オープニング・ネジネジの木⑴

ネジネジの木01 {天に帰して} 四話完結

とある宮殿の広い庭。母木と父木の種から育つ小さな苗木は必ず両親の木の間に植えられます。そこは陽光さす温かい場所。両親、宮殿で働く庭師たち、宮殿で暮らす多くの人。苗木は、みんなに愛され ほめられながら真っ直ぐに背を伸ばし育っていきます。
一方、陽光遮られる場所に両親もいない育ちの悪い小さな苗木がいました。ひとりの庭師は「なんだいこりゃ、またずいぶん奇妙な苗だね。雑草とも違うようだし……誰かが新しく植えたのかね?全くみすぼらしい」また別の庭師は「こんな日陰でも枯れちまわないとは強いもんだな」そこは、まっすぐに育つ苗木の 立派な両親木の後ろでした。にぎやかに会話を楽しむ数え切れない家族たち。「いいかい、あの両親のいない子とは友達になるんじゃないよ。親がいない子なんて、ろくなもんじゃない」「ねぇあんた、ひとりで平気なんて ずいぶん変わってるね」「見てよあの子、変なの。クスクス」
苗木にはすべて聞こえていました。けれど返事にとまどうばかりで じっと黙り込む事しか出来ません。心は悲しみが重なり苦しさでいっぱいでした。気持ちが傷つくたびにネジネジと自分の枝が体を締め付けていきます。中途半端な優しさで水を与えられ、動く事の出来ない苗木に出来る事は、ただひとつ。
神さま、どうかどうかお願いです。誰からも愛されない私を、早く天にお返しください。ネジネジの木は、毎晩空に願い祈り続けるしかありませんでした。

ネジネジの木02 {南国の王子}

種子を含み、命を呼び覚ます 暖かい命の風が吹く季節。広々とした庭は、まるで空に咲く七色の虹のような美しさです。周囲の木々は みな芳しく華々しい幸せを満喫しています。みな両親と同じように親になれる希望に溢れキラキラと輝いているのです。けれどネジネジの木は、もう何十年も同じ場所で ずっと一人ぼっちのままでした。
それは、幾度めかの宮殿のお姫様のお見合い話が持ち上がる年でした。毎日のように他国の王子様が、はるばるこの宮殿を訪ねてやって来ます。
その日は、遥か南に住む王子様が大きな荷馬車でやって来ました。王子様は、宮殿に入る前に美しい花が咲き乱れる庭をひとり眺めて周っていました。そしてある場所で足を止めます。私達の国を代表する木が、どうしてこんな所に?
・・頭のいい王子様には理由がすぐにわかりました。まるで生気のない母国の木を悲しい気持ちで長く見つめていた王子様は、木に優しく話して聞かせます。「わたしの曽祖父様か、そのまた曽祖父様かはわからないが、大切な贈り物として母国の君をここへ置いて帰ったのだろう。素晴らしく美しい庭が有名な宮殿だ。きっと大切に育ててもらえると思ったのだろう。現実は違ったようだね・・本当にすまない。」どんなに長い間こんな姿のままだったのだ。私と一緒に生まれ故郷に帰ろう。王子様は、お見合いより母国の木を救うことに決めたのです。積荷に乗せていた故郷の土にネジネジの木を植え替え、帰国を急ぐのでした。

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