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動く鞄の中を見られる時(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1639日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも数分で楽しめます。




おはようございます。
山田ゆりです。

今回は
動く鞄の中を見られる時(ショートショート)
をお伝えいたします。



よし!終わった!

のり子は書類の束を事務用保存箱へ入れ終えた。

今月の振替伝票のまとめが終わった。
各科目ごとの内訳書もできた。
あとは会計事務所へこれをお届けすればいいだけ。


会計事務所へ書類をお届けする仕事はなるべくのり子はしないことにしている。

仕事とはその人でなければいけないことはするが、誰でもできることは他の方にお任せする方がいい。


のり子はパートのA子さんに話しかけた。
「A子さん、会計事務所へ出かけてほしいんだけれど、今、大丈夫?」

A子さんは快く承諾してくれた。
あとは車をどうするかだ。


のり子の会社は勤務中に出かける時は社用車を使うことと決められている。個人の車を使うことは厳禁なのだ。

その決まりに慣れなかった頃は不便さも感じたが、もしも事故が起こった時の補償問題の関係で、そうせざるをえないのだ。



営業員にはそれぞれ専用の車があてがわれている。
事務係にも事務用の軽自動車が1台ある。

しかし、製造部門でどうしても車が足りず本社の事務用車両は昨日から少し離れた工場に貸し出し中なのだ。
これは良くあることだった。


と言うことは、本社に今いる営業の方で当分出かけない人を見つけて、その方の営業車をお借りするしかない。

誰がいらっしゃるかな。


のり子は営業室に入った。
所長とタケさんがいた。
どちらも話しやすい方でよかった。

これまで何度かのり子が車を借りていたので話しやすかったからのり子は同年代のタケさんに話しかけた。


「タケさん、40分位、お車をお借りしたいのですが、大丈夫でしょうか。」

「うん、大丈夫だよ。」とすぐ答えてくれ机の端に置いてあった車のキーに手を伸ばした。

ここまではいつものパターンだった。
のり子は一仕事が終わり解放感に浸っていた。だから、気持ちにも余裕があった。

のり子はタケさんをちょっと試したくなった。


「行先は会計事務所です。で、車を運転するのはA子さんです」

するとタケさんの手が止まった。
そして、素直なタケさんは
「5分位、ちょっと待ってくれないかな。車の中、散らかってるから」
少しはにかみながらおっしゃってタケさんは会社を出て車へ向かった。

やっぱり^^

どういう事かと言うと
いつもなら、「車貸して」「はいよ!」とすぐに鍵を貸してくださる。

タケさんの車の中は、いつも食べたカラをスーパーの袋に入れて助手席の足元に置いてあった。袋に一応入れてあるから散乱はしていないのだが、それでも綺麗とはお世辞にも言えない状態である。


営業の方々の車は大体はそうである。
会社の車ではあるが、いつも乗る人は同じだから自分の動く鞄のようなものである。

その車を誰かに貸すということは、自分のカバンの中身を見せることと同等だ。


私が車を借りたいと言ったらすぐに鍵を貸してくださる。それだけ気が置けないということだと良い方に解釈する。


だが、社内で一番清楚で若くて美しいA子さんが車に乗ると聞いたタケさんは、自分の車の中を片付けに行った。



5分はとうに過ぎている。
でも、まだ戻って来ない。

それを見た同僚のB子さんは
「私たちが車を借りる時は何でもないのに、A子さんが乗るって言ったら片付けるんだから。これってどうよ(笑)」

すると
「私が車を借りた時、片付けられたこと一度もない。ジェラシーだわぁ(笑)」
とC子さんが追随した。

「私も」「私も」



事務所内は笑いで温かくなった。
結局、10分位してタケさんが戻ってきた。

その後も一言二言、みんなにいじられながらタケさんは
「ちょっと散らかっているけど」とおっしゃって、A子さんに車のキーを渡した。



実は先日もそうだったのである。
今回と同じパターンで、営業のユウキさんに車を貸してほしいとのり子は頼んだ。
「うん、いいよ、いいよ」とふたつ返事ですぐにキーをのり子に渡そうとした。


のり子はキーを受け取る前に、運転するのはA子さんだと言った。

すると、ユウキさんは
「あ、僕の車の中、ちょっと散らかってるから片付けてくる」
そうおっしゃって片付けに行ったのだ。

その時のユウキさんの顔は少し赤らんでいた。



自分のカバンと同じくらい個人的な空間の車。
それを人に貸す時の男性陣の反応を見るのは楽しいのである。





今回は
動く鞄の中を見られる時(ショートショート)
をお伝えいたしました。

本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。 

ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。

山田ゆりでした。








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