国王の朝
ここハイチーズ王国の立ち入り禁止地域は沼地くらいのもので
入国している妖精達は宿屋に民家、枝木の間や鳥の巣、どこででも自由に座って
食事をとるし眠ります。
とりわけ大きなテーブルのある城内での朝食は、空中から床一面までぎゅうぎゅう状態。
静寂を好み、大自然のオーケストラを楽しめる耳を持つ妖精達にしてはとても珍しい光景です。
王様と王妃の席はいつも隣り合うように配置され
毎朝王様より早く王妃が席につき、ゆったりと静かに食事をはじめます。
しばらくして「食の間」の扉が大きく左右に開き中央から王様が姿を現します。
「おはよう、おはよう、みんな今朝の朝食はどうかな?満足至極じゃろうて。」
別名{微笑みの王}の登場です。
「さて、わしも早速いただこう」温かいスープをゴクリ。
大好物の大きな大きなくるみがたくさん入ったパンから
くるみをほじっては食べ、ほじっては食べ、くるみを全部食べつくし満足してから
パンを小さくちぎりお皿に並べはじめます。
小さな妖精達がひとつ、またひとつと手に取りそれをモグモグ。
室内を見渡すと稀に惑星違いかと思われる見慣れない姿を見かけることも……
そんな時の王様の胸の内は決まってこんな感じです。
「もしじゃ、もし声をかけられたら何語になるんじゃろう、ちょっぴりドキドキじゃ。」
楽しいことが大好きな妖精達。
空が青く美しい日の朝食には、こぞってお城に集まります。その訳は・・
王様がパンをちぎり終え、デザートのプリンを食べ始めるころには
足をブラブラ、体はソワソワ、目は王妃をチラリ。ブラブラソワソワ王妃をチラリ。
たまらず王妃が大きな天窓を見上げてこう言います。
「あなた、今朝の空はもうご覧になって?なんて素晴らしい青空なんでしょう」
待ってましたと言わんばかりに王様はうれしそうに答えます。
「おお おお もちろんじゃとも王妃よ。こんな素敵な青空の日は、ちょこっと北の大地の方へ散歩にでも出掛けるべきじゃとは思わんかな?」
王妃と王様の会話が始まると、食事を終えた者も途中の者も耳をすまし始めます。
王妃は優しく答えます。
「あなた、北の大地などへ行っても風が強いばかりで何もないではありませんか。
それに王が城を不在にするなんて何事かと騒ぎになりますからお止めになって。」
王様は声音を変えながら「フホッわしなんぞが城におらん事など何でもない事じゃて。
それよりケナガオオワシじゃ。わしの夢は、あの鳥の巣ですきなだけくつろぐことでな。
あの鳥は、紅蓮の羽根も瑠璃の羽根も持てず、ただただ毛がぼうぼうと長いだけの地味な鳥じゃ。しかしな、素晴らしさとは姿形ではないんじゃよポロリ。
困っている妖精達を守るように飛び回るあの生き方がたまらなく感動的でな。
あの愛、あの心の大きさからするに
わしは、あの鳥には天使の血が入っとるんじゃないかと思うとるくらいじゃ。
それを、それを証明出来たらどんなに素晴らしいことかポロポロポロ。」
最後までおとなしく聞いていた王妃は
話しが終わったと同時にガターンッと椅子から立ち上がり
王様をはじめ部屋にいる全員がビックーッと驚く中
「危険ですからお止めください」とピシャリ。
そうしてさっさと自室へと行ってしまいます。
最後の言葉を聞いた王様は、しょんぼりと肩を落とし鼻水をすすりながら
誰か話しの続きを聞いてくれんかといわんばかりに室内を見渡します。
けれどこれは青空の朝の恒例の出来事なので
妖精達はよそ見をしたり口笛を吹いたりしてやり過ごすのです。
諦めた王様がしょんぼりトボトボと北塔最上階にある
{ケナガおおわしの部屋}へと歩き出します。
食の間に残った妖精達の楽しみはこれからで
出来るだけがっくりと肩を落とし、しょんぼりトボトボと練り歩き
みんなと目を合わせてはキャッキャと笑い転げます。
妖精は多種多様でそれぞれに言葉も違いますが身振り手ぶりで十分仲良くなれるのです。
真似をしたままお城を出るまで遊ぶのが楽しみで、こぞってみんなが集まるのです。
王様は、みんながゴルゴン王と呼ぶ人気者。(他国では微笑みの王とも呼ばれ親しまれています) サンタクロースの血をひいていて、サンタクロースの一人
サンタクロース・ハムチーズの弟。
正式名はゴルゴンゾーラ・ハムチーズ。
ケナガオオワシが大好きで日々観察、研究を欠かさない愛すべき王様なのです。
王様がかわいそう?
優しい君、大丈夫。
王様は北塔への階段を上がるころにはもうワクワクしています。
宝物の望遠鏡を覗き込み、今日は姿を見れるに違いないってね。
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