「昆虫の家」高階良子

9月に少女まんが館へ行って読んだ漫画の感想です。

🌷 「昆虫の家」高階良子

少女漫画でこのタイトルはあかんやろ!と気になってしまい、読むことにしました。秋田書店の棚を物色していて見つけました。

書誌情報:高階良子「昆虫の家」(1985、ボニータコミックス、秋田書店)
収録作品:「昆虫の家」(なかよし1973.8掲載)、「うわさのふたり」(別冊フレンド1968.11掲載)


「昆虫の家」

ホラーかと思いきやけっこう可哀想な話でした……でも話の締めくくりはホラーの様式に則っていました。

コミックス化されたのは昭和60年でしたが、昭和48年に発表された作品。
一緒に収録されている「うわさのふたり」はもっと前の作品なので、全体的にコミックス表紙よりも絵柄が古風で、目の描き方が初期の萩尾望都のような感じです。

絵があんまり上手じゃないというか、絵が上手ければたぶんもっとディテールを描きこみ、ぱっとページを見たときの絵柄が平均化する(??うまく言えなくてすみません)と思うのですが、描き込みが少ない分、どのコマの人物も情念の線で描かれたような重さがあり、逆にこの陰鬱な話によく合っていました……。(追記:後から気づいたのですが、同収録の「うわさのふたり」のような60年代学園ものの画風からシリアス漫画の画風に移行する過渡期のような感じかもしれません)


孤児院のような施設でいちばん長く過ごしているクレールという女の子。フランス人と日本人のハーフで、赤い髪をしているため日常的に差別をうけてしまっています。
自分の出自や容姿にコンプレックスがあり、打ち解けられる人もいないなかで、唯一の心の癒やしはうつくしい蝶を集め標本にすることでした。

クレールは、うつくしい蝶をずっとその姿で保存することで、自分にはない美を自分のものに出来たかのような陶酔感を得ていたのです。

いろいろあって、近所の学園のテニス部の美しい娘まで、そのコレクション欲の対象になっていきます。。
たしか明石さんって名前だったと思うんですけど、明石さんはクレールのような何年もかけて練り上げていった卑屈さや劣等感のような感情をひとかけらも知らないお嬢さんなので、偶然言葉を交わしたクレールにもとても親切でほがらかに話しかけます。
クレールはそんな明石さんにすぐさま拒絶反応を示したり深い憎しみを抱くでもなく、しずかに、自分とはまったく違う美しい存在としての明石さんをただ見守るのでした…

そしてなんと、クレールの日本人の父親が判明し、クレールは遺産を受け継ぐこととなりました!

お金に困らなくなったクレールはようやく明石さんの美を自分のものにするため行動に移すのです……

ここから先がよくある洋館もののホラーみたいな感じの展開になっていくのですが、ふつうの洋館ものと違って読者は『洋館に迷い込んだ被害者たち』ではなく『洋館に罠をしかける側』を見てきた者としてこの展開に辿り着くので、これはこれで「このあと何するつもりなんだろう…」とそわそわして面白かったです!

クレールはどういうふうに明石さんを自分のものにしたいんだろう?
というのはここまで読んでても読者にもよくわからないのですが…
洋館に閉じ込められて仲間たちと別々にされた明石さんにクレールが『ずっとここにいてほしい』みたいなことを言う場面があります。
ここで明石さんも生来の性格の良さを発揮し、

じゃああなたはわたしに好意をもっていて
わたしとなかよくなりたかったっていうの?
なんてばかな……
だったらあのときそういってくれたらわたしはすぐにあなたとなかよくしたわ
こんなばかなことをしなくたってわたしはよろこんでここへたずねてきたわ

113ページ

と心優しい言葉をかけます。
ここでクレールってほんとうは理解者が欲しかったのかな…と一瞬思わさせられるのですが、、やっぱりクレールは明石さんの美しさにしか興味がない完全なサイコパスだったのでした、、

ああ このチョウとおなじなんだ
このクレールにとってわたしは……

121ページ

その後またいろいろあって虫に寄生され患部の切除が必要になった明石さんに対し、『あなたの体に傷をつけるなんて私にはできない』とか言うクレールにちょっと優しさを自分は感じてしまったりしたのですが、よくよく考えると標本にする蝶を傷つけないのと一緒でした。

大部分を説明してしまったのですが、クレールに救いはなかったのかなあ。。とも思います。
でも、一応お金を得たもんな……


最近モラル・ハラスメントについての本(「モラル・ハラスメント 人を傷つけずにはいられない」マリー=フランス・イルゴイエンヌ、高野優 訳、1999、紀伊國屋書店)を読んでいたのですが、自分の欠如を埋めるような優れた人(もの)を所有したいと思う欲ってモラハラ加害者の心理の特徴としてあるらしいです。
クレールが育った施設の施設長さんはクレールを叱りつつも、彼女の奇妙なところも受け止めようとする真摯さがありました。でもやっぱり根が善人なのでクレールの闇まで理解できませんでした。

人の理解を超えた闇の心理にまで到達してしまった人間はどうすればいいのか。この漫画は破滅で終わりましたが、もうちょっと葛藤を深めて拡げられる感じがするので、長編が描けるテーマとなるかもしれません。
しかし、じめじめ、じわじわと進行していくクレールの行き場のなさやどうしようもなさはかなり不穏でいい感じに描かれているなーと思いました。
クレールの心理を語るモノローグもこういう物語にしては少なめな気がしましたが、クレールは葛藤ではなく絶望していたのかも…
絶望は沈黙ですから…何も言葉にならなかったのかもしれません。(cf.「残酷な神が支配する」(萩尾望都)に描かれる絶望など。)

ちなみに「昆虫の家」なので、もっとクワガタとかオールマイティーに昆虫だらけの家なのかなーと思っていたのですが基本蝶でした。


「うわさのふたり」

「昆虫の家」のじめじめ感を吹き飛ばすような爽やかな恋愛ものでした。


学校の人気者・虎川くんは、主人公の女の子(名前忘れた…)にばかり意地悪をします。
主人公はぷりぷり怒るのですが、読者にはとっくに虎川くんの好きな子いじめだとわかっているため、ふたりが自分の気持ちに気づくまでを温かく見守る……というぬくい話です(*´∀`*)

事故のあたりがかなりスリリングな展開になってしまうのですが、、虎川くん、かっこいいな!君は風早くんの何倍もかっこいいよ。(「君に届け」読んでないけど…)

主人公の女の子も好感がもてる爽やかな子で、虎川くんからの好意にも気づかないし、虎川くんへの好意もなかなか自覚しないピュアな子なのです。
虎川くんに意地悪されて、

虎川くんて……みんなにはあんなにしんせつなのに

181ページ

と素直に落ち込むんですよね。
嫌味がなくて、応援したくなるのです。

主人公が事故で青ざめ、どうしよう、妹がこのまま死んじゃうかも…!と焦り混乱するところも読んでて一緒になってドキドキしたし、
高階良子さんはなぜ「昆虫の家」を描いたのだろう。。と思わなくもないです……。
初めて読んだ作家さんなので作風を知りませんが。。。もしかしたら他の作品はぜんぶ「昆虫の家」系かもしれませんし。。

ラストもよかったです。最後の一コマは風景画で、爽やかな風を感じました…。


今回は、読んだ感想を溜めずにさくさく投稿したいですー
前回以前に少女まんが館で読んだ漫画の感想も上げきれてないのですが…!😭

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