年に一度の公民館の掃除【音声と文章】
山田ゆり
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のり子の集落は十数の班に分かれていて、毎月どこかの班が公民館の掃除をすることになっている。
そして今月はのり子の地域の班が当番だった。
のり子は気乗りしなかったが公民館に車を飛ばした。
今日は誰が来るだろうか。のり子の班は13軒あるが、公民館の掃除に来る人は毎年、3~4人しか集まらない。
それはいつどこの班が当番なのかの周知不足から来るとのり子は感じている。
年末に来年の掃除当番表が回覧板で回って来るだけだからカレンダーに書き込んでおかない限りは忘れられているのだ。
しかし、今年は数週間前の回覧板に「〇月〇日9時から公民館の掃除当番です」というお知らせが回ってきた。
これまで掃除に来た人はのり子よりも10~20歳年上のおば様2人だけだった。
掃除の開始時間はそれぞれで決めて良いことになっているらしく、のり子の班はいつもおば様達が決めていて朝5時から始まっていた。
気乗りしない理由は、掃除中のおば様達との会話にある。
大体は、そこにいない人の悪口を言い合っている。
のり子はそんなことどうでもいいと思っているが、時々話しかけられ知らないふりをすることができない。
「そうなんですか~。」
「へー、知りませんでした~。」
そんな言葉でなるべく受け流すようにしている。
気を付けないとのり子が〇〇さんの悪口を言ったということになりかねないからだ。
だから、公民館の掃除は、掃除自体が嫌なのではなく、あのメンバーにまた会わなければいけないのかと思うと行きたくなくなる。
しかも、のり子の班は13軒あるのに、他の人たちは掃除があることを知っているのか知らないのか集まらない。
今年もそんなものかなと思って行ってみた。
集合時間は9:00。早朝ではないのが画期的だと感じた。
のり子は10分前に着いたが、既にお二人が箒でホールを履いていた。
その中に「園長先生」がいらっしゃった。
そうだ、今年の班長は園長先生のお宅だった。
園長先生と言っても今は定年退職された方で、姉の同級生であり、のり子の娘3人がとてもお世話になった方でもある。
回覧板に今日の月日と時間を入れたのは班長の園長先生だったのかもしれない。
のり子は園長先生に挨拶をし、「何をしましょうか?」とお聞きした。
「今、ホールの方は掃いていて、トイレがまだです。」と言われたので、のり子はトイレ掃除をすることになった。
公民館の館内は寒々としていて、全て水下げされていた。
時々しか使わない、しかも築50年以上の木造の公民館である。
冬期間は水下げをしないと水道管が凍ってしまう。
園長先生は「水、どうやって出すのかしら~。」とおっしゃった。
のり子は旧宅に住んでいた頃は毎晩、台所の水下げをしていたのでその手のことは知っている。
のり子は数か所ある水下げ栓をキュッとねじって水を出した。そして、雑巾は水で洗うしかないのに気が付き、箒やモップの人がちょっと羨ましかった。
でも、自分が箒で、他の人が雑巾を使っていたらのり子はその方に、申し訳ないと思ってしまうタイプだ。
それだったら自分が雑巾の方がいい。
のり子はそう納得してトイレ掃除を始めた。
「おはようございます~」
「おはようございます!」
玄関の方で園長先生と誰かが会話をしていた。メンバーが増えたのだ。
少ししてまた誰かの朝の挨拶が聞こえてきた。
のり子は便器内を掃除用具でこすり、便器と窓のさんと床を雑巾で拭いた。
バケツに入れた冷水で雑巾を洗い、それを何度か繰り返した。
真冬の水は心臓にチクリと来る。
指はみるみる赤くなっていった。
「〇〇ちゃん(娘)のお母さん、ごめんね。トイレ掃除、全部やってもらってぇ~」園長先生が声を掛けてきた。
さすがこれまで人の上に立っていた方である。彼女は時々皆さんの動きを見て、それぞれに声を掛けていた。
のり子はそんな彼女を今でも尊敬している。
掃除がひと通り終わり、最後にトイレの水下げをみんなで確認して、帰ることになった。
その時初めて、全員で6人集まっていたのをのり子は知った。
のり子の二女と幼馴染の〇〇ちゃんのおかあさんと、お隣の奥様と園長先生とのり子。
あと、白髪が印象のご夫婦がいらしていた。男性が掃除に参加するなんて、素敵なご夫婦だとのり子は思った。
全部で6人。
昨年までのあのおば様達はいらっしゃらなかったし、そのお宅の若い方もいらっしゃらなかった。
公民館の掃除で世代交代を感じた。
僅か30分くらいの時間だったが、初めてのメンバーで同じ目的のために行動したことは、のり子の平凡な日常にとっては、うどんにかけた七味のような役割を果たしたような気がした。
これまで嫌々でやっていた公民館の掃除だったが、次回が楽しみと思えた。
公民館の掃除に行くのがなんとなく嫌い
のり子はずっとそう思っていた。
しかし、嫌いな理由を辿って行ったら
公民館の掃除が嫌いなのではなく
集まっていたメンバーに理由があったのが分かった。
嫌いな理由を辿っていくと「嫌い」が減っていくかもしれない。
そして今月はのり子の地域の班が当番だった。
のり子は気乗りしなかったが公民館に車を飛ばした。
今日は誰が来るだろうか。のり子の班は13軒あるが、公民館の掃除に来る人は毎年、3~4人しか集まらない。
それはいつどこの班が当番なのかの周知不足から来るとのり子は感じている。
年末に来年の掃除当番表が回覧板で回って来るだけだからカレンダーに書き込んでおかない限りは忘れられているのだ。
しかし、今年は数週間前の回覧板に「〇月〇日9時から公民館の掃除当番です」というお知らせが回ってきた。
これまで掃除に来た人はのり子よりも10~20歳年上のおば様2人だけだった。
掃除の開始時間はそれぞれで決めて良いことになっているらしく、のり子の班はいつもおば様達が決めていて朝5時から始まっていた。
気乗りしない理由は、掃除中のおば様達との会話にある。
大体は、そこにいない人の悪口を言い合っている。
のり子はそんなことどうでもいいと思っているが、時々話しかけられ知らないふりをすることができない。
「そうなんですか~。」
「へー、知りませんでした~。」
そんな言葉でなるべく受け流すようにしている。
気を付けないとのり子が〇〇さんの悪口を言ったということになりかねないからだ。
だから、公民館の掃除は、掃除自体が嫌なのではなく、あのメンバーにまた会わなければいけないのかと思うと行きたくなくなる。
しかも、のり子の班は13軒あるのに、他の人たちは掃除があることを知っているのか知らないのか集まらない。
今年もそんなものかなと思って行ってみた。
集合時間は9:00。早朝ではないのが画期的だと感じた。
のり子は10分前に着いたが、既にお二人が箒でホールを履いていた。
その中に「園長先生」がいらっしゃった。
そうだ、今年の班長は園長先生のお宅だった。
園長先生と言っても今は定年退職された方で、姉の同級生であり、のり子の娘3人がとてもお世話になった方でもある。
回覧板に今日の月日と時間を入れたのは班長の園長先生だったのかもしれない。
のり子は園長先生に挨拶をし、「何をしましょうか?」とお聞きした。
「今、ホールの方は掃いていて、トイレがまだです。」と言われたので、のり子はトイレ掃除をすることになった。
公民館の館内は寒々としていて、全て水下げされていた。
時々しか使わない、しかも築50年以上の木造の公民館である。
冬期間は水下げをしないと水道管が凍ってしまう。
園長先生は「水、どうやって出すのかしら~。」とおっしゃった。
のり子は旧宅に住んでいた頃は毎晩、台所の水下げをしていたのでその手のことは知っている。
のり子は数か所ある水下げ栓をキュッとねじって水を出した。そして、雑巾は水で洗うしかないのに気が付き、箒やモップの人がちょっと羨ましかった。
でも、自分が箒で、他の人が雑巾を使っていたらのり子はその方に、申し訳ないと思ってしまうタイプだ。
それだったら自分が雑巾の方がいい。
のり子はそう納得してトイレ掃除を始めた。
「おはようございます~」
「おはようございます!」
玄関の方で園長先生と誰かが会話をしていた。メンバーが増えたのだ。
少ししてまた誰かの朝の挨拶が聞こえてきた。
のり子は便器内を掃除用具でこすり、便器と窓のさんと床を雑巾で拭いた。
バケツに入れた冷水で雑巾を洗い、それを何度か繰り返した。
真冬の水は心臓にチクリと来る。
指はみるみる赤くなっていった。
「〇〇ちゃん(娘)のお母さん、ごめんね。トイレ掃除、全部やってもらってぇ~」園長先生が声を掛けてきた。
さすがこれまで人の上に立っていた方である。彼女は時々皆さんの動きを見て、それぞれに声を掛けていた。
のり子はそんな彼女を今でも尊敬している。
掃除がひと通り終わり、最後にトイレの水下げをみんなで確認して、帰ることになった。
その時初めて、全員で6人集まっていたのをのり子は知った。
のり子の二女と幼馴染の〇〇ちゃんのおかあさんと、お隣の奥様と園長先生とのり子。
あと、白髪が印象のご夫婦がいらしていた。男性が掃除に参加するなんて、素敵なご夫婦だとのり子は思った。
全部で6人。
昨年までのあのおば様達はいらっしゃらなかったし、そのお宅の若い方もいらっしゃらなかった。
公民館の掃除で世代交代を感じた。
僅か30分くらいの時間だったが、初めてのメンバーで同じ目的のために行動したことは、のり子の平凡な日常にとっては、うどんにかけた七味のような役割を果たしたような気がした。
これまで嫌々でやっていた公民館の掃除だったが、次回が楽しみと思えた。
公民館の掃除に行くのがなんとなく嫌い
のり子はずっとそう思っていた。
しかし、嫌いな理由を辿って行ったら
公民館の掃除が嫌いなのではなく
集まっていたメンバーに理由があったのが分かった。
嫌いな理由を辿っていくと「嫌い」が減っていくかもしれない。
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