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わたしと読書|こんな日は喫茶ドードーで雨宿り。

朧の読書記録 #2


  標野凪『こんな日は喫茶ドードーで雨宿り。』双葉文庫,2023年

  令和5年6月28日〜7月12日 読了



いったい涙ってどれだけ在庫があるのだろうか。

この本にはそんな言葉がある。
前作『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』に続く今作も、全5話の短編集からなる。悩みを抱えた主人公たちが、おひとりさま専用カフェ「喫茶ドードー」を訪れ、店主そろりの料理で元気になる物語だ。
今作の5話全て、共通するのは「言葉」だったと思う。「言葉」ひいては「言霊」
自分が発した言葉、他人からの言葉、全て魂が宿った言霊によって、心が雨模様になっている5人いや6人それぞれの言葉にまつわるお話だ。

ぜひ読んでいただきたいので、細かい内容の紹介は省いておく。
代わりに、わたしの心に残った言葉たちを紹介することで、この本の読書記録としよう。
ただ一つ言うとするならば、第一話に登場する主人公に影響を与える後輩、榊はづきも喫茶ドードーを訪れることができますように。


わたしの言葉に対する思い出、考えにしっくりきた文章の備忘録

それは親との軽い雑談であって、別に注意を喚起したわけではないのだろう。
でも、夏帆はその言葉がいまでも頭に残っている。

13頁

よかれと思って発した言葉が、誰かを傷付けていることに、我々はいつも気づかない。

84頁

無理をしたのは、泣かないことではない。ここへわざわざ足を運んだことだ。涙はこれまでもちゃんと分かち合える人の前で見せてきた。
わかったような綺麗な台詞を吐かないでほしい。

102頁

彼女たちはよかれと思ってかけてくれた言葉だ。それはもちろんわかっているし、気にかけてくれたことはありがたい。
それでも和希は辛かった。むしろ何事もなかったかのように振る舞ってくれたほうが楽だった。

「でも向こうは私に気遣ってかけてくれた言葉なんです。それなのに素直にありがとう、という気持ちになれなくて」

108〜110頁

悪気がないのだ。本人は親切心で言ってくれているのだろう。
大きなお世話だ、とはとても言えない。

142頁

気にしていないことを殊更に取り上げられて、そのたびに思い知らされる。

177頁

当時、自分はたくさんの人に囲まれていた。慕ってくれる後輩や頼りにしてくれる上司にも恵まれていた。でもいつもひとりだと感じていた。多くの人の中で感じた孤独は、たったひとりでいる孤独とは全然違う。居場所がなく、自分が存在する意味が見出せない。寂しいというよりも、もっと切実に辛かった。

213頁


わたしに新しい考え方と勇気をくれた文章たち

「いいえ。何度も自分なりに作ったからここに辿り着いたんです。
自分のペースや尺度ってなかなか変えられるものじゃないですから」

68頁

「あなたは実際にその方々の言葉で傷ついた。
それが全てよ。よかれと思ってかけられた言葉かどうかじゃなくて」

111頁

繋がり、絆……。世の中にはそうした便利な言葉が氾濫している。表面上はとても美しい言葉だ。もちろんちゃんと的を射ている時もあるし、心がこもって相手に届くことのほうが多いだろう。でもこういう言葉こそもっと気を配って用心して使うべきだ。

111〜112頁

「立場が変われば考えも変わる。それは仕方のないことです。だから知らなかったことを知っていく、それが大切なんです」

157頁

言葉を発する際に、いったん立ち止まって相手の立場や背景を想像したほうがいい。

「でも、あまり考えすぎてしまうと、何も言えなくなってしまう。だから訓練するんです。戻ったり、やり直したりしながら」

158頁

「世間」では、画一的な美しさが基準になっている。

誰かが決めた「正しい」とする方向に皆が向かい、同じものを追求する必要があるのだろうか。

192頁

時が経てば悲しみも憎しみも癒えていく、それを「日にち薬」というそうだ。
時が解決する、という意味に近いだろう。
ただし日にち薬は即効薬ではない。ゆっくりじわじわと時間をかけて効いてくれるのだという。

82頁



連続テレビ小説第104作『おかえりモネ』が好きなわたし。
この本を読んで思い出したシーンがあった。
人の相談は聞くことができるのに、自分の深いところの話をする勇気がないわたし。
それがどうしてなのかちょっと分かったような気がしたこのシーンの言葉を、この本の記録にも添えて、終わることにする。

生きてきて、何もなかった人なんていないでしょ 何かしらの傷みはあるでしょ
自覚しているかしていないかは別として

毎日笑っている人も何かしら傷みはあるよね 何も言わないだけなのかもね

言えないですしね 相手の方がつらいんじゃないかって思うと

体の痛みも心の痛みも本人でなければ絶対にわからないんですよね

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