吉野家には人生がある。


夜勤明けの人間はささくれ立っている。

8時間ほど自問自答しながら仕事を終えて、会社や学校に向かう人々と太陽に背を向けて帰路に着く…。
そんな人間には、心の平穏というものが必要である。

それは、ささやかなものでいいのだ。
例えば、寝る前に一杯だけ飲む缶チューハイだとか、地域猫を振り向かせる為にあげるちゅ〜るでも良い。
僕の場合のそれは、帰り道にある吉野家の朝定食である。

吉野家に入ると、眠たそうな店員がいらっしゃいませと、お出迎えしてくれた。

1時間前の僕もこんな感じだったんだろうなと、勝手に親近感を覚えた事をあくびでごまかす。
いつも通りに注文、いつも通りに席に座ってしばらく待てば、いつも通りに朝定食は運ばれてきた。

白ご飯、味噌汁にメインの牛肉と玉ねぎを煮込んだもの…所謂牛皿と備え付けの生卵。
こいつらをいつも通りの手順で食べれば、僕の心の平穏は保たれる。

夜勤という精神的拷問を受けてささくれ立ってたとしても飯を食えば、大抵機嫌が良くなるものだ。

最初はご飯、牛皿、味噌汁の順に食べる。
所謂、三角食べという奴だ。
ご飯を一口食べたら、牛肉と玉ねぎを一切れずつ食べる、
ご飯の上に牛肉と玉ねぎが乗ってる状態でも良いが別々に食べても良い。

30回程噛んでご飯と牛肉と玉ねぎを飲み込んだら、次は味噌汁を一口飲む。
インスタント味噌汁特有のそっけない感じが口の中に広がる。

手作り味噌汁のあったかみも良いが、インスタント味噌汁のそっけなさもまた良かったりする。

三角食べを繰り返していくうちに牛皿、味噌汁は食べ(飲み)終わり、ご飯は半分だけ残ってしまったが問題なし、わざと半分残したのだ。

諸君はお気づきだろうか?僕はまだ、生卵に手をつけてないことに。

生卵にヒビを入れ、卵白と卵黄をご飯の上に乗せる。そして醤油の代わりに牛皿に残っているつゆもご飯に投入し、かき混ぜて卵かけご飯にしたら、一気にかきこむ。

これが、この時間こそが、僕の心の平穏。

吉野家には人生がある。


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