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 母が施設に入って一年がたつ。サービス付き高齢者住宅、いわゆる「サ高住」だ。それまでの数年は週に三日のデイサービスとショートステイで、なんとか在宅介護を続けてきたのだが、体調を崩してしばらく入院のつもりが、予想外に認知症が進んでしまい在宅での介護が無理になってしまった。

 母の認知症は主に排泄の問題だった。トイレをしたことを忘れて、ベットに横になったかと思うと、5分もたたないうちに、また行きたがる。足がふらついて危ないので、ベットの脇に置いたポータブルトイレも介助なしでは無理なのだ。「おむつをしているから、間に合わなくてもいいんだよ」と、いくら話しても、母の気はおさまらない。夜中に何度もトイレに呼ばれるのはきつかった。それに、もっと恐ろしかったのは、夜中に寝ぼけてベットの上でおむつを下げておしっこをしてしまうことだった。深夜に母のパジャマが濡れていることに気がついて、シーツまで全部着替えさせなければならないことが何度か重なりそのたびに泣きたくなった。自分の母親だからこそ排泄の世話は辛いのだ。現実を受け入れられなかった。

 私一人で母の介護をするのは、もう無理だと思った。もう5年も朝夕の食事を運び、洗濯物をし、デイサービスの時間に合わせて生活してきた。ベット脇のポータブルトイレの始末も、オムツも替えてきた。負担を分け合う兄弟もいない。もう限界だった。

















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