「グリーングラス序曲」長岡良子

しばらくは2021年〜2022年にかけて少女まんが館を訪問した際に読んだ漫画の感想を書いていきます。
2021年6月に初めて少女まんが館へ行ったときに読んだ漫画の感想!


🌷「グリーングラス序曲」長岡良子

書誌情報:長岡良子「グリーングラス序曲」(1987、ボニータコミックス、秋田書店)
収録作品:「春待月」、「さくら変奏曲」、「すれちがいのカノン」、「グリーングラス序曲」


お嬢様っぽいな〜と思って選んだ一冊。



「春待月」

浪人生の貢(みつぐ)くんがご近所で出会った美女に恋をする話。

いろいろとミスリードが仕掛けてあっておもしろいので最後まで美女が何者かわからなかった!

貢くんという主人公は心やさしい性格なのですがほんとうに平凡な男の子で、そのふつうさがよかったです。

どのくらいよかったかというと、、
終盤のお父さんとの電話の場面がいちばんよかった。。

貢くんは美女の力になりたくて奔走するのですが、自分には「思いやり」とか「気持ち」しか無いことに気づくんですよね…

なんの力も持たないのに
やさしさとか思いやりとか
そんな言葉で自分を甘やかしていただけだ
「グリーングラス序曲」電子版(ボニータコミックス) 47ページ

お父さんはやっぱり親の勘というか、そういう貢の弱いところをちゃんと分かっていて、、こんなやりとりをします。

父さん…

おまえは気はいいが
意志の弱いところがあるからな

父さん オレ…
オレ ホントにダメだな…
なんにもわかっちゃ
いなかったよ

貢?

オレ勉強するよ

……

われながら
シリメツだと思いながら――
でもそれが
その夜のぼくの
いつわらざる
心境だった
「グリーングラス序曲」電子版(ボニータコミックス) 48ページ 

貢くんはこういう自分の力ではどうにもならない経験を経て、心が成熟していくんだろうな…


「春待月」とはなんだろう?と思って調べたら、空のお月さまの呼び名ではなく12月の別名でした。(宵待月とかの仲間かと思った)
陰暦の12月って1月ごろかな?いつなのかよくわからないけど、、



「さくら変奏曲」

「春待月」から数ヶ月たち、貢くんは試験を終え、合格発表を待つのみとなりました。(この2作は連作でした!👀)
この宙ぶらりんな時間に出会った凛々しい黒髪女子高生・由比子(ゆいこ)と成り行きで付き合うことになり……という話。

由比子がかっこよくて、すごく良いキャラクターでした。
黒のジャケットを着て、パンツルックにネクタイを締めていて、情に厚く、いつも子分を引き連れている。。

由比子はものをはっきり言うけど自分の気持ちをそういうふうにしか伝えられない子で、「春待月」では貢を心優しいと思いましたがその貢より何倍も真摯で心優しいんだな、、と感じました……

由比子が男性と付き合わなきゃいけない事情がなにかあったのかなと思いましたが、そういうことでもないみたい。
よくよく読み返してみると、冒頭の事件の直後、貢が「せ 責任はとります!」と震え上がって言ったまっすぐさに由比子は心ひかれたのかもしれません。。この「さくら変奏曲」での貢は、流されて自分の意見が言えなかったりと、けっこういい加減なところがあるのですが。


貢くんはかわいいお人形さんのような雰囲気の女性にほだされやすいのですが、「春待月」「さくら変奏曲」とをみてきて思うのはそんな彼女たちは貢くんのヘナヘナ感を不思議と見抜いているのか相手にしないんですよね。。
由比子は一見強い女性だけど、貢くんのいいところ(「春待月」でお父さんと電話で話したような内容)を分かっていて、そしてそれを必要としているから、結果的にこの関係性に貢も救われていくんじゃないかなと思います。『自分も相手の力になれる』って実感できる関係性って大切ですものね。

ラストシーンは足を痛めた由比子をおぶって歩く貢の絵。

何気ないストーリーなのにいろいろと考えを巡らせてしまう内容でした。。



「すれちがいのカノン」

母子家庭の母が2歳年下の男性と再婚し、その若々しい父や新しい家庭に慣れようとしていく中学生の娘・雅美(まさみ)の話。

おもしろかったです〜

これはちっとも危うい話ではなく、、
6歳のころから父のいない環境で育ったために、 食事のときに音を立てたり氷を手で掴んで飲み物に入れたりする男の人のがさつさがどうしても生理的に無理… と悩むお話なんです。。身も蓋もないが、かわいい、、🗽

パパはいい人なのに
とってもやさしいのに…
“キタナイ”とか
“ヤダなあ”とか
思ってしまうんだもの
「グリーングラス序曲」電子版(ボニータコミックス) 120ページ 

初読のときにはそういう女の子もいるだろうなあくらいにしか思わなかったのですが、
読み直してみて、意外と肝になるのはこの場面だと感じました。

(父)
ムリにパパって
いわなくてもいいんだ
パパがきらいなら
きらいっていって
いいんだよ
きみが苦しくなるのはね…
思ってることをそのまま――
出せな…いから…

(雅美モノローグ)
そんな…!
ちがう!!
「グリーングラス序曲」電子版(ボニータコミックス) 116ページ 

「出せな…いから…」のセリフのとこで雅美は学校かばんを父の顔に投げつけ、次に続くモノローグを胸に浮かべながら走り去っていくのですが。。

父を人として好きということと、男の人特有のがさつな所作が受け入れがたいというのは雅美にとってまったく別のこと。
母に話を聞いてもらうまでは本人もこのことを心のなかでごっちゃにしていましたが、
①父を人として好き
②がさつな所作はきらい
このふたつを同時に相手(父本人にも)に理解してもらうには信頼関係が必要だった……ということではないでしょうか。。

母との会話で素直になれたのは母が①も②も同時に理解して受け止めてくれたから。
でも父は年頃の雅美の考えてることがまだよくわからず、①には自信が無いので②という感情をまず肯定して受け止めてあげなければ雅美のストレスはなくならない…と対処したつもりだったのです。
でも雅美からしたら自分の態度や症状から「雅美は父をきらいなのだ」と当人である父から決めつけられてしまったことはとてもショックなことだったのですよね。。①も本物の気持ちだから…。


このお話は雅美がトイレに新聞を持ち込んだ父を叱りつける場面で終わるのですが、そうした批判を気兼ねなく出来て、互いの好意や信頼関係を損なわない……そんな関係を雅美はいろいろ考え悩んだ末に作ることができたんだな…というすてきなお話でした。

解決策は思ったことを素直に言う。そしてそれを受け止めてくれる相手を信頼する。ただそれだけです。



「グリーングラス序曲」

高校三年生のお嬢様・翠が、受験勉強という名目で遊び仲間を連れて釧路の別荘へ避暑にいき、牧場の青年に出会ったり、釧路へ仕事で訪れていた許嫁・間宮さんと交流したりする話。

いちばんお嬢様っぽい話でした。。

釧路で出会う純朴な青年と、釧路に滞在していた許嫁とのあいだで翠は揺れるのですが、
青年のことを好きになって結局ふるのはちょっとかわいそうだと思いました……
青年の骨折は全治何ヶ月くらいだったのだろうか。。


青年に惹かれる理由は自分と同じ、純粋なゆえに傷つきやすい、子どものような心を彼が持っていたから。同病相憐れむといった関係性。
許嫁の間宮さんに対して素直になれない理由は、子供っぽい自分に引け目を感じているから。ついついひねくれた方法で間宮さんの気を引いてしまい、それもあって呆れられてしまっていると感じています。
とはいえ間宮さんも大人な男で、翠を突き放して叱りつつも見放さない、辛抱強さがあります。

ところで、、、間宮さんは翠を愛しているんだろうか。。
なぜ、愛しているんだろうか……
(面倒見よすぎないか?)

美人だから?
親の紹介だから?
親が権力者だから?
縁があったからなんとなく?

翠は両親の不仲による寂しさからひねくれてしまったので、愛で包まれさえすればまだまだ伸びしろのある素直なやさしい子です。。
間宮さんはその将来性を見込んでいるのかもしれませんな……(勝手すぎていてひねくれているひとつの見解)

また日を改めて素直な心で読みなおしたら、間宮さんが翠のどういうところを愛しているのか読み取れるのかもしれません。

コミックス柱に「北海道取材をした経緯」を長岡良子さんがコメントしていましたが、たしかに「グリーングラス序曲」は広々とした北海道の地の解放感がいろんなシーンから伝わってきてとてもよかった。。
草原とか、、湿地帯とか、、、風とか緑の匂いがしてきそうな、露たっぷりの自然を感じました…!



なんだか思ったより字数が多くなってしまった。。

この4篇では、とくに目的もなく大学進学をする若者がちょいちょい登場したので、『日本は(このとき)豊かになったんだなあ……』としみじみ感じました。

自分の頃は大学全入時代・大学の淘汰が始まっていましたが、この頃みたいな牧歌的な『何も目的ないけど大学いくわ』といった雰囲気とはちがい、大学行かないと就職できないから行くようなものでもう少し殺気立っていたと思います。。

何かしら仕事があるだろう、とか、なんとか食って生きていけるだろうと若年層が楽観できる世の中はいい世の中だと思います。いい世の中になってほしいなあ。

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