『キルラキル』十襲年を祝いたいので、全話の感想を書く(後)
これまでのキルラキル
第十三話 君に薔薇薔薇…という感じ
皐月は全国学園支配のクライマックスとして三都制圧襲学旅行を決行。流子は自身の血に飲まれての暴走を経験し、自信喪失し部屋に閉じこもってしまう。そんなどんよりした空気をぶち壊すのは、通学を封じられた元新聞部!?と落ちの回もハイテンションなのが『キルラキル』節。大城美友風に言えば『君に涙は似合わない』だろうか。
三都制圧襲学旅行に向けて準備を進める皐月&四天王ズ。最後に残された学園が関西に集中しているのも、実は皐月様と犬牟田が立案した計画によるもの。裸の猿ことヌーディストビーチの本拠地が関西にあることをすでに見抜いており、関西の高校を襲撃するのと併せてそれらを炙り出すのが真の目的であることが、後のエピソードで語られている。事は大きく、しかし最大効率で。実に仕事の出来る上司と部下の集まりなんですな。
一方の流子は、暴走がショックだったのか塞ぎ込んでしまい、布団から出られずにいる。探し求めていた父の仇を知り、自分を抑えられずマコを傷つける寸前にまで追い詰められた自分を、流子は許せない。
一人で登校するマコに近づいたのは、元新聞部の凪田信二郎。なんとも暑苦しいジャーナリズムの持ち主は、学園内部にいながら鬼龍院の支配を告発し、生徒たちに目覚めよと熱く語りかける。CVは岡本信彦氏で、『グレンラガン』組の出演はやはり嬉しくなるもの。
そして、「親が七光り」でおなじみ鬼龍院羅暁サマが紅白歌合戦の大トリ以上のキラメキで登場。このあたりのセリフの中島かずき節が実にいい。一見無茶苦茶なのに理が通っているような、気持ちよく絆される感覚。
知恵の実を食べ、知性が生まれた人間は、裸体を晒すことに「恥」を感じた。他者に無垢な肌を見せることを良くないことだと理解し、それを覆うために服を着た。それを罪と断じる羅暁サマ。皐月もまた、その思想に準じる姿勢を見せつつも、羅暁に対し母親に向けるものとは思えない厳しい視線で、叛逆の牙を研いでいる。この緊張感は、大文化体育祭で最高のカタルシスに転じるのは、皆様ご存知の通り。
クライマックス、凪田の正体が針目縫であることが明かされ、流子を焚き付けた上で戦維喪失、鮮血は薔薇薔薇になってしまう。トドメを刺されるその瞬間に皐月様が現れ九死に一生を得るが、今思えば縫が片太刀バサミで流子を穿けば、その正体もここで判明して運命は大きく変わっていただろう。何はともあれ、襲学旅行が始まり、マコは徴兵され、流子は失意のどん底へ。再起できるのか!?というところで後半戦スタート。
第十四話 急げ風のように
本能字学園VS関西の学園による血で血を洗う闘争がスタート。この世界の高校は部活を武装化するのが当たり前になっており、本能字学園がイレギュラーでないという事実に、ビビっちゃうよね。
本能字学園VS関西の高校。全生徒が、そして一般市民までもが駆り出され、大阪が火に包まれていく中、相も変わらずたった一人ギャグ漫画の倫理で稼働する満艦飾マコ。大阪名物を味わうためなら、札束で撃たれても傷ひとつつかず、その金でくいだおれを満喫。ここでちゃんと家族へのお土産を用意するあたり、優しい女の子なのです。
して、満艦飾マコのこのゴーイングマイウェイは、流子にとっても救いとなった。一念発起し、鮮血を取り戻すために関西にやってきた流子。鮮血の切れ端を装着しパワーアップした本能寺の生徒を、生身でありながらほぼ敵無し状態で打倒していく流子は、鮮血も「以前よりも強くなってるんじゃないか」と認めるほど。その疑問にアンサーをくれたのは、やはり満艦飾マコだった。
かつて、キラキラした生活を守るために自分がいつも以上の力を叩き出したように、欲望や願いは人間の原動力になることを肌で知っているマコ。その際の教訓を端的に表した、マコらしい語彙力が、流子にパワーを与える。父の仇を討つためではなく、友達を取り戻したいから闘う。そんな目先の欲求に正直だからこそ、今の纏流子は強いのだ。
笑いのためなら処刑用BGMも天丼ギャグに利用し、ウジウジした場面は極力短い。パワーに溢れた作劇でどんどん前に進み、休憩する暇を与えないのも『キルラキル』の持ち味。たこ焼き頬張るマコのように、どんどん走り抜けてこそ今石×中島アニメの気持ちよさだ。
第十五話 どうにもとまらない
道中に最終回が何度かあるでおなじみ『キルラキル』は、実はここが真の前半戦完のエピソード。乃音のデカ感情(極制服もデカい)に流子VS皐月の大阪をぶっ壊しながらのバトル。そして次回への強烈なヒキ。面白さのブレーキは、このアニメには存在しないらしい。
流子VS皐月の闘いは、さながら怪獣映画。どちらかが吹き飛べばビルは崩れ、タワーは折れ、大阪の街は火に包まれる。流子はそんな状況を良しとせず、鮮血を取り戻し人衣一体し皐月と闘い、撤退を迫る。だが、皐月にも譲れないものがあり、そう簡単には引けない。
前述の通り、襲学旅行の真の目的はヌーディストビーチを炙り出すこと。流子を守るために兵を動かしたことで、本拠地は襲撃され窮地に陥ることに。実は服による支配の打倒という意味で皐月とヌーディストビーチの目的は共通でありながら、弱い味方などいらぬと切り捨ててしまうあたりが、この辺の皐月イズム。仲間を得て誰かに託すことを覚える21話以降の成長ぶりと比べると、この辺はまだツンツン期。
激しい闘いの末、相打ち覚悟まで持ち込んだ流子。彼女は日に日に強くなり、ついにこの高みまでたどり着いた。怒りに飲まれるのではなく、そして状況に「流」されるのではなく、自分の意思でここまで立ち上がってきた流子は、すでに皐月に愚弄される者ではなくなった。それを見越してか、全てを打ち明ける覚悟の美木杉。その真実が流子を再び苦しめることになるが、それはまた次回。
第十六話 女はそれを我慢できない
関さん「展開が早いのがキルラキル!総集編もアバンで終わる!」
ぼく「ファッ!?」
初っ端から親子裸の付き合いならぬ「禊」を受ける皐月様。官能的に描かれてはいるが、これって要は虐待のようなもので、羅暁にとっては娘ですらも大願成就の道具でしかない、ということ。そこには、未だ姿を表さない皐月の父と、名も付けられぬまま死んでいった妹の存在があるわけだが、今回はその助走としての種明かしの回その1。
ではここで、明かされた事実を振り返ってみよう。
ヌーディストビーチを設立したのは、流子の父である纒一身博士。
ヌーディストビーチの目的は、服による人類支配からの脱却、ひいては地球を救うことである。
生命戦維とは宇宙からやってきた地球外生命体であり、ホモ・サピエンスが今の人間に進化したのも、生命戦維が進化を促したからである。
生命戦維は、直接体内に寄生すると宿主の神経を焼き切ってしまうため、それを防ぐために「服」として人類に寄生することを選んだ。
生命戦維は人類がそれ相応に進化したことを悟り覚醒。全人類を取り込みカバーズ(COVERS)で地球を丸ごと包み込む(地球に服を着せる)「繭星降誕」を目的とする。
それらの始祖である原初生命戦維は鬼龍院が保有しており、その意思に沿うことを鬼龍院の使命として代々受け継がれていた。当代当主の羅暁の目的もまた「繭星降誕」である。
人類の進化が生命戦維によってコントロールされ、対立の本筋が実は地球人類と地球外生命体との生存戦争であったことが明かされる、大風呂敷にも程があるスケール感がお披露目された。そして、神衣・鮮血とハサミは原初生命戦維と鬼龍院に対抗するために創られたものであり、それを狙って針目縫が博士を襲撃、あの惨劇に繋がったのである。
これらを踏まえれば、所構わず脱ぎ始める美木杉、そして「ヌーディストビーチ」の名前にも、深淵な意味があったわけで。服に支配されるのなら、服を脱げばいい。乳首を晒すことは精神の開放であるという、そんな奥深いテーマが仕込んであったわけである。
それらを受けた流子は、鮮血が仲間殺しのために産み出された兵器であることを知り激昂、一度はそれを脱いでしまう。鮮血が友達であるからこそ、その意を汲んだのか……という真相は、次回にお預け。
第十七話 何故にお前は
大文化体育祭がスタート!愛娘と流子ちゃんが未だ戻らぬ満艦飾家は飯の心配!そして始まる叛逆の物語!!テンションが高いぜ、キルラキル。
まずは流子。前回で鮮血を想い激怒したが、それは流子自身がスケールの大きな闘いに臆していた、という本心を語る。それでもなお、自分のために怒ってくれたことに感謝する鮮血。二人はすでに一心同体で、なんでもわかり合う関係性だからこその一体感。と同時に、紬の姉の絹代さんは纏博士の助手として神衣製造に関わっており、その実験で命を落としたことが明かされる。実にエヴァっぽい一枚絵と共に、鮮血に織り込まれた因縁が重なっていく。
羅暁と皐月が活動を開始する前に、本丸に乗り込もうとする流子たち。そこに、絶対に着いていくと言って言うことを聞かないマコが可愛い。友達である流子ちゃんの元から離れない姿勢こそが、彼女の強みだ。
その頃、本能字学園では大文化体育祭が開催。これまでの全ての行事が学校由来なのはもちろんとして、今回のセレモニーの内容は集められた生徒や父兄を生命戦維が取り込み、カバーズ(COVERS)に変えるというもの。ひいては、羅暁が自身の目的のためについに動き出す、決起集会のようなものとして執り行われる。
その野望の阻止のためやってきた流子は羅暁に宣戦布告。……とその時、皐月は突如、実の母を後ろから刺す、誰もが予想しない展開を見せる。この場で皐月は、本能字学園とは生命戦維と闘うために生徒を鍛え上げた自身の城であるとし、四天王を交え羅暁に反旗を翻すと宣言。実の母を刺し、その上串刺しにして晒し者にする、その容赦の無さが素敵すぎます。
第十八話 夜へ急ぐ人
皐月VS羅暁。親離れにしては血みどろが過ぎるけれど、こうでもしないと死なない化け物のお母様。人類を救う救世主となるのか皐月。困惑の中でどうする流子。大阪土産は腐ってないのか?満艦飾。
串刺しにして、首まで落として。それでも死なない七光りの羅暁サマ。その身体は生命戦維と融合されており、首の糸一枚繋がっていれば復活できる、人間を辞めた状態だった。
皐月の真意は、父である鬼龍院総一朗の意思を継ぐこと。優れた研究者であった総一朗は鬼龍院の家に婿入りし逆玉の輿になったわけだが、羅暁は生命戦維と人体の融合の実験のために幼い皐月を実験台とし、名も付けられなかった幼子にして皐月の妹となるはずだった赤ん坊も、用済みとなれば捨てられてしまった。その非道に立ち向かうため、総一朗は鬼龍院を離れることを決意。「花嫁衣装」として誂えられた純潔は、今は皐月の戦闘服となってその刃を母親に向ける。
復活の羅暁サマ、娘から制服を奪い、着ちゃうわけですこれが家元ブームの始祖か。人衣圧倒神衣純潔。身体が生命戦維で構成されている羅暁と、これまた生命戦維100%で編まれた神衣の相性は当然良くて、流子もまるで歯が立たない。そして羅暁は流子の心臓を取り出すという驚天動地のフェイタリティをキメるも、生命戦維が脈打つ心臓を抜き取られても死なない流子。
実験が失敗し、捨てられたはずの赤ん坊が流子であったこと、流子と皐月は母を同じくする姉妹であったこと。まるで全てが赤い糸で結ばれていたかのように、流子はこうして全ての物事の中心に据えられてしまった。もう「流」されるだけでは、切り開けない。
第十九話 たどりついたらいつも雨ふり
199X年!地球は布に包まれそうになっている!!
大文化体育祭は、皐月が会場を爆破したことで強制閉幕。生き残った人類は四天王が合流したヌーディストビーチが保護し、か細いレジスタンスを続けていた。皐月は行方不明で、流子は目覚める気配がない。人類絶滅の危機が、静かに迫っていた。
服の化け物VSほぼ裸の人類、という対立軸に以降した本作。主要人物のほとんどが半裸という常軌を逸した映像が、絶望的な状況に強引な清涼感を与える。こんな時でも乳首は光るし、満艦飾母は美木杉の股間に釘付け。誰も諦めていないし、折れていない。満艦飾家のメンタルは基本的に無敵ゆえ、こういう状況では人々に希望を鼓舞する役割を、ほぼ無意識的に担ってしまう。そりゃあマコのような豪傑も生まれるわけで。
学園の地下に囚われた皐月。羅暁との会話にて、鬼龍院総一朗=纏一身が姿を変えた同一人物であることが明かされ、母だけでなく両親揃って流子と皐月の大元が揃っていたことが発覚。というか、娘に対する性的なタッチが多くて、今の価値観だと普通にNGな羅暁である。
そんな中、ついにCOVERSがレジスタンス本部を襲撃。その音波で流子を覚醒させ、流子はわずか一太刀でCOVERSから中の人間を抜き取り、壊滅させる。ようやく目覚めた人類の希望だが、彼女は鮮血を拒絶する。一度は鮮血に同情した流子だったが、仲間殺しのために造られた生命戦維の化け物は自分だったのだと、そのアイデンティティが揺らいでしまった模様。
これまで、他人から科せられた運命に流されっぱなしだった流子。もう一度立ち上がるには、目先の欲望、すなわち自分のやりたいことに向き合うしかない。では、流子が本当にやりたいことは何か?を問われるわけで、皐月が主役だった物語のバトンが、少しずつ流子に傾いてきている。そんなお話。
第二十話 とおく群衆を離れて
服を着た豚に服を脱いだ猿。お前は着るか、着られるか?
自身の正体を知り、激しくグレた流子。今の彼女には、マコや鮮血の声も届かない。無敵に思えたマコ劇場でさえ、今の流子の心は解きほぐせない。そんな流子を挑発する羅暁と縫。悔しいかな、デカいピンクのバイクに乗る姿がキマりすぎていて、そういや本作スケバンアニメでもあったな、と。
ヌーディストビーチは、逆転のカギは学園に囚われた皐月の奪還にあるとして、本能字に攻め入る覚悟を決める。そのための最終兵器として、基地を母艦化した裸の太陽丸で出陣。その造船に資金提供をしたのは、大阪で闘った宝多財閥。実はこの財閥は造船から成り上がったことが、後のエピソードで皐月様が口にしており、こういう所に辻褄を用意しているのも中島節。
そして皐月も、叛逆のためにその爪を研いでおり、裸の太陽丸の到着に併せて牢を脱出。全裸で学校を徘徊しながら敵と闘うという、ある意味でヌーディストビーチ以上に裸な皐月だが、その裸には不思議といやらしさがなく、美しくさえあるというのは、スタッフのこだわりに間違いない。
本能字学園に乗り込んだ流子に、針目縫がお出迎え。追い詰めはすれど、縫もまた流子同様に生命戦維が編み込まれた人工人間であることが明らかになり、ハサミが揃わぬ今では断ち切れない無敵の存在であった。なお、縫は生命戦維が反発するため神衣を着ることが叶わず、創る側になったとのこと。
知らず知らずの内にどんどん姉妹が増えていく流子は、さらなる追い打ちとして、羅暁に無理やり神衣・純潔を着させられてしまう。母と一緒に成長して、学校を卒業して、誰かに嫁ぐ。生命戦維に奉仕するイメージをいわゆる“女のしあわせ”に見せかけ、それを「純潔」などと呼ぶ羅暁の洗脳の、その悪趣味さ。どこか『キル・ビル』っぽいところも含めて、面白いけれど怖くて、おぞましい。
羅暁の犬となりて裸の太陽丸を襲撃する純潔流子。対するは、鮮血を着た皐月!!!!!!!!!!!アツすぎる!!!!!!!!!
第二十一話 未完成
ぶっちゃけここから全話ずっと泣きっぱなしなので、感想がぜんぶ「号泣」で済まされてしまう。
これまで何度も繰り返されてきた流子VS皐月だけれど、今回は意味合いが違う。全ては、纏流子を取り戻すため。そのためには皐月は鞭打って鮮血を着るし、マコや四天王も身体を張る。不良娘を殴ってでもお家に帰す、そういうマインドだ。
鮮血と調和しすばやく進化する皐月。だが、「人衣圧倒」しか知らない皐月は、真の意味で鮮血と人衣一体にはなれない。それを看破する流子は、やはり鮮血の一番のバディである、という事実が切ない。
それでも諦めない皐月は、四天王との共同作戦に打って出た。部下を駒ではなく仲間として、自らが囮になることも辞さない覚悟。全てを失ったように見えて、四天王との絆は確かなものではあった。
そんな熱い闘いの最中で「なぜ神衣の露出が多いのか」の説明がなされるんですよ、かずきのホンは!!!なんでも、人体との接触面積を小さくすることで人間が飲まれることを防ぐためのセクシー衣装だったわけだが、纏博士(すなわちパパ)の趣味じゃなくてよかった……。人衣一体といいながら、その身を全て生命戦維に預けられない人間の矛盾を説く流子の弁も、確かにわかる。
捨て身の闘いの中で、皐月は流子と純潔の結合に刀を入れ、マコに鮮血を投げ入れろと促す。状況に驚きながらも、鮮血もろとも流子の中に入り込むマコ。「こんなの流子ちゃんじゃないよ!」の叫びが、涙を誘う。一張羅のお友達をほったらかして、他の服に浮気する流子ちゃんなんて、本当の流子ちゃんじゃない。いつも本質を貫くのは、マコの役割だ。
もうここから泣いてる。マコも鮮血も追い出して、純潔を無理やり引きはがす流子。自身の生命戦維に縫い付けられたそれを無理やり剥がせば、命はないかもしれない。それでも、脱がねばならない。
着せられた服じゃない。“他の誰にも着こなせない”鮮血でなければ、纏流子は纏流子でなくなってしまう。この身を引き裂こうとも、誰かにあてがわれた服では先に進めないのが『キルラキル』の流儀。父の想い皐月の想いマコの想いを背負い、今自ら服を脱ぐ。最高だろ、このアニメ。
第二十二話 唇よ、熱く君を語れ
オタクの「号泣した」は過言だが、キルラキルを観る時だけはガチだ。なぜならいま、ちょっと頭がいたい。
純潔を無理やり引き剥がした流子に、鮮血をリリースするマコ。「ボクを踏み台にした!?」とこれまた大ネタパロディが目を引くが、肝心なのは「ハサミが揃ったこと」に針目縫が言及すること。皐月によって自分の中の疑心の象徴として描かれ、かつ“片”太刀バサミといずれ二つ揃うことが強調されていただけに、針目自身にとってもこれは纏博士襲撃時の大いなる失態なわけで。
待ってました、人衣一体・神衣鮮血。久しぶりの着心地に流子も万全のようで、鮮血も思わず涙。ここで言う、涙を流す服だったりマコだったりの、「なんだかよくわからないもの」こそが本作のキーワード。勝敗のロジックや設定などはガチガチに理論武装されているのに、心の中の感情や情動、友達を守りたいとか一緒に青春したいといった気持ちのことをこのように表現して、その象徴としてたくさんの具材をすり潰して混ぜ合わせた「コロッケ」を配する。うまい。中島かずきのホンがうますぎるし、気持ちいい。
針目救出に現れた鳳凰丸。その介入によってCOVERSを大量に消費、そしてそれを奪還されたことで、ヌーディストビーチは生命戦維や人員にも余裕が出た模様。なぜかここまで言及しそびれたけれど、裁縫部の伊織くんも勝敗を分けた重要なキーマン。「四人いるから四天王なのよ」と言ってのけた数話後だけど、彼抜きでは皐月様も四天王も100%の実力は出せなかったはず。
最終決戦に向けて、和解のドラマ。本能字学園は羅暁に対抗するために造られた学園で、流子もまた皐月にとってはそのための戦力でしかなかった。父の仇を騙り、煽り続けた過去。その全てを詫びる皐月。
この世界はなんだかわからないものが寄り集まってできている。そのことを悟った皐月は、地球を一枚の布にしようとする思想を否定する。かつてエヴァンゲリオンを制作したスタジオから派生したTRIGGERによる、人類補完計画の否定。A.T.フィールドがあっても人と人がいる世界を守りたいと願う皐月は、折り目正しく頭を下げる。1話で描かれた通り、流子は「頭を下げてる奴は殴れねぇ」わけで、こうして姉妹の絆は一つになった。
ワーッ!!!!!!二分割変身バンク!!!!!!TRIGGERのアニメはこういう王道や勘所を絶対外さないから信用できる。“今夜はお前と俺でダブルライダーだからな”じゃん。
ここで終わりで全然オッケーなのに、さらにキルラキルは足し算する。喧嘩部部長満艦飾マコ復活!!!!!!!!!!!!本放送時、虚を突かれてわんわん泣いたのに、10年経ってもまだ泣けるんですよ。
第二十三話 イミテイション・ゴールド
最終決戦編その1。流子と皐月は原初生命戦維を、四天王やマコらは裸の太陽丸を守るため闘う。両のハサミが揃ったことで、今後は再生させることなく生命戦維を断ち切ることができるため、ようやく勝ち筋が見えてきた。
ただ、やはり羅暁の強さは別格。生命戦維と融合した人間というわけで理屈としては流子と変わらないのに、その力も凄味もまるで敵わないように見える。これはデザインと朴璐美さんの演技の勝利。
一度は敗れたかに思えた流子もまた「首の糸一本」先方で裏をかき、原初生命戦維に一太刀浴びせることに成功。そして伊織の不眠不休の仕事で出来たてホヤホヤ、三星極制服・最終形態。ただ前の形を復元するのではなく、また新しく仕立て上げるのが粋ですよね。純潔を着せられた流子のように、オーダーメイドでなければ100%で闘えないのがキルラキルのルール。
裸の太陽丸も、グレートマッパダガーにお色直し。真っ裸とダガーでPPAPできるじゃん!って気づいた中島さんの脳、アドレナリンすごかっただろうな。かくして、流子と裸の太陽丸による原初生命戦維への吶喊!そして久々の「サンビカ」!
ここからはもう、テンションと勢いの勝負。挿入歌とマコの応援で鬼に金棒の流子が、原初生命戦維を切り開く。最前線で頑張っている友達のために追いつくべく全力疾走のマコ、ボクシング部の袋田とテニス部の函館と……その他!!アツい展開にアツい展開を足し算する『キルラキル』の真骨頂、これでもかと盛られたラーメン次郎とカツカレーとすき焼きをお出ししておいて、なぜかどれも丼をはみ出していない脅威のバランス感覚。『グレンラガン』のDNAは、ここに生きてるぜアニキ。
第二十四話 果てしなき闇の彼方に
そもそもキルラキルを言語化するのって、野暮だと思うんですよね。
燃えろ今石、滾れすしお、それ行け雨宮、潰すな大塚。そう、『キルラキル』の最襲回はなんと放送日に納品されたくらいの、誰もがボロボロになりながらなんとか創り上げた総力戦。ギリギリまでブラッシュアップを重ね、一切の妥協を許さなかったスタッフ&キャストの血肉が込められたこそ、伝説のフィナーレを迎えたのだ。
もうこの最襲回を1から追うとか、もう無理だな……。クライマックスに継ぐクライマックスの連続で、どこを拾うとか意味を成さない。
なので一つだけ。この最襲回が周到だと思うのは、流子が羅暁に勝利したロジックが、それこそ一話から蒔かれていたということ。戦維喪失する度に鮮血が生命戦維の糸を吸収していたのは、羅暁の生命戦維そのものを吸収し「絶対服従」に抗う力を蓄えるため。生命戦維を断ち切る力はハサミに、羅暁に対抗し得る神衣・鮮血は、最初から流子が着るためにそのDNAを埋め込まれた、本当の意味での“他の誰にも着こなせない”オーダーメイド。まるで皐月が流子を焚き付け戦乱の世が花開くことさえも予期していたかのように、纏一身=鬼龍院総一朗の用意してきたあらゆるものが羅暁との最終対決のその日に結実する。
「人は人!服は服だ!」わけがわからないのに、全話を追ってきた今なら“理解る”というおかしさと面白さ。人は服の奴隷にあらず、服も人を統べるものにあらず。人と服が対等な、人衣一体に至った流子と鮮血だからこそ到れる結末と宣言。人と戦維の架け橋となった主人公の言葉で、全ての闘いが閉じられ、地球が救われる。
それを経て、人類みな裸な大団円。よもやヌーディストビーチの二人の方が隠れている面積が多い事態になるとは予想できなかったが、絵面はへんてこなのに爽やかで、泣かせる。セーラー服はいずれ卒業するもので、流子たちには学生としての「ありきたりな日常」が帰ってくる。常に大きな使命に絡め取られた流子や皐月が、学生としての日々を全うできる束の間の日々があることが、何よりも嬉しい。されど、そこには大切な友達が一人欠けているわけで、その空白は埋まらないかもしれない。それだけ濃密で、かけがえのない時間だったことを心に刻みながら、好きな服を着られる日々を生きていく。また会える日を願いながらー。
第二十五話 さよならをもう一度
みんな、二十五話は観たかな!?!?!?!?BD/DVD9巻に収録されたTV未放送エピソードのことだぞ!!!まだ観てない人は円盤買おう!!!
『キルラキル』の物語は、二十四話で綺麗に風呂敷は畳まれている。ただしそれは流子と鮮血の物語で、研いだ刃の鞘を探すは鬼龍院皐月と、鳳凰丸。羅暁と闘うため、あるいは羅暁に仕えるために生きてきた二人は、いわば生きる目的を失ったようなもの。かつての気迫も感じられない皐月と、虚しい復讐に生きる鳳凰丸は、その納め所を見つけられなかった。
なので今度は、先に納めた流子が、迷える姉を導く番。鬼龍院羅暁に囚われた心を断ち切って、高校生活をきっちり卒業させてあげる。流子は鮮血とお別れしたけれど、その思い出が心の中で生き続けるように、全てが無くなったわけじゃない。だから全部割り切って、前に進んでもらう。
ただそのために「学校を物理的にぶった斬る」のが、キルラキル。もうここまで来たら比喩とかメタファーとかじゃなくて「送辞猛怒」と「答辞猛怒」で、ロボットになった学校を真っ二つ。この豪胆さが、気持ちいい。
節操もなく「この支配からの卒業」を映像化するなんて、大胆にして大バカにも程がある。程があるのに、観ているこっちは泣いている。中島かずきの出してくる料理に、身体が喜んじゃっている。わけがわからないものに涙腺が翻弄され、バカになっている。
本能字学園は沈み、生徒たちはそれぞれ新しい場所へ。最終回でショートカットになっていた皐月の髪は、消えゆく母校に対する餞別として、自らが断ち切ったもの、という締めくくりが何とも美しい。犯した罪は消えずとも、やり直せるかもしれないという希望を胸に、新しい道を歩いていく。その決意を秘めた断髪も込みで、皐月もまた「お洒落をする」自由が与えられた。最襲回の爽やかさに、深みを増す結末だと思う。
あの激しい闘いを生き延びた全員が、それぞれの道を歩めるように、ケジメをつけさせてあげる。そんな作り手の愛を感じるこのエピソードをもって、『キルラキル』、本当に完結。観終えた寂しさはあれど、これ以上ないくらい綺麗に締まったことで、本当の意味で「傑作」と呼んでも差し支えないアニメになったと思う。
アツくて、馬鹿馬鹿しくて、そのくせ精密に組み上げられていて精巧で、何より愛おしい。どうして十年間ずっと一番好きでいられた理由をちゃんと言語化できたかは怪しいけれど、「好きだ」という気持ちで流子ちゃんたちを見送って、卒業式の会場を出ようと思う。
『キルラキル』は終わった。でも、願いは変わらない。激情版でまた会おう、だ。
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