神隠 鶴見川古地名散策
神仏地名に動物地名、ここは古地名ワンダーランド!
鶴見川古地名散策・第2弾。
今回は、早渕川と鶴見川に挟まれた新吉田地区の古地名を巡ります。
前回の古地名散策はこちら ↓
今回巡る場所を明治39年の地図で見てみると…
面白そうな地名があります。
この赤丸で囲んだ所の現在の様子を見てみましょう。
内陸に「貝塚」?
スタートは百目鬼堀からほど近い、宮内新横浜線のとある交差点。
いや、その先には、もっとダイレクトな…
近くの交差点は「貝塚東」「貝塚東側」(その違いは…?)
さらには「貝塚中町」バス停など…めっちゃ貝塚だらけ。
こうなると地形を確認せずにはいられません。
縄文海進時は現在より水深が4〜6mほど高かったので、この図の青い部分(海抜~5m)は海または浅瀬でした。
さらにズーム
Wikipediaによると、新吉田東周辺には貝塚が10数ヶ所も存在していたそうです。これなら、貝塚と呼ばれるのも納得!
【ご参考】
県内や市内の貝塚、縄文海進について詳しく記されています。
埋文よこはま 横浜の貝塚① 縄文時代編https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/cms_files_maibun/pr_brochure/371-8-2.pdf
アニマルネーム?「獅子ヶ鼻」
縄文時代の岬の先端を回り込んで、高台に沿って進むと…
突然、庚申塔が現れた!
そのちょっと先にあるのが、獅子ヶ鼻交差点。
動物地名は地形を意味するとよく言われます。
一般的に、シシ(獅子、鹿、猪、宍)は谷地形を表すようです。深く切れ込んだ谷(開析谷)は、シシが水を飲みに来るような場所。三方が高い崖になっていて、地崩れが起きやすい場所と指摘されています。
【ご参考】
技術ノート 東京の地形と地名 (社団法人)東京都地質調査業協会
また、断崖を意味することもあるようです。
舌状台地先端の断崖が、伏せたシシ(イノシシ?)の鼻頭に見えたのかも知れないし、語源の通り「獅子(断崖)の鼻(先端)」を意味したのかも知れない。
新田小学校の辺りが、かつて獅子ヶ鼻と呼ばれた場所。
この周辺には、大熊や海老谷など動物地名が存在していました。
海老(蝦)は「節が曲がった」から階段状地形や段丘崖を表すようで、複雑な地形ならではの地名です。
熊(球磨、隈、曲)地名は、渡来高麗人や熊野信仰も絡んでいるので一概には言えませんが、次のような地形由来説があるそうです。
大熊川は、確かに大きく曲がって鶴見川に注いでいます。
怖いお名前?「神隠」
先日の3月3日、NHKの「日本人のおなまえ」にて取り上げられた「神隠」。こんなローカルな場所が全国ネットで取り上げられるなんて、びっくりΣ(゚Д゚)!
ホラーっぽい…ざわざわする気持ちを抑え、神隠に行ってみよう!
獅子ヶ鼻から先へ進みます。
さらに坂道を登って、台地の上へ。
急な坂道のその先には…
神隠公園・・・
神隠の由来
「日本人のおなまえ」では、地元の郷土史研究者が従来より候補として挙げている説を紹介していました。
このうち③~⑤について現地取材し、特に④⑤を組み合わせて⑤の説をイチオシする構成でした。現在でも、⑤のご子孫が地域にお住まいのようです。
【ご参考】
ここで…ひねくれ者の私が、番組を見て感じた疑問。
「いくら谷深いとはいえ、後北条氏の検地が行われていた地域に、地名のない場所が存在したのだろうか? また、江戸時代の都筑郡の大半は幕府領か旗本領。後から入植してきた人々に、元々あった地名を変えることができたのだろうか?」
見つけた?「神隠」地形由来説
こういう時は、「新編武蔵風土記稿」を見るに限ります。
「吉田村」の小名の項に「神蔵 村ノ西ナリ」と記載されています。
明治時代の今昔マップでは吉田村に「神蔵」が見当たらないので、「神隠」の前身が「神蔵」だったのではないかと推測。
神蔵…カミクラって読むのかな?
文字を分解すると、神蔵=神(カミ)+蔵(クラ)
それぞれの音の意味を調べてみると…
カミの意味
クラの意味
ここでもう一度、あの写真を…
崩壊する断崖…これが語源か?
いや、まだ結論づけるのは尚早だ。他の解釈を考えてみよう。
神蔵(カミクラ)は神座(カムクラ)か?
神様のいる場所を神座といい、原始信仰では磐座や巨木信仰などが知られています。神の語源は「カムィ」→「カム・カミ」の変化があり、神を含む地名には縄文語の影響が残されていると言えます。近くにある神隠丸山遺跡には縄文時代の大集落跡が存在しました。
また、鎌倉の由来にもあるように、カムクラは山を含む地形や、カマドのように一ヶ所だけが開いている地形を示しています。
これらを総合すると、やはり神蔵は古くからの地形由来地名の可能性が…。
神蔵(カミクラ)が神隠(カミカクシ)に?
「蔵」には「蔵(かく)れる」という読み方が存在します。
古くは「カムクラ」「カミクラ」と呼ばれていたものが、「カミカクレ」そして「カミカクシ」と変わったのかも知れません。漢字は、新編武蔵風土記稿が成立した1828年以降に「蔵」から「隠」になったと思われます。
いずれにしても、この地名の始まりは地形によるもの。
もし、⑤の方々が地名に関わったとするならば、漢字または呼び方を変更したのではないでしょうか。
神隠にある隠れた名店
グーグルマップによると、この近くに蕎麦の名店があるそうなので行ってきました。
お昼過ぎた頃に着きましたが、まだ車がいっぱい。
ようやくお昼にありつけました。
喉ごしが最高で、こんなに美味しい蕎麦を頂いたのは久しぶりです。
まとめ
今回の「日本人のおなまえ」は面白い内容でした。特に、いつも引用でお世話になっている大倉精神文化研究所の(動いている)平井誠二さんを、VTRで初めて拝見できたので感激しました。
テレビで放映された「神隠」の由来については疑問に思うところがありますが、まあ、素人の私が四の五の言っても仕方がないこと。
実際に地形由来地名は、このように「漢字が変わる」「言い換えられる」「歴史的美談に取って代わられる」ことが多いのだと思いました。
シリーズ次回は
オタク気質の長文を最後まで読んでいただきありがとうございます。 またお越しいただけたら幸いです。