベヨネッタが食べきれないくらいに顎が弱くなっている。ムービーもアクションも内容がてんこ盛りになり、従って1チャプターのカロリーが高まった本作のラーメン二郎めいた根性に、おれのコンテンツ咀嚼能力は白旗を挙げている。おれはジャスト回避で無双できるベヨネッタが大好きで、初見殺しめいたプラットフォームアクションも、鬼武者みたいにシビアなガード判定に悩まされるも、本音を言えばもう「しんどい」と思うようになっていた。

 これが、「老いる」と言わずしてなんと言う。公式が提示する遊びのブラッシュアップを否定し、昔は良かったなどとほざく。これは忌み嫌うべき「老害」の姿そのものと言って差し支えないだろう。まさか、自分がそのくくりに足を突っ込むことになるなんて、それもかつて100時間遊んだシリーズの最新作で気付かされるなんて……。

https://www.metacritic.com/game/switch/bayonetta-3

 もちろん言うまでもないが、『ベヨネッタ3』は高い評価を受けており、「Metacritic」ではご覧の通りの高得点をマークしている。日本においてもレビューは絶賛傾向だし、twitterでも……ストーリーについては賛否両論だが……少なくともアクション面で否に偏った意見はあまり見受けられない。

 これを見て、おれはそっと胸を撫で下ろす。『ベヨネッタ3』は最高のゲーム体験をくれる、称賛されるべき一作だ。なればこそ、本作が合わなかっただの、食べきれなかっただの言うとるワガママな顧客(おれ)が、少数派なのだ。おれと『ベヨネッタ3』はいい関係にはなれなかったけれど、みんなにとっては格好良くてスタイリッシュでちょっと(?)えっちなお姉さんのままでいてほしい……そう素直に思えるくらいにはベヨネッタに未練があるからだ。

 たとえばいつかの明日に『4』が出たとして、それに手を出すかはわからないけれど、おれとベヨネッタの関係は今の所こんな感じだ。その時は後方腕組み元カレ面でみんなのレビューを読み漁ろうと思う。

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