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商業で打ち切りになった小説を、同人誌で再開してみる。

初めまして、もしくはこんにちは。
作家の栗原ちひろと申します。
少女向けのライトノベルでデビューし、そのあとキャラクター文芸というジャンルに移り、おそらく今年が商業作家17年生です。
この度、商業で打ち切りになった小説を、同人誌で再開します。

打ち切りだけが人生だ。

小説に限らず、シリーズ化した創作物のほとんどは、出資側(出版社など)の「そろそろ終わりましょうか」もしくは「終わります」という宣言を持っておしまいになります。作者が止めたいというのに「いやいや先生、もう少し」なんて袖を引かれるようなことは滅多にあるもんじゃない。
特に私のような大ヒットがない作家だと、ありとあらゆる物語は打ち切られた結果endマークがついています。それはもう当然のことなのです。唐突に断ち切られるのが嫌だったら、そもそも商業出版なんかに手を出すなという話なのです。ええもう、慣れっこですとも。いいんだよそれで。

が。

そんな私にも、唯一、心残りの消えない「打ち切り」がありました。
それが、早すぎるレーベル消滅によって打ち切られた今作、「廃王国の六使徒」シリーズでした。

同人誌版「廃王国の六使徒1」表紙

出版社側の事情で唐突にレーベルが消失。結果として打ち切られたこのシリーズは、他の打ち切りシリーズとは違い、「どのレーベルに持って行っても構いません」と言われていました。むしろ、どこかで復刊してください、という勢いでした。そのせいもあったのかもしれないし、とにかくレーベル消失が唐突だったからかもしれないし、作品自体も思い入れのあるものだったからかもしれない。おそらくはその全部だったのでしょう。
私の気持ちは宙ぶらりんになり、このままこの話を捨てようという気にはなれませんでした。
最初に出版してくれた出版社さんもああ言っているし、どうにか復刊したい。きっと、諦めなければどこかでできるだろう。
そのときは、その程度に考えていたのです。

「新作が売れたら復刊」という囁き。

それからも、私は作家として活動を続けていました。
そして、隙を見ては言いました。

「できれば、六使徒を復刊したいのですが」
返ってくる言葉は決まっていました。
「新作が売れたら、是非!」

ごもっとも。ごもっともなのです。
そもそも復刊というは売れづらいものです。一度世に出て、欲しい人は買ってしまったあとなのだから当然です。復刊で出版社がちゃんと儲けるには、私がもっともっとめちゃくちゃに売れる作家にならなければなりません。
少なくとも出版社を説得できるくらいの、売れる新作を出さなくては。
数字、数字、数字が全てです。
私は「頑張ります!」と元気に返事をした……かどうかは忘れましたが、とにかく書きました。書き続けました。そして、私はそこまで売れませんでした。みんなが納得するほどには。強気の交渉を出来るほどには。とにかく、売れなかったわけなのです。

そんなふがいない作家生活の中でも、復刊の話がなかったわけではありません。以下が「六使徒」復刊交渉の戦歴であります。

「新作が売れたら」→そこまで売れなくて没
「番外編を新作として書いて売れたら」→レーベルが発表前につぶれる 
「新作を書く&イラストレーターさんを変えてなら」→イラストが変わったら意味がないのでお断り
「これは出せないけどなろう系なら相談に乗ります」→そういう話ではない

いちいちへこみつつ、私はカササギ殺人事件というミステリーを読みました。そこにはこう書いてありました。

「作家は(別の作風で)売れたって、本当に書きたいものを書けるようにはならないんだ」(意訳)

ああ……ああ、うん。
そうだ。結局そうだよな。
今、六使徒のような小説で大ヒットを出すのはほぼ無理だし、他のジャンルで大売れしても、この小説が世に出る可能性は限りなく低いんだ。つまりこのままだと一生復刊なんかしないし、復刊するとしたら今の時代に合わせて大改造が行われるんだ。それはまったく自分の望む復刊じゃないんだ、と。

そんなこんなで、私は今作の復刊を諦めました。

このお話が響く舞台はどこなのか。

商業での復刊を諦めて、私の心残りが成仏したかというと……正直、まあまあしたのです。したのですが、だからといってこの話自体を諦めようとは思いませんでした。
なぜかというと、この話はずっと静かなレスポンスを生んでいたからです。
ひっそりと「小説家になろう」や「カクヨム」などの小説投稿サイトに載せたこの話を見て、わざわざ感想を言ってくれるひとが五月雨式に現れました。この話には需要がある。待っていてくれるひとが尽きない。おそらくこの物語の寿命はまだ尽きていないのです。

ならば、どこで生かすのかを考えなくてはなりません。
小説投稿サイトでレスポンスがあったからといって、「六使徒」は小説投稿ではありませんでした。投稿サイトのコールアンドレスポンスは、もっとスパンが短いものなのです。つまり、2000~3000字程度の一話ごとに作者が「面白いだろ!?」というネタを投げ、読者は「面白い!!」とコメントを書いたり、ポイントを入れたりする。六使徒はもっとゆったりとしたテンポで「面白い」を配置した話ですし、実際Webでそんなにこまめにレスポンスを稼げたわけでもありません。
ただ、ぽーんと置いておいても、わざわざ同人誌の即売会まで来て感想を言ってくれる方が現れる。ということは、多分、同人誌なのです。この話は多分、同人誌に向いている。

というわけで、同人誌のシリーズとしてこの話を復活させる覚悟を決めたのです。まずは復刊。そして、さらに続けていく。さらに会社の独自コンテンツとして、小説以外もいろいろな展開にチャレンジしていきます。関わるひとたちにもきちんとお金を出して、どこまでいけるか。
まだまだ五里霧中ですが、この試み、気が向いたら見物してやってください。

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