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私の明日はどっちだ?1-②

ちょっとした読み物を書いています。立ち読み気分でお気軽にどうぞ。

第一回はこちらから。


1-② 渾身の書類

「履歴書に貼る写真は、写真館で撮りましょう」

講師の方はきっぱりと言った。

「えっ!?そうなの??」初めて聞いた。成人式じゃあるまいし。

新卒ならまだしも、転職セミナーの参加者はそれなりの年齢の人が少なくない。みんながみんな何かしらの経験を積んだ強者とも…思われなかった。撮影代を調べてみると、5,000円以上はかかる。高い!(今の自分には)。今までは証明写真OK♪みたいな写真BOXでしかとったことがない。データ付き、美顔補正に数々のオプション…。これでは訳が分からないまま全部「アリ」でOKしてしまった契約のようではないか。

それでも誰かには「いや、できれば、くらいの程度ですよ」と言ってほしくて、恐る恐るハローワークの職員さんに聞くと、「まあご自分がよろしければ、ということですかねぇ」などと、遠回しに「推奨はできませんがね…」的な雰囲気を漂わせてくる。新卒人気企業ランキングに出るようなところなんて、誰も目指してはいない。そもそも自分を雇ってくれるような求人で、そこまで立派な写真が求められるとは思えなかった。

思えなかったが、不採用の理由は「写真が簡易だったことです」なんて言われたら悔やんでも悔やみきれない。「お金ないから求職活動してるんじゃん!」「じゃあお金ない人は望む仕事にもつけないわけ!?」と心のなかでブツブツ言いながら、やっぱり写真館で、しかし最安値の店で撮影したのだった。標準タイプの美顔補正付き。プレミアムを選ぶ勇気は…なかった。

そもそも写真館を選ぶかであれこれ悩み、撮るお店を決めたものの、では、どのプランを選ぶかで迷い、どうにか撮影は完了。これで写真はOKだ。やれやれ。

次なる関門は、書類の中身。履歴書のみでいいというアルバイトもあれば、がっつり職務経歴書が求められるところもある。今回はフル仕様での提出だ。あまり、というかほとんどキャリアと呼ぶにはうすら寂しい過去の経歴から微かなるアピールポイントを掘り起こし、いかに太らせていくかにかかっている。

転職セミナーで真剣に講義を聞き、そのお言葉に沿って自分史の棚卸しに着手。さらにハローワークの就職相談で具体的なアドバイスをもらい、さっそくたたき台を作る。今までは早く仕事を決めなければ、という焦りもあって、書類はこう作る的な内容はスルーしてきた。が、さすがに今度は最後の転職活動になるだろう。世間でこれだけはやりましょう!と言われていることは、とにかく何でもやってみる所存だ。

「私はこれまでこんなに一生懸命やってきたんです!」「わたしにはこんなに魅力的なところがあるんです!」といった自己満足に終わってはならない。適度に具体的なエピソードを盛り込み、企業が求めている人材の香りをほのかに漂わせ…。あまり行き過ぎると(いや、これは盛りすぎだ)と行きつ戻りつ、ぐったり。だが、これで内容は決まった。次は印刷だ。使う紙は家にあるものじゃダメなのか?ということでお店へ買いに走れば、就職書類用、高級ビジネス用紙、ちょっといい普通紙など様々、と紙選びで消耗。そしていざ印刷すれば、途中でインクジェットのライトマゼンタが不足しています、とプリンターがストを起こす。ライトマゼンタ、要らないのに…とぼやきつつ、それがないと動いてくれないので家にあった在庫と交換。が、何度やっても「不足しています」と出てくる。今、全くほしくないこの色を定価で買うほど経済的な余裕はない。近所で安~いインクを探したがそんなものはなく、(これだけでもう嫌になっちゃったよ)そのまま家に帰り再度プリンターの電源を入れる。…何事もなかったように動いた。むむむ、今までの苦労は何だったんだ!!一歩歩けば棒にあたりまくり、結局、下書きづくりだけで3日もかかってしまった。

4日目、そうして出来上がった下書き(できれば修正なしにそのまま使いたい、疲れた)を、ハローワークで添削してもらいに行く。いずれにしても日付は入れなければならない。全く手を入れずに使えることはないのだから、(気になるところはいくらでも言ってちょうだい!)とまな板の上のコイ状態で職員さんの言葉を待つ。

「よくできてますね」

「っつしゃ~!!!!」と心の声がつい口から出ていなかったか、自信はない。でも、とにかくもうあちこち直さなくてもいいのだ。帰宅後に日付を入れ、何度も何度も最終確認をし、投函できる状態になったのは夜の8時過ぎ。日付を明日にして、落ち着いて投函することもできたが、もはや一秒でも早く自分の視界からこれを消したかった。私はこれまでにないほどの迅速さで、郵便局の時間外窓口へ出かけて行った。

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今自分にある気力と体力を、全部使いきった気分だ。まだこれからがあるというのに。ただ、初めから無理だろうとは思いながら、「今の自分にできるだけのことはやった、これでダメでもまあしゃーないわ」と素直に思った。

諦めではないが清々しさとも違う、微妙さはあったけれど。




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