見出し画像

ポスト(アンチ)『俺ガイル』ってなんだろうね(ラノベ短評まとめ)

 サボりすぎたね。とりあえず続けます。変なタイトルつけちゃったけどこの話してるの冒頭の2つだけです(おい)。まあ、そんな感じでよろしくでーす☆

弱キャラ友崎くん Lv.11

著:屋久ユウキ

中身自体は、作品のメッセージ性が明確でコンセプトも大変わかりよい作品と言っていいでしょう。ですが、そのメッセージ性とコンセプトが先走り、物語の展開とかみ合っていない印象が強いです。ディテールの描写や一つ一つのシーンの書き方は問題ないのですが、お話の根幹部分での描写が足りていません。そのため、本来、カタルシスとして用意されている部分も肩透かしの感が否めず、結果、一つのお話として終わっていないように感じます。言いたいことややりたいことはわかりますが、それがわかるだけでした。セリフだけで済まさず、シーンや情景、キャラクターの心情をエピソード、物語として落とし込んで欲しいところです。コンセプトを生かすにしろ、物語を生かすにしろ、構成やお話の見せ方にはまだ工夫の余地があると感じます。また、キャラクターがただ状況の説明と物語を動かすためだけに存在している点が非常に残念です。この点については根本的な改善をするべきでしょう。ただ、70Pに一行くらいの割合で訪れるちょっとおかしみのあるセンテンスは好きです。

ゲスト審査員講評 渡 航

 待ちに待った新刊。前回日南葵の過去に立ち入り始めて、おもろいじゃねえか……つってからだいぶ時間が空いたので楽しみにしていました。感想としては疑いなく傑作だ!と言いたいところなんだけど……細かい部分がどうしても目についてしまう!例えばよく言われるように日南葵と主人公以外の会話はどうにもちぐはぐというか上滑りしている感じが否めないし、もっと言えば作中作を用いてキャラクターに何かを語らせるみたいな構造は端的にもったいないなと感じてしまう。
 とはいえ後半に挿入される日南の過去回想や、日南と主人公の対話は本当に一級品で、ここだけでも読む価値は十分にあると思う。このあとどう展開するかはやはり気になるところで、早めに新刊出ると言ってたので期待。
 ポスト『俺ガイル』という観点で言えば
いうとやはり本作が「アンチ・俺ガイル」という立ち位置にあるのは明らかなんだけど、完全にそのポジションにいられているかと問われるとちょっと疑問。そのあたりは冒頭に引用した渡航の短評が一番的確だと思う。要はその他の部分(構成とか表現とか……)で『俺ガイル』には到底敵わない気がする。ただ最終的な評価は結末に委ねられるだろうという気もかなりするので、そこは引き続き楽しみといった感じです。

これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。1

著:北条連理

 舞台を高田馬場にするな!!!!!!!!
 読んでいて弊学に無限に貼られているポスターのことを思い出しました。長谷田大学に妙な質感があってこう……ね。顔が変になりましたが。
 冗談はさておき。想像しているよりは全然面白かったです。本当のことを言うと最近のキャラクター小説感がないラノベがお出しされるのかと思いきや、案外そうでもなかった。会話や地の文はなかなか軽快で、読んでいて楽しかったです。作者さんのインタビューでも触れられている通り本作は明確に『俺ガイル』を意識して書いているところがある。こっちは『友崎くん』とは違って「ポスト・俺ガイル」だよね。最もわかりやすいのは作品で用いられる数々のモチーフ(マッ缶、葛西臨海公園、テニス対決、夢の国、あるいは「鍵」)でしょう。キャラの掛け合いも『俺ガイル』をかなり意識していると思う。ていうかほとんどいろはち。
 中身について言えば、これは「アセクシュアル」の話でもある。ここに目をつけたのはかなり慧眼だと思っていて、というのはおれも八幡はアセクシュアルではないと思いつつも、それに近しい(自身の対する嫌悪感から性的欲望に対して非常に否定的だと思う)ものだと感じているからです。『レプリカ』Vol.2に寄稿させてもらった論考で指摘したのはまさに八幡という存在が性的欲望と恋愛感情を分けるために葛藤していたし、またそれこそが彼の変な精神構造を形成していたという点でした。
 つまりその前提を「アセクシュアル」として設定し、塗り固めてしまうのは両側面な感じがしてしまうんですよね。一方で八幡の根源にある葛藤をあらかじめなかったことにしているから「ポスト・俺ガイル」ではない気もする。他方で、そうすることによっておそらく『俺ガイル』では描くことのできなかった、いわゆる「本物」の議論はと踏み込んでいけるという感覚はよくわかるものがある。なんにせよ言えることは、個人的には今後の展開に期待してしまうということです。
 その他一点言うべきことがあるとすれば、どうみても「いろはち」にしか見えないところですね。おれも昔ラノベを書いてみたとき友人に「渡航すぎる」と酷評されたものですが、それと同じ感じがする。もちろんだからこそテンポが良くて読みやすいんだけど、この作者さんならもっとできるんじゃないか、みたいな期待(願望)が同時に湧いてくるんですよね。願わくばいつか、『俺ガイル』のキャラ造形に囚われない作品も読んでみたいなと思いました。

変人のサラダボウル 2

著:平坂読

 箸休め枠。さくっと読めて楽しい。ありがとう平坂読。
 これまでもそういうところはあった気がするけど、平坂読は「ライトノベル」の本質を捉えたままどうすれば新しい場所へ行けるかをずっと模索している感じがしていて、今回それは文体に対する話題のそれなりの重さ(ホームレス、いじめ、宗教 etc...)にあると思います。話題は重苦しいはずなのに、いつも軽やかに進んでいく。それはともすれば軽すぎて誰かを傷つけてしまうような危ういバランスの上で成り立っているものではあるんだけど、平坂読ならそれを上手く捌いていけるんだろうなみたいな安心感がありました。
 前回引用したインタビューで、もうラノベやることないとか言ってたけど、多分書いていくうちにまだあるな……ってなったんだろうと思います。嘘つくなよと読んでいて感じる。平坂読ライトノベル作家引退はまだまだまだまだ早い。これからもよろしくお願いします。
 『変サラ』に関してはおれが読むのがかなり遅くてもう続刊は割と出ているんですが、のんびりながら追いついて行きたいと思います。こないだ始まったアニメもめちゃくちゃいい。手触りが見知ったもので、思わずにんまりしながらテレビの前に座ってた。みなさん見てください。

豚のレバーは加熱しろ 7回目・8回目

著:逆井卓馬

 シリーズなので二つまとめて書きます。『豚レバー』本編が完結となるこの2冊。本シリーズはずっと読者の代替である主人公が豚に転生して異世界で美少女とブヒブヒやっていく、という流れを延々にしていたわけだけど、その完結に非常にふさわしい素晴らしい終盤だったと思う。多分今後10巻以内に終わる中編ラノベシリーズのおすすめを聞かれたら、これか『神様のメモ帳』って言います。特に一番最後のシーンなんかはすごく熱がこもっていて、思わず読みながらうるっときました。おれも豚さんみたいなもんなんでね……。
 これはどこかで腰を据えて書きたいなという気持ちが強いんだけど、この作品は『AIR』とかの系譜に対する、もっと言えばゼロ年代の美少女ゲーム論のカウンターとして働いてる感じがかなりしています。読者である我々がいかにしてキャラクターに、虚構に介入するのか。その点をライトノベルという媒体の特性を最大限に活かして書き続けてきたという印象です。本当に素晴らしい作品だった。何はともあれ、ありがとうございました。ジェスたそブヒブヒ〜


 と言うわけでお送りしました。難しいですよね、『俺ガイル』。このまま行くと10年後くらいに「この10年、『俺ガイル』を超えるラブコメは生まれなかった」とか言って新劇俺ガイルが始まるかもですね(まず旧劇がないが)。
『俺ガイル』のことになると無駄に文字数が増えてしまい唸りながら書いてました。次回は簡潔にしたい。おそらく『豚のレバーは加熱しろ n回目』から始まることになるでしょう。引き続きよろしくお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?