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ショートショート

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「こうだったらいいな」「ああなりたいなぁ」「もしもこうだったら怖いなぁ」たくさんの「もしも」の世界です。
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指先の会話(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1689日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 指先の会話(ショートショート) をお伝えいたします。 「じゃ、やるか」 私は6畳くらいの玄関のアスファルト敷に新聞紙をずらして広げ、あなたは台所から小さい椅子を持って来てその上に置いた。 あなたは首の周りにぐるりとケープを巻く。 私は電動かみそりを延長コードに接続する。 「えーっと、今日はどうする?」 私はなぜか照れて、どうでも良いことを言い始める。 中くらいの刈り上がりになるカセットをセットして全体を切ってゆく。 前髪は少し長めに残るようにしている。 次に一番短めの刈りあがりになるカセットに付け替えた。 これ以降は少し注意が必要だから自然と無口になる。 私はあなたの後頭部のあたりを軽く押す。 私の掌からあなたへ信号が送られる。 あなたは黙って下を向く。 刈り上げていくと小さな髪の毛が私の手にまとわりつく。 それは、普段、幼い娘たちのお世話で夫にまで手が回らない私への感情表現のように感じた。 私だってもっとあなたに触れていたいのよ。と、指先からあなたに発信する。 前回よりもうしろを綺麗に刈ることができた。 次は耳の周り。 私はあなたの耳を人差し指と中指で内側に畳んでその周りを刈ってゆく。刈る方向に沿って、抑える指先を微妙に動かす。 顔を近づけるとたばこのツーンとした匂いがした。私はその匂いを打ち消すようにゴクリと唾をのんだ。 あなたは目を閉じじっとしている。 何を考えているの?言わなくてもなんとなく分かる気がする。 終わりに向かって無言のひと時が続く。 ジリジリと器械の音だけが玄関内に響く。 話をたくさんしている時もいいけれど、無言のひと時は、言わない分、それ以上に濃厚な会話をしているような気がする。 「これでどう?」 私は靴箱の縦長の鏡があなたに見えるように扉を開いた。 髪が短いあなたにキュンとする。 私は思わず後ろからあなたの頬に掌をあてた。 あなたは私の腕を優しく握る。 「うん」 数秒間の沈黙の後、あなたはそれだけ言って椅子を持ち上げた。 私は箒で椅子についた髪の毛を払いのける。 そして器械の後片付けをして箱にしまう。 あなたは新聞紙を畳んでゴミ袋に入れる。 玄関は何もなかったように元に戻った。 初めて電動かみそりをあなたが買ってきた時は戸惑いばかりだった。 うしろが見えないあなたは気が付いていなかったけれど、刈りあがりがいびつになり、いかにも自宅で刈ったのが分かるできだった。 毎回、ヒヤリとしならがあなたの髪を切っていった。 そして何回もするようになり少しずつ慣れていったのだ。 黙ってされるままになっているあなたが愛おしいと感じる。 私が添える指先であなたに気持ちを伝える。 目をつむるあなたの閉じた瞼からあなたの言葉を受け取る。 あなたの髪を切っている時は、無言の会話が続くひと時。 あとでもっとその続きを聞かせて。 今回は 指先の会話(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

身に覚えのない自動引き落とし(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1688日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 身に覚えのない自動引き落とし(ショートショート) をお伝えいたします。 昭和の時代、ひとりの若者が高卒で、ある町工場に就職した。 特別秀でたものがない、平均的な若者だった。 町工場の親父さん(社長)はとても親身になってくれる方だった。 世の中の事を何も知らない若者に対して初めての銀行口座開設は親父さんがやってくれた。 若者は親父さんの言うとおりに署名し、届出印は親父さんが用意してくれた。そしてキャッシュカードを渡された。 「これでお金が必要な時に下ろせばいい。通帳もあるが記帳しなくてもだいじょうぶだから。」 世間知らずの若者は親父さんからキャッシュカードを受け取り、その後はお金がいり用な時に少しだけお金をおろして使っていた。 通帳と印鑑は渡されなかったが世間知らずの若者はそれを不自然だとは思わなかった。 一人っ子で母親と二人暮らしで他に身寄りのない若者は親父さんから仕事のことは勿論、人間として生き方・考え方をたくさん学んだ。 親父さんのおっしゃる世界は若者にとって全て正義だった。 だから、身の回りに起こることは全て親父さんに話をしていつも相談に乗っていただいていた。 若者は周りの人よりも呑み込みが遅い方だったがそれでも数年後には一人前に仕事ができるようになった。 ある日、彼は自宅の建て替えを余儀なくされた。 住んでいる土地が市の都市計画にかかり、立ち退かなければいけなくなったのだ。 他の土地に家を建てる分以上のお金が市から入ってくることになった。 彼はすぐに親父さんに相談し、親父さんはとても喜んでくれた。 そして、いままでの給与振込の通帳を解約して、新しい通帳を親父さんが作ってくれキャッシュカードを彼に渡した。 定年間近になった彼は、ある件で、昭和の時代の通帳の出し入れを確認しなければいけないことになった。 何でも相談していた親父さんは数年前に会社を去られ、彼の知らない場所で暮らしている。 だから今は何でも自分で考えて生きていかなければいけない。 ずっと通帳記帳をしたことが無い彼は金融機関に相談に行った。 1,100円の手数料を支払い、1時間以上待たされて当時の通帳の動きを知ることができた。 彼の目的は果たされた。 しかし、よく見ると、当時、自分の知らない引き出しがたくさんあることに気づいた。 〇〇リースとか、〇〇ファイナンスとか。 そして、マイナス残高になることが多く、給与振込でプラスの残高になるのだが毎月のリースやファイナンスでまたすぐにマイナス残高になっていた。 彼はその引き落としに全く記憶がない。 ずっと通帳記帳したことがなかったから、彼はそれには全く気が付かなかった。 親父さんはいい人だったが、競馬・競輪・パチンコに興味がある人だった。 そのことで、時々若者からお金を借りることがあった。 さて、自分に身に覚えのないリースやファイナンスという引き落としはいったい何だったんだろうか。 今回は 身に覚えのない自動引き落とし(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

パワハラ(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1684日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は パワハラ(ショートショート) をお伝えいたします。 人は絶対的権力を手にすると自分の行いが見えなくなる。 何をしても許される。 そう勘違いをしている。 自分が気に入らない人には徹底的に塩対応する。 正常な判断ができないのかと思うとそうではない。 するべきところで的確な判断を下している。 それなのに、一部の人に対しては憎んでいるとしか思えないほどの対応をする。 私が同じ立場になることはありえないが もしもそうなったら 私はそんな人には絶対ならない。 今回は パワハラ(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

言えばいいのに(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1681日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 言えばいいのに(ショートショート) をお伝えいたします。 けい子とヒロシは黙々と食べていた。 「鮭、焼きすぎたかな?」 けい子は鮭のゴツゴツを口の中に感じながらそう思った。 「この卵焼きも美味しい。けい子の料理は最高だ」 しっとりした卵焼きを食べながらヒロシは心の中で思った。 「ヒロシはいつも食事の時は黙っている。まずいのかなぁ。 そうしてみればこの卵焼きは少ししょっぱいかもしれない。」 けい子は心の中でそう思い、残念な卵焼きの存在を打ち消すように噛みしめた。 「う~ん。この味噌汁も昆布の出汁がきいてえのきと大根の組み合わせは最高。けい子の料理は世界一だ。」 そう思いながらヒロシは味噌汁の香りを楽しんだ。 「味噌汁、イマイチかもしれない。どうしても昆布を煮すぎてしまうのよね。大根は拍子切りよりもさいの目の方が良かったかな。」 けい子は心の中でそう言って味噌汁を吸った。 食事が終わり、ヒロシはごちそうさまも言わずに席を立った。 何も言わないのはそう育ってきたからであり、食事に対しての不満があるのではない。 けい子の食事はいつも美味しい。 ヒロシは歯磨きをして鏡の前でヘアスタイルを整え、家を出ていった。 ヒロシは「食事中は話をするものではない」と親から厳しく躾けられて育った。特に厳格な父にはよく注意されたものだ。 だから食事中に黙って食べるのはヒロシにとっては当たり前のことだった。 ヒロシは胃のあたりを軽くさすりながら 「今朝の料理もおいしかったなぁ」と満足しながら駅に向かった。 ヒロシを見送ったけい子は 「ヒロシの皿や茶碗は綺麗に全て食べられているが、美味しくなかったものを無理やり食べたのかもしれない。」 そう思った。 けい子は自分の料理を喜んで食べてもらえないことに毎日自信を失っている。 どこがいけないのだろうか。 ヒロシに聞いてみたいが、そんなこと聞かれても、と言われそうで聞けない。 私たち、いつからこうなってしまったんだろう。 付き合っていた頃は何でも話していたのに。 美味しいものを食べた時「美味しいね!」って二人で目を見開いていたのに。 この人とならうまくやっていける、そう思って結婚したのに。 毎回の食事の時、ヒロシはいつも無口になる。 やっぱり私の料理が口にあわないのだろうか。 けい子はワイワイと話しながらご飯を食べる家庭で育った。 特に博学な父はけい子達にいろいろな考え方を食事中に語ってくれる人だった。 普段けい子が読むこともない孔子や孟子の話も聞くことができた。 食事は楽しむものだとけい子は感じながら育ってきた。 会話のない食事の時間はけい子にとって息が詰まる時間だった。 特に美味しくもない料理を毎日食べさせられるヒロシは、もしかして地獄の時間なのかもしれない。 優しさゆえにそれをけい子に言えないのかもしれない。 優しいヒロシをこれ以上苦しめていいのか。 私から身を引いた方がいいのではないか。 けい子は引き出しに忍ばせておいたその用紙を取り出し、しばらく眺めていたが引き出しの奥にそれをまたしまった。 今回は 言えばいいのに(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

たまたま交差しただけのふたり(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1609日目(4年余り) ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は たまたま交差しただけのふたり(ショートショート) をお伝えいたします。 休憩室のドアがカチャリと音を立てた。 その控えめな音で奥様が中を伺っているのが感じられる。 息をしてはいけないような気がして、数秒間、のり子は息を止めていた。 となりの京子も動かない。きっと同じ気持ちかも知れない。 奥様がじっとこちらを見ている空気はどんどん薄くなっていくようで、息苦しさを感じた。 やがてカチャリとまた音がしてドアが閉まった。 ここも潮時だな。 のり子はそう感じた。 昨日のことを思い出した。 昨日、仕事を開始してまもなく、部長のAさんが会社にお見えになった。 いつもは現場に直行で、会社にいらっしゃるのは夕方が常だったから、朝から本社にいらっしゃるのは珍しい事だ。 「俺は社長のいうとおりにしただけだ。 それなのになんで俺だけが罪に問われるんだ!」 ものすごい剣幕で入り口に一番近いのり子に向かって部長がおっしゃった。 のり子は何のことか全く見当がつかなかった。 部長の頭には沸騰したやかんのふたが、ガタガタ揺れているのが見えるようだった。 「まぁまぁまぁ、Aさん、落ち着いて。中に入ってお茶でもどう?」 着ている事務服のボタンがはち切れそうな奥様がAさんに向かって話した。 「お前たちはみんなして俺だけを悪者にしようとしているんだろう。その手には乗らない!」 いうだけ言って部長は出ていかれた。 同じ頃に入社した京子からメモを渡された。今のことについて聞きもしないのにこっそり教えてくれた。 どうやら会社が産業廃棄物を山に捨てたらしい。そしてそれが県に見つかり、その実行者がAさんということになったそうだ。 いつも地元の新聞は一定の場所に置いてあるのに今朝は置いていないからどうしたのかなとのり子は思っていたが、どうやら第一面にでかでかと載っているらしい。 きっと奥様が気を利かして寄せたのだろう。 この会社、やっぱり辞めよう のり子はそう決意した。 今回の産廃の件以前に、この会社は自分には合わないと感じていた。 一番の理由は、家から遠い事。 のり子は郊外に住んでいるが、のり子がこの会社まで来るのに、街中を通り抜け反対側の郊外にこの会社がある。 だから車で40分もかかる。 しかも朝8時始業だから7時には家を出なければいけなかった。 雪が積もる冬には更に早い時間になる。 まだ保育園児の子どもたちを起こして着替えさせ、ご飯を食べさせて歯磨きの仕上げ磨きをしてあげて、後は行くだけの状態にして夫に託す。 夫はのり子より1時間後に自分の身支度をして子どもたちを保育園に預けて会社に向かっていた。 就職難のこの時期、贅沢は言ってられないと思って何とか我慢してきたが、やはり、せめてあと30分遅く家を出られたらいいなと思い始めていた。 でも、せっかく入った会社だ。地元でも有名な老舗で、親戚の集まりがあった時、勤務先を聞かれお答えしたら「いいところにお勤めですね」と言われ、まんざらでもなかった。 給料は安いが、でも、承認欲求は満たされていた。 しかし、産廃の違反に寄り、会社は臆の単位の罰金を払うことになった。 のり子は退職願を書き、奥様に「お話があるのですが」と声を掛けた。 奥様は休憩室にのり子を促し、話を聞いた。 のり子はあくまで自分の都合で辞めたいと貫き通した。 子どもたちがまだ小さくて、朝、早い時間に出てくるのは、やってみてとても大変だと分かったので、辞めさせてほしいと告げた。 「辞めてほしいのはあなたじゃないのよ。」 奥様はのり子を引き留めた。 しかし、のり子の決心は固かった。 30分位して、のり子の退職願はやっと奥様に受け取っていただけた。 休憩室から戻ってきたら、京子が神妙な顔をして奥様に声をかけ、二人は休憩室へと消えた。 そうか、京子も辞めようと思っていたのか。 一度に二人も辞めるなんてことになったら、奥様、困るだろうなぁ。 そんなことを考えていたら、5分もしないで京子は戻ってきた。 何か機嫌が良くない。 「どうしたの?何かあったの?」 「うん、退職したいと話たら、すぐに理由も聞かずに退職願を受け取られた。全然引き留められなくって、頭にきた。」 そうか、奥様はそう考えていたのかとのり子は思った。 そして二人は同時期に会社を辞めた。 その後その会社は廃業した。 地元でも指折りの建設会社だったのに。 ある日、街中で偶然、京子に出会った。 京子は大きな目を更に大きくしてのり子に嬉しそうに話しかけてきた。 「私、今、職業訓練でPCを習っているの。 のり子さんが画面を見ないで入力している姿に憧れて、私もそうなりたいって思ったから。ブラインドタッチ、やっとできるようになったのよ。」 京子はPCを入力する格好をしながら嬉しそうに話していた。 良かった。 彼女は新しい目標を持って生きている。 のり子はあの後すぐに清掃会社の事務に就いていた。 長い人生の途中で、たまたま交差した二人。 そしてまた、それぞれ、別の方向に向かって歩き出した。 お互い頑張ろうね。 今回は たまたま交差しただけのふたり(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

心のキーマン(ショートショート)「音声と文章」

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1613日目(4年余り) ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 心のキーマン(ショートショート) をお伝えいたします。 ビジネススーツにビジネスバックを持ったリョウコは会社の玄関のドアをノックした。 玄関を開けるとそこはワンフロアになっていた。 「本日、14時からの予定で面接に参りました〇〇と申します。」 リョウコは口角をあげいつもよりワントーン高めの声で相手に告げた。 受付の方に促されて椅子の方を見たら数人のリクルート姿が見えた。 ああ、私の前にまだこんなにいるのか。 皆さん、なんかできそうな感じ。 私大丈夫かな。 いや、大丈夫。 気張らずに、背伸びせず、誠実にお答えすればきっと私の良さは伝わるはず。 勧められた椅子に近づいた時、その2つ前の椅子に座っていた人が顔を上げた。 「あっ^^」 ミチヨだった。 そうだよな。 基本給が少し高くて職務内容からしてミチヨが応募してもおかしく無いよなとリョウコは納得した。 ミチヨはニッと笑い、リョウコも笑い返した。でも場所が場所だから何も話さなかった。 どうやら面接は予定よりかなり遅く進んでいるようだった。 ミチヨの番になり彼女はリョウコに軽く会釈をして面接室へ入って行った。 30分後、面接が終わったミチヨはニコニコしながらリョウコに小さく手を振りながら会社を出ていった。 リョウコは彼女にここは取られたなと思った。 仕事内容からして彼女は全てできる。だって前職の会計事務所の先輩だから。 ミチヨはご両親の介護のために会社を辞められた。 会社には特に不満はなかったがもう少し早く帰宅できる会社に勤めたいと言っていた。 それは良くわかる。 リョウコも同じ理由で最近、会社を辞めたから。 この辺の求人は一般事務の募集がほとんで、リョウコはそれが物足りなかった。 そして、たまたま見つけたこの求人は 一般的な事務から決算までする。 給料計算や年末調整もする。 社会保険などの手続きや建設業の各申請もする。 仕事内容が全てできる。 ワクワクしかない魅力的な求人だった。 だから、現在、一般事務として勤めているがこの会社に履歴書を送ったのだ。 この会社はミチヨに決まるかもしれない。 仕方ない。私は別を探そう。 面接が終わったらすぐハローワークに行ってみようとリョウコは思った。 面接が終わり会社を出たらミチヨが車から出てきた。 ああ、待ってくれていたんだ。 リョウコも話したかったから嬉しかった。 それから二人はそれぞれの車で移動して かつて、私たちのたまり場だったあの喫茶店に入った。 ガラガラと音がするドアを開くと店内からは静かにジャズの音色が流れていた。 「おっ、いらっしゃい。いつものでいいかい?」 グラスを磨きながらマスターがミチヨに話しかけた。 二人はいつものコーヒーを飲み最近のことを話した。 リョウコは久しぶりに気の合う人と話しができていつもより饒舌になった。 今の職場はまだ入ったばかりと言うこともあり、会社では私語をほとんど言えない雰囲気だったから尚更だ。 会計事務所時代は本当に忙しかった。 特に確定申告の時期になると、毎日残業で、夕食は近くの中華料理屋さんにみんなで出かけそこで食べていた。 特に炒飯が美味しくて、家で待っている子どもたちへのお土産として買って帰り、玄関で出迎えた子どもたちは小躍りしていた。当時、保育園児だった長男は今年高校に進学した。 毎年1月から3月14日までは 夕食を自宅で食べられる日は3分の1くらいだった。 2月にもなると、駆け込みの顧問先様が多くなり、休日出勤が当たり前で、リョウコ達は一緒に戦う同志のようなものだった。 琥珀色の空気の中で、大きくなった子供の話や夫への愚痴、親の介護の大変さなどを話し、「同じ40代同志、頑張ろうね」と言って二人は分かれた。 その後、ミチヨがその会社に入社し、リョウコもほどなくして別の会社に就職できた。 お互いの親の通夜の席で顔を合わせ、その後も何度かあのマスターのお店で落ちあい愚痴や将来の夢などを語り合っている。 長い人生の中で、ずっと離れていたのにひょんなところで一緒になる。 再開した時は昨日も会っていたような近さを感じる。 ミチヨとリョウコはそういう仲だった。 離れていても心の奥底では繋がっている。 そんな人がこの世に一人か二人は居る。 それは配偶者だったり親だったりする。 ミチヨはリョウコにとって心のキーマンなのかもしれない。 今回は 心のキーマン(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

鳴らない電話(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1614日目(4年余り) ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 鳴らない電話(ショートショート) をお伝えいたします。 十数個ある事務所内全員の電話が一斉になった。 先週の土曜日、会社の電話器が一斉に新しくなった。 コールの音はこれまでよりも高音で、一台なら少し高級感のある音に感じるが、十数個が一斉に鳴り出すと心臓に悪いと感じる人が半数だった。 早速、取り扱い説明書を見ながら電話器の音を低くしてみた。 電話機の音のデフォルトは2のレベルになっていた。 それらを全て1レベルにして回った。 全て直し、試しに携帯電話から会社に電話を掛けてみた。 しかし、それでも電話の音は騒音の部類に入っていた。 「電話器、鳴らないように設定したら?」 誰かが言った。 えっ。鳴らない電話器ってあるの? 一瞬、その発想がばかげていると思った。 しかし、取り扱い説明書にやり方があった。 そして男性陣の電話は鳴らない設定にすることになった。 着信音が鳴らない電話器は一見、おかしいような気がするが、これはありうることだ。 ワンフロアになっていて、電話に出るのは半分の人数の女子社員だけだから、その人たちの電話だけ鳴るので十分だ。 そしてまた試しに電話を掛けてみた。 しかし、まだ不快なレベルだった。 今度は女子社員の電話機を消音設定にしてゆき、結局、4台だけ呼び出し音がなるようにした。 他の電話器は音はしないが、光ってお知らせされるし、ナンバーディスプレイでどこから電話がきているかが分かる。 電話がかかってきた時に鳴って当たり前と思っていた電話器。 ある方の記事を読んで、音に敏感な症状の方がいらっしゃることを知った。 鳴らない電話器。 これは、様々な方への配慮なのだと気づいた。 健常者の自分が基準ではなく、さまざまな状態の方々が使えるもの。 それが当たり前の世の中なのだと改めて感じた。 今回は 鳴らない電話(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

気づいていないのは…(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1590日目(毎日4年間)。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 気づいていないのは…(ショートショート) をお伝えいたします。 サチヨは今日も相変わらず忙しい いつも通り6:50に家を出て 徒歩10分で会社に着いた 営業の佐藤さんが既に机に座っていた。 「おはよう」 「・・・」 あら? 今日は佐藤さん 挨拶を返してくれない。 えっ!この私に知らんぷり? 奥様と喧嘩したのかしら。 ま、いいわ。 サチヨは朝の清掃を始めた。 うんと背伸びをして玄関の窓拭きをする。 入り口のガラスに自分の姿が今朝は映っていない。 光の屈折の関係かしら? 毎朝であう60代くらいの男性が会社の前を通り過ぎようとした。 サチヨは毎朝、その方に挨拶をしている。 でも今日はその方、何か考え事をしていて うつむき加減で通り過ぎた。 あらあら、今朝は元気がないわね。 さ、掃除が終わった。 会社は9時からだから皆さんはまだこない。 皆さんが来るまでの間は頭の整理ができる時だ。 さぁ、がんばろう。 佐藤さんにもう一度声を掛けたけれど気づいていない。 仕方ない。 それにしても私の机の上、どうなってるの。 いつも自分用に書類を山積みにしているのに今日はなぜか机周りがきれいにされている。 誰が勝手に片付けた? やりにくいったらありゃぁしない。 田崎さんが来たら聞いてみよう。 そして、右側の白いユリの花瓶が1番邪魔。 誰か寄せてくれないかしら。 今回は 気づいていないのは…(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

様々な色が舞う時刻(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1591日目(毎日4年間)。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 様々な色が舞う時刻(ショートショート) をお伝えいたします。 「マオさん、今、出かけられる?集金を2件、お願いしたいんだけど。」 「はい、大丈夫です!」 係長のアツコが集金用のお財布と領収証の綴りを持って近寄ってきた。 出かけられる?と聞いているのに既に領収証を持って来ている。 そんなものだ。駄目って言えない。 私はパートだもん。 それに出かけるのは気晴らしにもなるからラッキーなだけ。 キラキラ光るアイシャドーが映えるその目を細めてマオはアツコへ微笑み返した。 今受け持っている仕事は実はマオには簡単な仕事だった。 イラストレーターでちょっと手直しすればすぐに終わる案件だから。 今日はその他に主任から頼まれているテプラを作ればとりあえずマオのすることはなくなる。 イラストレーターの案件が終われば次の仕事が来てしまう。だから、出来上がりの時間をうまく調整しないとね。 なぜか私は社長や皆さんに好かれている。 この会社、チョロイと思う。 好かれるコツはこれまでの社会経験上、知っている。 パートという立場でもあるから、出しゃばらず、あくまでも自分を前面に出さない。 でも、伝えたいことはきちんという。 そうすると、私が気づかせたのではなく相手が気づいたと勘違いして相手は気を良くする。 それでいいとマオは思っている。 大事なのは自分の意見をゴリ押しせずに 相手に気づいてもらう事。 「久しぶりの連休、結局、ダラダラ過ごして終わっちゃった。」 給湯室で一緒になった正社員のA子さんから話しかけられた。 「そうですよね。そんなもんですよね。」 マオは心とは裏腹に、相手に同調してやり過ごした。 貴重なお休みをただ漫然と過ごすなんてもったいない。 私はパート。他は正社員。 私には保育園児の子どもたちがいる。 皆さんは40代以上で子育てが終了した年代。 私の仕事は9時-16時。皆さんは8時-17時でほぼ毎日残業。 私は帰宅後、趣味のネイルの研究中。いつかは自分のお店を出したいと思っている。 「きれいなネイルね。私にもやって!」と声を掛けてくださる方に、今は勉強のつもりで無料でさせてもらっている。 たくさんのトライとフィードバックを積み重ねている段階だからそれでいい。 *** 「ショウコさん、集金お願いしていい?」 マオは入社間もないショウコに集金をお願いした。 マオの子どもたちはまもなく小学校高学年になる。 あれから係長だったアツコが急逝した。 当時のアツコの机周りは異様な雰囲気だった。 たくさんの未処理の書類がクリアファイルで分類され、それを事務用保存箱に種類ごとに入れられていた。 机の周りはその箱が積まれ、彼女の机周りはまるで「要塞」のようだった。 表立って誰も言わないが、彼女の死は絶対過労死だと誰もが認識している。 アツコが亡くなってすぐに社長に呼ばれ、 彼女の代わりをマオにやってほしいと社長から言われた。 勿論、パートから正社員になるということ。 そして、最初は平社員だが、3か月後に係長へと飛び級させるということだ。 マオはそれまでアツコから細々とした仕事を任されていた。 誰もその仕事を知らなかったからマオの経験は貴重なものだった。 マオは社長のお話を次の提案をのんでもらい快諾した。 ◆アツコさんが持っていた仕事をできるだけ分散すること ◆サービス残業はしないこと ◆定時で上がることを「当たり前」にすること ◆繁忙期以外は休日出勤を極力しないこと ◆社長ができることは社長がされること ◆特定の人に仕事が集中しないようにすること ◆銀行に行くなど、誰でもできることは誰かにしていただくこと 係長のアツコは本来の自分の仕事以外に、 たくさんの「彼女でなくてもできる仕事」を自分から抱え込んでいた。 なんでも自分がしないと納得しない性分だった彼女は、気が付いたら本来するべき仕事以外のことで溢れてしまい、通常業務が綱渡り状態だった。 人がするべきことは大きく4つにわけることが出来る。 ◆「緊急で重要であること」 ◆「緊急で重要ではないこと」 ◆「緊急ではなく重要なこと」 ◆「緊急ではなく重要でもないこと」 特に上に立つものは、「緊急ではなく重要なこと」に取り組む必要がある。 しかしそのためにはまず、「緊急なこと」をやる必要がある。 彼女は常に「緊急なこと」をこなすだけで、いや、それさえもこなしきれずに毎日を送っていた。 「こんなに時間を費やしているのにどうして仕事が無くならないの?」 彼女はその理由が分からなかった。 残業をすればそれらはこなせると勘違いしていた。 彼女は疲弊していた。しかし、それに彼女は気が付いていなかった。 「残業さえすればなんとかなる」 45歳のアツコは自分の体を過信し過ぎていた。 アツコに今一番必要な事は「休むこと」だった。 それには今、持っている仕事を手放すことが必要だ。 社長や主任から「自分でなくてもできることは極力手放してみてはどうか」と言われた。しかし、今握っているこれらを彼女は手放したくなかった。 完璧主義のアツコにとって、今までやっていたことを手放すのは「挫折」であると思っている。 だから、たくさんのモノを握りながら彼女はずっと歩き続けた。 そしてある日、彼女の目の前は真っ白な世界に変わった。 パートだったマオも、アツコの行動は異常にしか見えなかった。 「私は彼女のようにはならない自信がある。」 マオは現在、自宅の一室で 子どものお母さんたちからの要望で ネイル教室を開いている。 *** 「さぁ、あと5分で終業時間です。 皆さん、帰る支度、大丈夫!?」 「はーい!」 明るい声が事務所内に響いた。 仕事用に控えめに施された綺麗な指が、机とキャビネットの行き来をし、様々な色が宙を舞う。 それは終業時刻を知らせる合図のようだ。 今回は 様々な色が舞う時刻(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

カイジ(ショートショート)

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1599日目(4年余り) ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 ※画像はイメージです。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は カイジ(ショートショート) をお伝えいたします。 カイジは大人だった。 私より2歳しか離れていないのに彼の言葉は一言一言、優しかった。 久しぶりにあった彼は終始にこやか。 話しながら宙に舞う彼の大きな手は私に会えて嬉しい気持ちを表現していた。 嬉しいのは私も同じだった。 私は今日の為に美容院でヘアスタイルの施術をしていただいた。 それは数万円するのだが、綺麗になるならそれは自分への投資だと信じている。 カイジとは、マッチングアプリで知り合った。 私はそろそろ結婚相手を見つけたいと思うお年頃。 SNSだけのやり取りだけで結婚相手は決められない。 どんな人かは会ってみないと分からない。 会ってくれた相手はほぼ100%私を好いてくれた。 そりゃそうだ。 私、自分に自信があるもん。 私の仕事は営業。 口から生まれてきた「口達者」と親によく言われる。 背中にサラリと揺れる長髪。 学生時代にバドミントンで鍛えた体はメリハリバディ。 思考はポジティブ。 3度目にあった時にカイジからプロポーズされた。 全くひねりのない直球のプロポーズだったが素直に嬉しかった。 彼は素晴らしい人で私を愛してくれている。 私も彼を尊敬していた。 でも、彼は職業上、会えない期間がある。 それは一旦出発すると数か月戻って来ない。 そして、場所によっては携帯電話が通じない。 募る思いが愛を深めることもあるが、それは恋愛までの美談であり、もしも結婚したらそれは美談でもなんでもない。 例えば子どもが生まれたら、私の理想は子どもを二人で育てたい。 共働きの両親を見て育ったからその思いが強いのかもしれない。 子どもは二人の愛によって生まれたはずなのに、育児のほとんどは母がしていた。 母も仕事をしていたから母は私から見えないところではいつも疲れた顔をしていた。 父は帰宅後お風呂に入ってぐっすり寝てしまい、母は私たち子どもの世話や台所の片づけ、掃除、洗濯をしていた。 時々、母のとなりに座ってハンカチをたたむお手伝いをすると、「ありがとぉ」って母はいつも満面の笑みをする。 小さい頃は母のその顔を見たくてお手伝いをしていたが、その内、その満面の笑みがかえって悲しく見えてきた。 家のことをほとんど手伝わない父を見てきて、私は家事・育児に責任を持つ人と一緒になりたいと思うようになった。 カイジは仕事柄、任務に戻ったら数か月は帰ってこない。 そして行き先は家族であろうが知らされない国家秘密なのだ。 人並み以上の生活費は入ってくるだろうが、彼にいてほしい時に彼はそばにいない。果たしてそれが「夫婦」と言えるのか。 私は二人で家庭を作っていきたいと思っている。 カイジは理想的な人だった。 職業以外は。 結局私たちは分かれた。 海辺に一人立つ。 潮の香りがチクリと胸を刺す。 押しては寄せる波は私の思いと同じ。 美容室で整えたばかりの長髪に指を通すとさらさらと落ちる。 *** 「ママ~、絵本読んで~」 息子が大きな絵本を持って私のひざの上に座ってきた。 「うん。分かった。どれどれ~」 私はたくさんの船が載っている絵本を開いた。 「僕ね、大きくなったらお船に乗るの~」 「そぉなの~。すごいねぇ~」 息子は指しゃぶりをしながら絵本を食い入るように見ていた。 今回は カイジ(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

100年後の冬(妄想の世界)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1587日目(4年超)。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 100年後の冬(妄想の世界) をお伝えいたします。 外に揺れているシーツが 気持ちよさそうに夏の空を泳いでいる。 地球温暖化が進む雪国の夏は 30℃や35℃越えが連日続いている。 28℃が涼しく感じられ、ふと自分の感覚がおかしくなっていることに気づく。 21xx年 ねぇ、えみさん。 知ってる? 今年は雪が多いそうよ。 うんうん、知ってる~。 良かったね~。 冬になると洗濯の棒のあたりまで雪が積もる。 今は、雪が降るとその降雪量によって物価が下がる仕組みになっている。 電気・ガス・水道・ガソリンなどが安くなる。 その財源はどこからきているのか。 それは 国会議員、県議会議員、市議会議員それぞれの報酬からきている。 100年位前は議員さんに年間で数百万円~数千万円の議員報酬を支給していたが今では一般企業の従業員並みに変わった。 まだ令和だったあの頃は 運転手付きのハイヤー グランクラスの新幹線 ファーストクラスの飛行機 領収証がなくても経費と認められる交際費は年間百万円だった。 一般企業では、たった数百円のコーヒー代でさえ、誰が何のために使ったのかをはっきりさせないと経費と認められないのに、議員の場合、使途不明金のままでも経費に落とせていた。 それがやっと改善され、領収証があるものだけが認められるように変わった。 議員用の高級宿舎は取りやめになり、一般の人たちと同じ住居に住むようにした。 これは国民と同じ生活レベルで国政をつかさどるためでもある。 各国のトップ会談は、3回に1度だけ集まることにし、普段はPC画面での対談に変わった。 年々、平均気温は上昇し 酷暑を乗り越えるために 一般家庭でもエアコン設置は義務化された。 エアコンが無い家は欠陥住宅と位置付けされ すぐに取り付けるようになった。 その際の費用は全額国の負担になる。国民の健康を守るための経費だから当たり前のことである。 雪国の各家庭の屋根には融雪機器が取り付けられ、屋根の雪下ろしで亡くなる事故はなくなった。 道路もアスファルトの下にヒーターが敷設され深夜2時頃からの除雪車の稼働はなくなり、冬道の運転は100年前に比べてとても楽にそして安全になった。 屋根からの溶けた雪と道路の雪は水となりダムに貯槽され夏の水不足対策に一役かっている。 地球の気候を人間が変えることはできない。 だから人間が地球に合わせて生活をしていく。 今回は 100年後の冬(妄想の世界) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

このからだが無くなるその時まで心はちゃんと生きていたい(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1549日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は このからだが無くなるその時まで 心はちゃんと生きていたい(ショートショート) をお伝えいたします。 のり子: 「さやちゃん、人生、いろいろあるけれど、それでも生きていこうね。 前を向いていたら自分を見てくれる人、絶対、いるから。 私は毎日、やりたいことをやっていて時間が足りません。 毎朝4:30起床で文章を執筆し、それを音声収録して公開しています。 毎日欠かさず投稿していて、連続投稿1500日は過ぎて、更にその上を目指しています。 最近、新しい勉強も始めました。今、知識欲がわんさか湧いてきています(笑) さやちゃんはまだ若いから、やりたいことは何でもやっているんだろうなぁ。いいなぁ若いって。 昔に戻りたいとは思わないけれど、やっぱり若い人は羨ましいです。」 さや: 「ありがとう。 お誕生日のお祝いできなくてごめんね。最近、心に余裕がなくていつの間にかのり子の誕生日通り過ぎていました。改めてお誕生日おめでとう。 そしてnote、そんなに長く続けているんだね。素晴らしい。 たくさん興味があるって幸せだね。 時間がいくらあっても足りないね。(笑) 生きているうちにやりたいこと、やろうね。 私は最近、仕事が定まらないけれど、英会話習うことにしたよ。 ずっとやりたかったから。自分は中学英語のレベルしかないけれど楽しく頑張るね。」 のり子: 「誕生日のことは気にしてないですよー。 さやちゃんが悩んでいる時に力になれずごめんね。 でも、自分で決断したのは偉い。何事も自分で決めたらそれは勝者なんだって。自分の人生は自分で決める。 誰かが決めるものではないからね。 英会話、いいですね。さやちゃん、昔から英語、好きだったから。カッコいいなぁ。 私は独身時代、英会話教室に通ったことがあります。そしてそれは本当に良かったと今でも思っています。 それは、自分から話しかけるということ、言葉が分からなくても、相手に通じるように体全体で表現することを英会話教室で体験したから。 日本人は自分の意見を言わない方が奥ゆかしく美徳と思われている。というか、私はそう勘違いしていました。 だから、英会話教室に通ってみて、自分から相手の懐に飛び込めば、世界が変わってくるのを体感しました。 さやちゃん、まだまだこれからだからね。人生、諦めることないよー。 人生、何があるかわ分からないから、諦めるのは死ぬ時までとっておこうね。 これからの人生、いい事たくさんあるから。 悪いことも良いことも、同じくらいあるんだと、60年生きてきて感じています。 もしもさやちゃんがあまり良いことが最近ないと思っていたら、その分、これからわんさかやってくるから、きっと。 がんばろう。のんびり休みやすみがんばろう。死ぬまで生きていこうね。」 さや: 「そう、日本に住んでいると、みんなと同じが当たり前。個性よりも協調性の方が結局、重視されている気がする。そこから少しでも外れていると特別視される。 海外で活躍している友人の話では、幸せの形は様々で、どんな生き方も尊重されるような世界に飛び込んだことで、その人は物事に対して寛容になれたと言っている。 まだまだこの世の中、知らないことがたくさんあると思ったらワクワクするよね。 若い時にやっておけば未来はもっと違っていたかな~って。先送りばかりしてきたな~って、私はいつも過去ばかり見て後悔していることが多かったって、気づいている。 もう、〇歳だけど、まだ〇歳。 何かを始めることが大事だなと思う。 のり子はいつもキラキラしているよね。新しいことに挑戦している人は輝いているなって思う。 少しずつ、やりたかった事やこうなりたいと思う自分の理想に近づけるように頑張るよ。 今まで相当、自分に嘘をついて生きてきたから(笑) このからだが無くなるその時まで 心はちゃんと生きていたいね。」 今回は このからだが無くなるその時まで 心はちゃんと生きていたい(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 P.S. 8月11日までに4冊目のkindle出版をすることをコミットします! その制作過程を有料グループチャット 【ゆりのkindle制作の裏側】でお見せしています(*’ω’*) 詳しくはこちらのnoteをご覧ください。 ↓ https://note.com/tukuda/n/naf56c832a19b ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

祭りのお決まり(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1555日目。 ※音声収録中に隣の部屋に娘が降りてきました。あぁ、恥ずかしい。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 祭りのお決まり(ショートショート) をお伝えいたします。 自動ドアが開いた 「いらっしゃいませ~」 祭りのはんてんを来た小学生がやってきた。 あぁ、そうか。 今年もそんな時期か。 大きな山車を運行する夏祭りが始まった。 山車が街のメインストリートをまわる日と町内を練り歩く日がそれぞれ割り当てられている。 町内を練り歩く日は「寄付」をいただきに各家庭や事業所をまわり歩く。 その役目は大人だったり今のように子どもだったりする。 「あのぉ~。キフをお願いします。」 きっと大人からそう教え込まれているのだろう。 「はいはい、分かりました。」 厚子はお店の金庫から500円を出してその子に渡した。 「領収証が欲しいんだけれど、僕、持ってる?」 厚子は腰を低くしてその子に聞いた。 「えーっ!ない!」 まただ。 どうして毎年毎年同じことが起こるのか。 「あのね、領収証ないとお金、渡せないの」 「リョウシュウショ」 その子はそれを口にして出ていった。 まもなく大人の人がやってきた。 そしてその女性は領収証を書き始め、途中でもじもじしながら聞いてきた。 「あのぉ~。金額はいくらでしょうか?」 はぁ~? (さっきの坊主が持って行っただろうが!) 「500円です」 厚子は心とは裏腹ににこやかな顔で応えた。 やがてその人は帰って行った。 厚子の勤務先は、メインストリートに面している。だから、お祭りの寄付集めのターゲットにされている。 厚子の会社は少額であろうと領収証がないとお金を出してはいけないと上から厳しく言われている。 お祭りの寄付を集めて回る人たちは 領収証を出すという事を主催者側から指導されていないらしい。 いただく側としては「少額だから」と認識しているのだろう。 だから毎年、この時期になると領収証のことで面倒なやり取りをすることになる。 しかも、一日に複数の町内会の寄付をつのられ、やることいっぱいの厚子としては厄介な事でしかない。 寄付を集めに来るのはほとんど小学生のような子どもである。 子どもが寄付をねだったら財布のひもが緩む作戦なのだろうが、あいにく独身の厚子にはその効果はない。子どもが苦手だから尚更である。 自動ドアが開いた。 別の町名のはんてんを来た子どもがキョロキョロしながら入ってきた。 厚子はため息をつきながらその子に作り笑いで対応した。 今回は 祭りのお決まり(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 P.S. 8月11日までに4冊目のkindle出版をすることをコミットします! その制作過程を有料グループチャット 【ゆりのkindle制作の裏側】でお見せしています(*’ω’*) 詳しくはこちらのnoteをご覧ください。 ↓ https://note.com/tukuda/n/naf56c832a19b ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

すべてお見通し(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1572日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は すべてお見通し(ショートショート) をお伝えいたします。 角2の茶封筒を抱えながら私は社長室へ入った。 PCの電源を入れ今日の状況を見ようとした。 「社長、おはようございます!」 事務のけい子がドアをノックし勢いよく入ってきた。そして湯飲み茶わんを静かに置いた。 今日はやけに張り切っているな。 「社長、予てからの書類がやっとできました。赤い付箋の箇所に法人の実印をお願いいたします。」 けい子が深々とお辞儀をして社長室を出て行った。 そうか、それがあったな。 私はポケットから鍵を出し机の引き出しを開けた。 その中から金庫の鍵を出し、自分の胸辺りまでの高さの金庫を開けた。 中には社判と法人の実印、銀行印が収められている印箱があった。 私はそれを取り出し、捺印マットを使いながら法人の実印を押していった。 30か所くらいはあっただろうか。 社長は印鑑を金庫にしまって内線でけい子を呼んだ。 「これ、終わったから。後はないか?私はこれから隣の市の〇〇銀行に行きます。今日はあと、帰ってこないから。」 「はい、かしこまりました!お気をつけて。」 けい子は元気に答えた。 ちょろいものだ。 俺を尊敬しているといつか言ってたな。 彼女はまっすぐで、人を疑う事を知らない世間知らずだ。 だから、私はやりやすい。 おっと、急がなくては。 ここと、ここを印刷しよう。 社長室のPCは事務所の複合機と繋がっている。 複合機がプリントしだしてそれと同時に社長が複合機に近づいてきた場合、誰も複合機には近寄らない。なるべくそちらを見ないようにしている。 それは、資金繰り表や人事関係をプリントアウトすることがあるから周りの皆さんは複合機に近寄らないように気を使っている。 出てくる紙を引っ張るように取り出し私は封筒に入れた。 これでよし。 時間は大丈夫だ。さぁ、出かけよう。 私はPCの電源を落とし、今プリントした書類が入った封筒を脇に抱えて社長室を出ようとした。すると経理部長が近寄ってきた。 「社長、お出かけですか?A商事様がお越しになるのは明日の朝10時です。よろしくお願いいたします。」 彼女はそう言ってニヤリとした。 こいつは気を付けなければいけない。 気が利いて全てそつなくできる。その笑顔の下に何を考えているのか分からないもう一つの顔があるやつだ。 「あぁ、分かっている。じゃぁ。」 私は軽く右手を上げ会社を出た。 経理部長はその後ろ姿を見送ってから複合機に近づいた。 そして、画面をタッチしてある書類を出力した。 それはプリント履歴である。 これは彼女にだけ許される操作だった。 「やっぱり」 その履歴の最後は 競馬情報のプリントが続いていた。 今日も社長は銀行に寄るのは口実であり、その後ほぼ一日を競馬場で過ごされるのか。 誰にもバレていないと社長は思われているが残念でした。 私には全てお見通しなのだから。 新聞と封筒を大事に抱えて出ていくときはほとんど、馬か船か玉。 そして予想外に早く戻られた時は負けた時。 すべてお見通しなのだ。 今回は すべてお見通し(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+