見出し画像

適当に弾くピアノが、結果1番楽しい

私は、ピアノ教室の5番目の生徒だった。

とは言っても、私の他の4人の生徒は、私の兄と同じ幼稚園に通っていた3姉妹だったので、「2組目」と言った方が正確かもしれない。

その時私は5歳だった。
なんでピアノを始めたのかは、正直よく覚えていない。初めての発表会は兄と『となりのトトロ』の連弾をした。

私はとにかくピアノが嫌いだった。

何が面白いのかさっぱり分からなかったし、とにかく練習が苦痛だった。
父に「練習しなさい」と言われ、楽しみにしていたサザエさんが見られず、泣きながら練習した覚えがある。

そして私は絶望的にピアノが下手だった。母には後に「あなたは耳が悪いのかと思っていた」と言われたたし、目立ちたくて立候補した伴奏のオーディションは小学校卒業まで毎年落ち続けた。

優しくて話をたくさん聞いてくれる先生が好きでなんだかんだ7年間続けたけれど、小学校を卒業するタイミングで、先生が関東にお引越しされることになった。
教室のはじまりから終わりまでいたのは結局私だけだった。
5人だった生徒は20人まで増え、最後の発表会で「きらきら星変奏曲」を弾いて、私の習い事としてのピアノは終わりを迎えた。

正直、かなりほっとした。

もうピアノを弾くことはないと思っていたし、現に中学3年間、ピアノに触ることはなかった。

高校に入学して私が1番のめり込んだのは、音楽だった。
お小遣いは全てCDやライブチケットに使ったし、アーティストがキャンペーンで福岡に来ると聞けば、終礼後自転車を飛ばして天神へ行き、ラジオの公開収録ブースにはりついた。

そうしていつの間にか、体は再びピアノに向かっていた。
楽譜を買って、そして時には耳コピをして、好きな曲を弾いた。
親が呆れるほど弾いた。

決して上手ではなかったけれど、
初めて、ピアノを楽しいと思った。

そして大学2年の春、あんなに嫌いだったピアノのレッスンに、再び通い始めた。
コロナの自粛中あまりの暇を持て余し、軽音活動のプラスになることがしたいと考えた結果だった。

相変わらず練習はサボり気味で、毎回レッスン当日朝に慌てて詰めこんでいたけれど、10年ぶりのレッスンは新しい発見の連続だった。

正しい姿勢や指の当て方。
曲の背後にある時代背景やイメージ。

海外経験の長いベテラン先生は、曲の場面設定をまるでそのシーンが見えているかのように話し聞かせてくれた。

そして気づいたのは、楽譜の大切さ。

私は譜読みが非常に苦手で、細かな休符や指示を読み飛ばしてしまうけれど、ガサツな自分を落ち着かせて、楽譜の小さな声に耳を傾けると、全く音色が変わってくることに驚いた。

10年ぶりの発表会の曲に選んだのはドビュッシーの『アラベスク1番』
波のように繊細で、美しいその曲を弾きこなすのは、容易ではなかった。

ピアノをやっているとよく「左右で違うことをするなんてすごいね!」と言われるけれど、左右で違う音を弾くのは、慣れてしまえば意外と難しくはない。
難しいのは、リズムだ。

左手で八分音符を弾きながら、右手で三連符を乗せる。
とにかく、これにひたすら苦戦した。
しかしながら、ピアノも身体訓練。
一回自分の指に落とし込んでしまえば、まるで生まれた時から弾いてました!みたいな顔で弾ける。

集中すると、未だに口開いちゃうけど。


そして今年の8月。野外音楽堂で、ヨルシカのピアノを弾いた。

『八月、某、月明かり』という曲のピアノフレーズに触れた時、
そのあまりの美しさに、

私は、この曲を弾くためにピアノをやっていたんだ!!

と思った。割と本気で。

毎日、『八月』のことばかり考えた。
休符がどうしたら綺麗に入るか。
どのくらいの指の角度がいいか。
どんなタッチの音がこの曲にはふさわしいだろうか?

常々私はヨルシカを愛しているけれども、
この曲に抱いた感情は完全にだった。
(何を言ってるんだ私は)

『八月』のためなら、嫌いなメト練習だってやったし、
他の全パートの弾いてみた動画と合わせる練習もした。

しかし、『八月』のピアノに対する行きすぎた想いは、
私を完全に盲目にしていた。
この曲の主役は、ピアノだと思っていたのだ。
ある日、練習に向かうバスの中で、私は気づいてしまう。

あれ、ギター強くね???

リードとバチバチに戦うつもりで練習していたのに、
思ったよりもギターが強い。

しかし、そんなことで私の恋は醒めたりはしない。

こんなにも美しいフレーズを持っているのに、
曲を陰で支えるその健気さと奥ゆかしさ!
その一面を知ってさらに好きになれた気がした。
(なんでもいいやんとか言わないで)

そしてこの曲へのアプローチを、変えなくてはいけないと感じた。
もっとベースやバッキングに寄り添うような繊細なピアノを弾きたい。

そう思って練習に行ったら、
なぜかドラムの音が一番でかかった。


ピアノを初めて触って、もう17年になる。
結局難しいフレーズを弾けるようにはならなかったし、
クラシックもロックも極めることはできなかった。

でも、ピアノをやっていてよかったと思う。

音楽の捉え方を教えてくれたし、
好きな曲を深く理解するきっかけにもなった。

とはいうものの、
街で流れてる簡単なメロディを弾いてみたり、
弾いたことある曲の美味しいとこだけ繰り返したり、
やっぱり私はそういうのが好きだ。

練習は嫌い。耳コピは、もっと嫌い。

だから、適当に弾くピアノが一番楽しいんだよね、結局。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?