忘れられない入居者様の話。

もう15年くらい経つのに未だに鮮明に覚えている、とある入居者様の亡くなりかた。


そのかたは男性で90歳近くて。

軽い認知症ではあったけど自分のことは自分で出来るし足腰もしっかりしてるかたで。

秘書がいる仕事をしていたようで、たまに厨房に手帳を持ってきては、わたしはあなたに給与の振り込みをちゃんとしましたか?と聞かれるのが恒例だった。

その度、いいえ!まだです!と答えてたけど一度もくれなかったな・・・(当たり前(笑))


そのかたがある日転んで頭を打ってしまい。

幸い怪我は大したことなかったけど、その日からいつものピシッとしたスーツ姿ではなくなり、ボサボサの頭にパジャマで食堂に来るようになって。


そんな事が3ヶ月くらい続いたある日。

明日、無理矢理でもいいから家族をみんな集めて欲しい、それにあたり料金は多く支払うので散髪もしてお風呂にもいれて欲しいと言い出して。


わりと融通の利く施設だったのもあり久しぶりにパリッとしたそのかたを朝見かけた。

一張羅のスーツで朝ごはんを全て綺麗に召し上がったあと、お茶のコップを持って自室に行かれて。

一定の時間を過ぎたらコップは回収するルールだったのでナースに言ったところ、今手が離せないからつなちゃん取ってきてー、と。

ご家族が来る前にと思って急いでそのかたのお部屋に入ると、椅子にもたれてとても穏やかな笑顔で眠っていた。

あんなに穏やかな死に顔は未だに見たことがない。


最後までカッコよく生きたんだなぁと思ったら悲しくはなくて。

ただ手を合わせて、ナースに報告しにいった。


今までで一番カッコいーな、と思った入居者様のお話。
#創作大賞2023
#エッセイ部門

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