その闇は、黄金を塗り潰す。『牙狼〈GARO〉-GOLD STORM- 翔』
『牙狼〈GARO〉』、というか道外流牙シリーズ強化月間として、放送当時から数年ぶりに『-GOLD STORM- 翔』を見返してみる。早2作目にして、流牙と莉杏、二人の阿吽の呼吸が微笑ましい。
『闇を照らす者』の続編として製作された本作は、ボルシティを出た道外流牙と莉杏の新たなる闘いを描く、劇場版+TVシリーズ2クールの長編である。前作の監督は横山誠氏が務めていたが、今作ではシリーズ生みの親である雨宮慶太が、初めて道外流牙シリーズのメガホンを取ることに。ガロやホラーのスーツも製作され、スーツアクトとCGの混合、シリーズお約束の雨宮文字を背にしての見栄を切るシーンの復活など、牙狼らしさが戻ってきたような懐かしい気持ちに。
TVシリーズに先立つ前日譚となる劇場版では、ガロの鎧の浄化のために立ち寄ったラインシティにて、街を治める魔戒法師リュメやD・リンゴと出会い、流牙は自分専用の鎧「ガロ翔」を手に入れる。金色の鎧に差し色として光る銀色のラインと、高貴さを醸し出す襟元の装飾が格好良く、以降はこの形態が道外流牙シリーズの基本形として冴島家のガロとは差別化されてゆく。
対するは、人型魔導具・阿号。自らを造り出した法師の「ホラーのいない世界」という願いを叶えるため、陰我の元である人類の消滅を目論見、対立する。魔道具として、主人の理想のため実直に行動する阿号だが、そもそもなぜ魔戒騎士や法師がホラーと闘うのかと問われれば、彼らが“守りし者”だからであり、守るべき人間のいない世界に意味はない。目的と手段が入り交ざってしまった哀しき被造物に、流牙と莉杏は魔戒騎士/法師として阿号の切なる願いを断ち切る。主が願った平和で穏やかな世界を夢見て、忠義の機械は眠りに就く。
そしてTVシリーズ。雨宮牙狼の1話完結スタイルと、横山牙狼の連続ドラマの折衷のような塩梅で進行する物語は、流牙&莉杏のバディがホラーを討滅する様子を描く一方で、ラスボスとなるジンガとアミリが1話から登場するという、シリーズにおいても珍しい試みがなされている。後にジンガは劇場版で復活したり、単独のスピンオフドラマが製作されたりとバラゴ/キバ(演:京本政樹)に匹敵する人気を獲得するのだけれど、それに相応しい存在感で冒頭からダークな物語を彩っていく。
魔戒騎士と法師が対等なバディ関係であり、流牙と莉杏が常にツーマンセルでホラーとの闘いに赴くのも、シリーズでは異例のこと。冴島シリーズでも邪美や烈花がスポット的に登場し共闘することはあっても、全編通して二人一組なのは珍しく、二人の戦友としての絆の深さと、一方で恋愛に踏み込むのか否か、というじれったさは少年漫画のよう。莉杏に向けられる法師や女性に対する差別的な言葉に対しても、流牙がそれを諌め反論するくだりが何度か設けられており、『闇を照らす者』の頃から優しさはそのままで、若者らしい無鉄砲さや軽薄さを抑えた、風格ある騎士としての振る舞いが、いつの間にか様になっている。
それにしても、である。凶敵ジンガを演じたのは、あの井上正大。言わずもがな、仮面ライダーディケイド/門矢士のイメージが根強い中で、同時に大ショッカーの大首領を務め、世界の破壊者として全てと敵対したこともある井上氏が、不遜さと邪悪さに振り切って演じるジンガが、本作の魅力の大部分を担っていると言っても、過言ではないと思う。玉座に座る姿の風格に、こちらは本能的に跪きたくなる何かを、この人は持っているに違いない。
絶大な力を持つとされる「ラダン」の復活に向けて、アミリと共に暗躍し流牙と幾度と剣を交えるジンガ。バラゴが知性と美しさを併せ持つ悪役なら、ジンガはただひたすらに邪悪。ラダンを蘇らせるためにとある魔戒法師の娘を攫い、開放する約束でそれに従わせた後で、遺骨と再会させる序盤の名シーンで、ジンガという男の恐ろしさが現れている。人の命を何とも思わず、弄ぶことのみを目的として強大な野望を企てる最凶のホラー。守りし者たる魔戒騎士を愚弄し、忌み嫌い、その高潔さに仇なす存在として、流牙の前に立ちはだかる。
そんな名悪役が盤上を黒く染める一方で、物語の持つ熱量は、前作よりもいささかトーンダウンした印象を受けるのも、正直なところ。前作は流牙や莉杏のように若い魔戒騎士/法師の成長とチームとしての成熟を見守るものであったのに対し、今作の流牙はすでに母親との別れという大きな困難を乗り越え成長しきっており、感情の振れ幅がそれほど大きくならないのがその要因に数えられる。莉杏が夢を語り、あるいはウエディングドレスに普通の人間としての幸せを託すなどの「自分の未来」を想うことはあれど、流牙は黄金騎士として「みんなの未来」を守る使命に一直線で、そこに一抹の寂しささえ感じてしまう。
未熟さからの成長という意味では、ラダンの封印を代々受け継ぐ若き魔戒法師ガルドがその要素を担い、流牙や莉杏との交流の中で謎の第三勢力から頼れる仲間に変わっていく流れは熱いものの、前作のような大きなうねりには発展しきらない。「闇を受け入れる」という終盤の重要な展開についても、必要な前フリが事前になされていないため、どうしても唐突に感じてしまう。相棒に異性としての念を抱くことが、“汚い”として表現されるのは、果たして正しいのだろうか。魔戒騎士や法師も一人の人間である、という、それはそれで大きなテーマになりそうな種を、満開になるまで育て上げられなかった惜しさが、終盤に纏わりつくのである。
道外流牙シリーズは二作続いて挑戦の歴史であり、放送当時は冴島雷牙を主人公とした『魔戒ノ花』や、初のアニメ作品である『炎の刻印』のように、続々と派生作品が連続で繰り出された時期にある。そんな嵐巻き起こる牙狼フィーバーの中で、本作も世界観を広げるべく思考を重ね、その結果ジンガという名ヴィランがこの世に産み落とされた。
悪のカリスマ像を体現する井上正大=ジンガが、闇を照らす者としてのガロの輝きを再び覆い尽くす。その漆黒のオーラに、いけないとわかっていても魅入られてしまう。キャスティングの勝利をここまで感じさせてくれる座組が、かつてあっただろうか。おのれディケイド。
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