運ちゃん

私の運ちゃんは誕生前から痛みに弱かった。
母の腹がエイリアンの様に重く膨れ上がっていた頃
運ちゃんは「やめようぜ」と囁いた
「なぁ、かなり痛い道だぜやめとけよ」
私もそうしたかったが、母のあまりの苦しみ様が私の思いを妨げた。
母は長い苦しみに耐え、楽になりたい「私を何とかしたい」と思っている。

私は頑張った。
運ちゃんも痛みに耐えた。
そして私と運ちゃんが誕生した。

「痛い!神様仏様どうかお助け下さい。
私は必ず良い子になります。だからお願い助けて」

苦しい時の神頼みを私はいつ覚えたのだろう
強い痛みに耐えている時、私は条件反射で祈っている
神を信じてもいないくせに

神を信じる事は怖がる自分に打ち勝つ事

自分を信じる事に大した意味はない

個人を支配するのは実体の無い運ちゃんだけだ

信じてきた事、期待していた事
私はその全てに裏切られてきた

どうして期待なんかするなと言ってくれなかったのか
運ちゃんに聞いた事もなかった

私が期待したかったから
私が信じていたかったから
少しでも気楽に生きたかった
それだけの事だ

私の抱く希望や努力に関係なく
通る道は始めから決められている

「運ちゃん、私なんだか疲れたよ」

「おぅ、おめぇが人間に生まれちまうとはとんだ災難だったよな。
それによ、おめぇが母ちゃんが可哀想だなんて思っちまったのがそもそもの間違いよ。
俺も疲れちまったぜ。
人生ってぇのは、なげぇんだなぁ」

運ちゃんも疲れている
運ちゃんの命が終わる時
私の命も終わるのだ

運ちゃん

疲れたね

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