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神子畑選鉱場跡 朽ちてなお美しい建造物

神子畑(みこばた)選鉱場

兵庫県朝来市の神子畑選鉱場跡。

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大正8年、明延鉱山の大規模選鉱場として建設される。

昭和62年、明延鉱山の閉山とともに操業を停止。平成16年に老朽化した建物が取り壊され、現在はコンクリートの基礎のみが残る。

廃墟となった後でも…

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人々を魅了し続ける。

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美しい。まるでローマ建築のよう。

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昔のコンクリートは頑丈だと聞いた事がある。良質な川砂を使っていたからなのだろうか?100年近くも、この細い脚で支えていたとは驚き。

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壮大。まるで中南米の山奥にある神殿のよう。

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この坂を従業員を乗せたトロッコ電車が走っていた。

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当時、東洋最大の選鉱場で、不夜城と呼ばれていた。

ここは、近代日本を支えた産業遺産として日本遺産に登録されている。

【ご参考】


コンクリートの未来と憂鬱

最近、気になることがある。

化学素材メーカーが、コンクリートの補強材のPVA(ポリビニルアルコール)繊維のCMを流している。この素材はアスベストの代替品としても古くから使われている。

PVA繊維が網目状となってセメント粒子と砂や小石と混ざり合うことで、強いコンクリートをつくる。その原理は、土に切り藁を混ぜ込んで土壁の強度を高めることと同じだから理解できる。

南北に長く絶えず波に晒される島国。山がちで谷が深く急流河川の多い国。この国にとって、頑丈なコンクリートは正に国家を支える屋台骨。
だから、この素材と技術は日本にとって素晴らしいものだ。



だけど…少し心配になる。

木造建築は朽ちれば土に帰る。
法隆寺も手入れを続けなければ、数十年も経ずに山奥の廃寺のようになり、いずれ土になる。

古墳も朽ちる。
盛土が流亡し石室が剥き出しになれば岩石は風化し崩れ、いずれは石や砂になる。

コンクリート建造物はどうだろう?
人々が利用しなくなり補修されなければ、いずれ風雨や波風によって崩れ落ちてゆく。昔ながらのコンクリートなら、長い時間をかけて石灰と砂利に戻る。鉄筋も錆びて粉々になれば砂鉄になる。石灰も鉄も元は自然界に存在していたもの。

しかし、PVAは違う。
コンクリートが劣化した時に、あるいは解体した時に、PVA繊維が自然界に放出されることはないのだろうか?私たちの次の次の…そのまた次の世代になった時に、環境問題になることは無いのだろうか?

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漠然とした疑問を抱えていた時、興味深い論文を見つけた。

竹繊維を混入した法面保護用吹付けモルタルの基礎的性状および耐久性に関する研究 (徳島大学大学院 先端技術科学教育部 知的力学システム工学専攻 藤好 一男 2019)

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竹繊維の利用…?

戦時中、資源の少ない我が国では、鉄筋の代わりにやむを得ず竹を使用して建造物をつくっていた。戦後になってからは使用されなくなり、竹筋コンクリートは半ば自嘲を含む文脈だけで語られるものだと思っていた。
しかし、竹筋コンクリート建造物の中には、現存は元より現用されている物まで存在する。【ご参考】竹筋コンクリート探訪

もしかしたら、竹とコンクリートは親和性があるのだろうか?


竹繊維の可能性

この論文は、竹そのものを建造物の骨格に使用するのではなく、竹を機械切断した繊維をモルタルに混ぜ込み、法面に吹き付けた際のモルタルの強度を調べる研究だ。研究の背景として、近年のマイクロプラスチック問題、さらに竹の放置林問題がある。

素人なのでざっくりとした理解でしかないが、竹繊維混入モルタルは総合的にはPVA繊維に劣るものの、部分的に優れた所(高い凍結融解耐性)もあるそうだ。実際には研究途上で、今すぐに実用化できる段階ではない。

しかし、この研究の最大のメリットは、単に竹繊維がプラスチックの代替品になることだけではなく、放置林を資源化することによって県内の林業再生を同時に達成すること。工業と林業の両面において持続可能な循環型の開発目標を目指す試みだ。

ざっと目を通して、文末の謝辞にたどり着いた。ここで初めて、この論文の著者がどのような人物なのか分かってきた。多くの支援者によって援助を受けて社会人で博士課程を学ばれた方のようだ。結びの言葉には、ほろっとさせられた。

いつか、この研究成果が実を結びますように。


オタク気質の長文を最後まで読んでいただきありがとうございます。 またお越しいただけたら幸いです。