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俺 VS 俺の顔

 携帯を機種変した。「Leitz」という機種で、画面がすっげぇ縦長で綺麗だし、バッテリーも長持ちする。おまけに約2020万画素とかいうエグい性能のカメラがついていて、発色がいいな~って思いながらも、ほとんど使っていない。撮りたい風景に出会えるほど外出していないからだ。オタクくんもっと外出て。

 というわけでまぁ宝の持ち腐れみたいな性能のデカブツを持ち歩いているわけなんですが、少々困ったことに、このスマホを使っていてどうしても看過できない、拭いようのないストレス要因が一つある。それは「常に俺の顔が写っている」というものだ。

 「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」とはよく聞くが、俺の場合は「おまえがスマホを眺めている時、おまえもまたスマホごしに自分を見ているのだ」ということである。どういうことかというと、スマホに貼ったガラスフィルムが原因で、常に画面に自分の顔が反射しているのである。

 私は携帯電話も携帯ゲーム機も保護フィルムを貼らないと気が済まない性格で、そのくせ不器用なのでフィルムを寸分たがわずキレイに貼れないとイライラし、試行錯誤している間に端末の画面がホコリや指紋だらけになっていて、なんのためのフィルムなんだとキレ散らかす日々を送ってきた。なので、今回も諸々のキャンペーンやポイント等を駆使して、新しい機種と併せて保護フィルムも購入したのである。

 それも、ほとんどタダみたいなお値段で購入できそうだったので、貧乏性が発生して使ったことないちょっと高級なガラスフィルムを買ってしまった。画面の保護性能が強く、ブルーライトもカットしてくれて、なんかめちゃくちゃオススメらしい。携帯のフィルムなんて基本的にずっと付き添うものだから慎重に選ぶべきなのだけれど、その時の俺は新しい機種の設定だとかアプリのインストールを早く済ませたかったので、レコメンドされるままレジへゴー。支払いは一括でお願いします。あ、貼ってもらえるんですね。じゃあお願いします。

 というわけで、今回は「フィルムを貼る」というストレスからも解放されたのである。窓口を担当してくれた携帯ショップの爽やか系イケメン店員が、慣れた手つきで新しい機種にフィルムを貼ってくれる。「こちらでいかがでしょうか」と手渡してくれた my new gear は、本当にホコリ一つ入る余地のない、美しい漆黒の液晶画面のまま、俺の手元に鎮座した。やっぱりショップの方ってフィルム慣れてるんですね、と聞くと「入社当時はボクも失敗しまくったので、家で練習したんです。これでお客様に綺麗な状態で端末をお渡しできるので」とイケメン。やっぱイケメンって心もイケメンなんだ。お客様のためにプライベートな時間を使って切磋琢磨してくれたんだ。うれしい。イケメンが心までイケメンでうれしい。

 イケメンの折り目正しいお辞儀を背中に受けながら退店し、さっそく帰宅。充電器に繋ぎ、アプリストアから前機種で使っていたもののリストから虱潰しにインストール。ゲーム系は引き継ぎを済ませ、ホーム画面の配置も使いやすいように設定していく。この作業は、実は嫌いじゃない。常に肌身離さず持ち歩くものになるからこそ、利便性を極めたい。よく使うマップや電子マネー系はここ、ゲーム系はフォルダにひとまとめして、サブスク系と電子書籍系も誤タップしづらいところに置く。おおよそ前の機種と同じようなホーム画面を生成して、満足のままお昼寝をする。起きるころには充電もバージョンアップも終わっているだろう。今日からよろしくね、相棒……。

 日曜昼のまどろみに包まれながら、眠気眼をこする。枕の傍らには、見慣れない大きな板。そっか、私、スマホ変えたんだ。いま何時だろ、とスマホを手に取ったとき、ホコリも指紋も何一つない美しい液晶には、小汚い成人男性の寝ぼけ顔が写っていた。まだ脳が覚醒していないのか、目の前の顔をなんであるか判別できない。この目が開ききっていない、肌が荒れまくっている小顔の男は誰だ?いや、認めたくないから思考が鈍っているだけだ。これは俺だ。他の誰でもない、俺自身の、相貌

 そう、これが高性能高品質ガラスフィルムの罠。技術の粋を尽くした新型スマートフォンは、フィルムの力を得て超高級な手鏡になってしまったのである。友達にLINEをしていても、動画を観ていても、シャニマスをしていても、常にちらつく俺の顔!顔!顔!!!!!!!!!スマホを手放すことがない現代人にとって、この上ないストレスが降りかかってきた。俺がよく調べもせずガラスフィルムを買ったばっかりに。

 無論、「俺は俺の顔面がすき」というストロング人種であれば、何のデメリットもないだろう。ところが、私はそこまで強くは生きられない。「親が腹痛めて産んでくれた」という前提がなければ、この顔面を殴って変形させて水嶋ヒロにしてしまいたい。あぁ、どうして俺の顔面はヒロじゃないの、ママ……?

 本当にこれはゆゆしき問題なのである。先日、サブスクで『ゆるキャン△』のアニメを観ていても、場面が夜になって画面が暗転した瞬間、可愛らしいキャンプ女子の日常に突然『進撃の巨人』の奇行種じみた顔面のどアップがインサートされるのだ。これでは集中も没頭もあったものではない。写りこみを無くすためには液晶の明度を上げる方法があるけれど、眩しいし目に悪い。なので今は「目に優しくて写りこみを最小限にする明度」を模索しているけれど、そんなもん今いる環境によって変わるものだ。出張で知らない土地にいった際、マップアプリを開こうとしてスマホを手に取ったら反射したマスクの白地で画面の半分が覆いつくされ、普通にキレてしまった。

 このように、「高性能なスマホを使い倒したい」俺と、「自分の顔面と向き合いたくない」俺とがせめぎあっている、そんなスマホeverdayを送っている。俺はただ、シャニマスで処理落ちしないスマホを、外でサブスクや動画を楽しんでもバッテリーが持つスマホを、ただ欲していただけなのに、どうして。

 解決法はいたってシンプルで、イケメンが親切丁寧に貼ってくれたガラスフィルムを剥がし、写りこみの少ないシート状に変えればいい。ただそうなると、イケメン店員の手技は受けられず、自分の不器用さと直面することになる。使い続けても解決に向けて動いても、俺は「俺」という最も忌むべき存在と向き合わなければいけないのだ

 嗚呼、人間とはどうしてこんなに不条理な生き物なのか。こんな存在でも、キミは俺を愛してくれるのか、ウルトラマン。仕事帰りの疲れた顔を克明に写すその端末は、「なにかお困りごとですか?」と今日も機械音声で俺を嘲笑うのである。

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