エールさん

それは、ある日の出来事でした。僕がウトウトと部屋の机の上で眠りかけていた時、ふと誰かの気配がして目を覚ますと、指先に人と昔飼っていた猫のパルが乗っていた。

親指にはお侍さん、人差し指にはフライパンを持った綺麗なお姉さん、中指にはギターを持ったカッコいいお兄さん、薬指には大きな太鼓を持った髭の立派なおじいさん、小指にはパルがそれぞれ乗っている。

 僕はとても驚いて尋ねました。「君たちはいったい誰なの?」一番先に答えてくれたのはお侍さんでした。「拙者か?拙者は君のご先祖様でござる」「ちょっと君の様子を見に来たのでござる」「何か困っていることや悩みはないかね?」そうご先祖様から聞かれて僕は答えました。

「そうだなぁ、ちょっと学校で嫌なことがあっちゃって、最近学校に行けてないんだ」そう答えると、ご先祖様は言いました。

「人生は山あり谷ありだけど、焦ることはないない、君なら絶対大丈夫!」そう言ってニカっと笑って、僕にピースサインを送ってくれました。「なんだこのご先祖様は、お侍さんのくせにやけに明るいぞ」そう思いながらも「ありがとう、ご先祖様がそう言ってくれてなんだか元気が出たよ。僕にこんなご先祖様がいたなんて知らなかったな。またお墓まいりに行くよ」そう話しかけると、ご先祖様はまたニカっと笑って親指から消えました。

 次に答えてくれたのは人差し指のお姉さん。「私?私は君にお料理を作りにきたの。最近コンビニのお弁当ばっかり食べているでしょ。たまには私が美味しいお料理を作ってあげるわね!」お姉さんはそう言うと、料理を作り始めました。ジュージュー、お肉の焼けるいい匂い。サクサク、キャベツを刻む軽快な音…。なんだか無性にお腹がすいてきました。「さぁできた!愛情ハンバーグのでっきあっがりー。さぁさぁ、温かい内に食べて食べて」

「ありがとう、お言葉に甘えていただきます」ぱくっと一口、ハンバーグを口にすると、じゅわぁっと口の中にお肉の味が広がって、ジーンと体中が温かくなるのを感じました。「こんな美味しいハンバーグ、今まで食べたことがないよ。作ってくれてありがとう、とっても美味しかったです。ごちそうさまでした」僕がそう言うと、お姉さんはにっこり微笑んで、人差し指から消えました。

 中指のお兄さんは、「君の応援ソングを歌いに来たんだ」と言いました。「君は今までよく頑張ってきたんだね。いろんな事があったけど、君はこれからきっと必ず幸せになるのさ。自分を信じて自分を信じて、イッツオーライ!」ジャカジャン、ジャンジャン。ギターの音色とお兄さんの歌は、なんだかとっても心に響きます。

「ありがとう、お兄さんの歌とギターを聞いたら、なんだかとっても勇気が出たよ。僕もギターを弾いてみようかな。お兄さんみたいに上手く弾けるかな」僕がそう言うと、ジャーンとギターを鳴らしてお兄さんはウンウンと頷きながら、「イッツオーライ!」と言って中指から消えました。

 ドーン、ドンドンドン、「そりゃ、フレーフレー!せいや、フレーフレー!」太鼓の音とお爺さんの大きな声が部屋中に鳴り響きます。「ワシは君の応援団長じゃ。今日は君を特別に応援しに来たのじゃ。えー、この度君は、特別にワシの応援する人に選ばれました。誠におめでとうございます!」ドンドンドン。

「応援なんて頼んでないけど、応援してくれて嬉しいよ。ありがとう。お爺さんの応援と太鼓の音は、なんだかとってもやる気が出るよ。僕も誰かを応援してみようかな。フレーフレーお爺さん、フレーフレー」お爺さんは僕の声に合わせて満足気に太鼓をドンッと叩くと、ガッツポーズをして薬指から消えました。

 「パル、久しぶりだね。元気だった?パルが居なくなっちゃって、僕はさみしかったんだ。僕のそばにはいつもパルがいてくれたから。そっちの世界はどうだい?友達はたくさんできたかい?」

「ニャァニャァ」パルは背伸びをしてゴロゴロと首を鳴らし、僕に体をすり寄せてきます。「今日はとても不思議な日なんだ。僕は夢でも見ているのかな」僕がパルにそう言った瞬間、パルは消え、「夢じゃないよ、君は一人じゃないんだよ。私たちはいつも君のそばにいて君にエールを送ってる。いつだって、どこだって私たちは君を応援しているんだよ」さっきの人達の声が一斉に聞こえました。

 きょろきょろと部屋の中を見渡して窓の外を見ると空に大きな虹がかかっているではありませんか。声は虹の方から聞こえます。「明日は学校に行ってみようかな」僕は窓の外の虹を眺めながら、そう心に決めました。

おしまい。

 

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