バイタル音
ピッ ピッ ピッ ピッ
私はこの機械的な高音がとても好きだ
静寂の中この規則的な音だけを聞いていると
不思議と気持ちが安らぎ落ち着いてくる
ピッ ピッ ピッ ピッ
こじんまりとした個室
面会時間外になり
病室外もとても静かだ
ピッ ピッ ピッ ピッ
空調も程よく不快感がまるでない
眠っているのには最適な環境だ
規則的な音と共に体が堕ちていく
薄っすらとした意識の中でふと思う
ピッ
私は見舞うはずの病室を探していた
そしてふとこの音に気付き近付いた
ピッ
「お兄ちゃん」不意に声をかけられた
「僕にお兄ちゃんの心臓をちょうだい」
ピッ
私は声の主を探すのだが見当たらない
ピッ
さして思い入れのないこの心臓にも、生きることへのこだわりも捨てた私はこう答えた。
「いいよ。私の心臓は特別でもないし、くたびれきっている。それでもいいならあげる。」
ベッドに横たわる人物を確認したいのだが
思いとは裏腹に心地よく意識が遠のいていく
ピーーーーーーーーーーーーー
声の主に私の心臓が届いたのだろうか
役に立ってやれ
老ぼれて疲れ果てて尚求められたのだ
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